3-1.新しい日常
すこしだけ涼しかった夏がすぎて、もう秋へと移り変わろうとしているころ……わたしはまだモルファルたちのもとに居た。
ほんとうは夏休みだけだったみたいだけど、パパたちが言うには日本ではいろいろとバタバタしているからわたしたちは帰ったらめんどうなことになるそうで1年はここで過ごすべきと考えたみたい。
それを聞いたとき、わたしはおどろいたけど……いまの状況なら好都合だと思ってしまった。
ちなみに小学校はここからだと通えないため、通信教育を使うことになったみたいだった。……うまくできるか心配。
それとわたしにもひとつ変わったことがあった。
「おはよう、パパ、ママ、モルファル、モルモル」
「おはようシミィン」
「おはよう、シミィンちゃん~」
「おはようございます、シミィンさん」
「おはようシミィンちゃん」
あさ起きて、リビングルームに向かうとみんなが声をかけてくれる。
そして席に座ると向かいのモルモルが残念そうに口を開く。
「はぁ、シミィンちゃんがメガネをかけるようになったから素顔が見れなくて残念だわぁ」
「ん、ごめんね。モルモル」
「いいのよぉ。でも、目が悪くなっちゃってたのねぇ?」
「ん、そんなところ」
ほほえむモルモルにそう言いながら、わたしはメガネのずれをなおす。
メガネ。そう、わたしはメガネをかけるようになっていた。
相手からひとみが見えない厚いグルグルレンズがついた大きなメガネ。
それをかけることでわたしは見た目がすこしだけ地味になっているようになっていた。
とつぜんそんなメガネをかけるようになったわたしにみんなはどうしたのかと訊ねたけれど、目が悪くなったみたいと言ってごまかした。
……まあ、それはたてまえっていう言葉だったと思う。
このメガネは師匠が用意してくれた……まがんを抑えるためのアイテムだった。
これをかけているとわたしの目には地脈のせんも見えないし、溢れた魔力も見えることがないから助かる。
ずっとアレが見えつづけていたら、頭がおかしくなってしまうと1週間たって理解したから師匠が用意してくれた……。
ちなみにこのメガネは家のなかにあった使われていないメガネだったけれど、師匠が魔法で地脈などが見えない……まがんをおさえる効果をつけた物。
付与魔法というものらしいけど、学べばわたしも出来るようになるのかな?
そんなことを考えながら、わたしは朝ごはんを食べた。
朝ごはんが終わったら、夏休みのときは森の散歩だった。けれど今は自分の部屋にもどって、イスに座るとつくえの上にはこの中から勉強道具を取りだす。
モルファルの家は町からは遠い。だから勉強をするために学校に通うという選択肢は難しかった。
だからパパたちが相談して、通信教育っていうのを使って勉強することになった。
なんとかゼミっていう日本にある会社が海外にも勉強するための物を送ってくれるということで、パパたちがけいやくしてそこに決めて、わたしは午前と午後の決まった時間に勉強することになった。
学校でやるような先生の話をきいての授業と違って、ひとりでテキストを見ながら勉強をするのはすこし静かだった。
ときおり、モルモルがお菓子を持って来るけど……パパとママは居ない。
ふたりはしばらくモルファルの家で暮らすことを決めたと同時に1,2年ほど働けることができる仕事をここから離れた町で見つけて通っていた。
すこしだけ寂しいけど、わたしのためを思っての行動だからガマンする。
そしてその間のわたしの面倒をモルファルとモルモルがしてくれているから、ふたりは安心して通うことができた。
そんなわけでわたしは、午前と午後の決まった時間はお勉強の時間となった。
けど、魔法を教わるようになってからわたしは『ちしき』を得ることが楽しいと思うようになっていた。
なぜなら、魔法を使うには『ちしき』がもっとも必要だと師匠から教わったから。
自身の持っている魔力をねんりょうとして、ちしきを使うことで魔法が使えるようになる。というのが魔法の使いかたらしい。
だけどそのちしきが全然だったりしたら魔法は発動しないか、威力がないとのことだった。
そしてわたしは自分のまがんを調べるときに師匠が魔法を使うときに見せた魔法陣を視て、魔法陣を形つくっているのが何かということががわかった。
つまりは知ることができたちしきを使って自分で魔法陣をつくれるようになったら、新しい魔法をつくることができるということだった。
だけどそれは難しいことらしくて、ふつうの魔法使いにはまったくできないものらしい。
師匠は新しい魔法を知っているちしきから創ることができるみたいだけど、創るまでに時間がかかるみたい。
でも、わたしの場合……師匠が言うには、ちみゃくを視ることができるまがんの効果を使うことで、ちしきをそのままの形で魔法陣に作り変えることができてしまう可能性があるとのこと。
そして、それを言っていた師匠は、今も森のなかでわたしが来るまで、ひとりでめい想をしている……ことはなかった。
『ふむ、なるほど……やはりこの世界の言葉は興味深い』
「ししょう、面白い?」
『うむ、この世界の童話というのは、いろいろと発想力が凄くて面白いではないか。それにこの世界に存在する様々な文字を分かりやすく理解するには、こういう子供向けの本が一番だというのが改めて気づくことができる』
わたしの部屋の本棚の前、そこに師匠はいた。
とはいってもそこに居るのは師匠本人じゃなくて、師匠の意識をいちじてきに移された
わたしが抱きあげられるほどの大きさぐらいのぬいぐるみだけど、それが自分でぽふぽふと歩いて……本棚から絵本を取り出して本棚の前で座って読んでいるのはなんだか不思議なこうけいだけど、それはもういつものこうけいだった。
夏休みのときは師匠のところに行くときに手提げかばんの中に本を持って行ってたけど、いちどに持って行ける本のかずは少ないし、毎日本をもって出かけているとパパたちに不思議に思われるかなと師匠に相談してみたら、つぎの日にビー玉のようなものを渡してきた。
渡されたとき、わたしは師匠にたずねた。
「ししょう、これなに?」
『お主が気にしていることの解決策じゃな』
「かいけつさく?」
『うむ、これは依り代の中に入れることで精神をそちらへと移すことができる魔法が込められておる。つまりは遠くに居たとしても行動が出来るものじゃな』
「なるほど」
アニメで見たことがあるようなものを想像しながら、わたしは頷き……その日、家に帰ってから部屋のなかに置かれていたエルクのぬいぐるみの中にビー玉を入れた。
するとその日の晩、師匠が言っていたようにぬいぐるみは動きだし、師匠の声で話しかけてきた。
そうして、わたしは師匠といっしょに勉強を行うようになっていた。
つまりは部屋のなかにわたし一人だけだけど、実際のところは二人だったりする。
●
午前の勉強の時間が終われば、モルモルが用意してくれたお昼ごはんを食べ……午後の勉強を始めるまで自由時間になっていた。
その時間でわたしは色々なことをはじめた。
森に行って師匠に会いに行ったり、家のなかのぬいぐるみを抱いて移動してモルファルの書斎で本を読んでみたり、ぬいぐるみを抱きながらリビングルームでテレビを見てみたり、モルモルやモルファルたちと日が当たるバルコニーでフィーカをしたりした。
森に行くときはキッチンに行ってこっそりとパンを持って行っていたけど……キッチンにいつも立っているモルモルやパパにはパンが減っていることはバレていたみたいで、いつからか決まった場所にパンが数個ふくろに入って置かれるようになっていた。
きっと森で見つけた動物にあげていると思っているだろうけど、ほんとうは師匠にあげている。
ある日の書斎ではわたしよりも師匠が本を読んでいるけど、わたしも頑張って読んでいた。
英語やスウェーデン語で書かれた本ばかりで日本語の本はすこしだけあるけど……師匠は面白いみたいでいろんな本をパラパラと読んでいた。
モルファルの書斎にある本はすうがくとか、かがくとかいった物が多くて、算数とか理科とかしか知らないわたしにはかなり難しいと思った。
けど、知らないことを知ることがなんだかおもしろくて、師匠といっしょに読書をしていた。……まあ、時おり書斎にモルファルが入ってきたりしたときは、師匠は自分はぬいぐるみと言うようにパタンと動かなくなって本をフトンに倒れている風に装っていた。
結果、わたしがひとりじゃ退屈だからぬいぐるみと本を読んでいると思われた。
わたし、そこまで子供じゃないのに。むぅ。
またある日のリビングルームではソファーに座ってモルファルとモルモルといっしょにテレビを見ていた。
きほんてきに入っているテレビをボーっと見ているけど、ニュースだったり、複数人で何かを言い合っていたり、観光をしているのだったり、ドキュメンタリーだったり、日本のアニメの吹き替えだったり、日本のと違った感じのアニメだったりと入っているのは様々だった。
師匠もわたしが抱きながら見ているけど、モルファルとモルモルがいるから声は出さない。けど、テレビというのは新鮮みたいであとで部屋に戻ったら興奮していた。
ちなみに黄色いネズミといっしょに旅をする日本のアニメに対して『わしもああいったモンスターと契約することができる』と言ってモンスターとの契約の話をしていた。
それとカミナリはあの世界だと原理が分からなかったから使える人はいなかったらしい。
またある日はおやつの時間にモルファルとモルモルとでフィーカを楽しんだりもした。
モルファルとモルモルはコーヒー、わたしは苦いのがまだにがてだからそれにミルクを混ぜたカフェオレ。
それに定番のシナモンロールとショクラードボッラル、それにドロンマルやグロットル、クラッドカーカやベリーマフィン。甘いお菓子が皿に乗っている。
バルコニーに射しこむ日のひかりを浴びながら、コーヒーの香りに包まれてモルファルやモルモルたちとお話をしながらお菓子を食べる。
「美味しいですか、シミィンさん?」
「ん、おいしい」
「よかったわぁ、シミィンちゃん」
甘いお菓子の味にしたつづみをうち、ときおり甘くなった口の中をカフェオレで緩和する。……きっとコーヒーを飲む人にはぴったりの味なんだろうな。
そう思いながらわたしはまたカフェオレを口にした。
そんな生活がすこしだけつづいて……、あと3か月ほどでわたしは中学生に進学するころまで来ていた。
―――――
お菓子食べたい。
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