4-3.中学時代の日々

 中学校のことはあまり語るつもりはないけど……語るとしたら入学した中学校は1学年に1クラスしかない中学校だった。この地域には若い子が居ないかららしい。

 ……ちなみにわたしと同じ年に入学したのは16人だけ。


 人が少ないけど、わたしは小学校時代の経験からまったく目立たない、周りの記憶に残らないを実践すべく認識阻害などの妨害系の魔法をほぼほぼ常時展開していた。

 ≪希薄スィン≫――常時展開していたその魔法は自身の存在を薄くするもので、向こうの世界だとモンスターに自分の存在を気づかれないように使っていたものだと師匠は言っていた。

 これを使ってある程度近づいてからのバックアタックとか、弓矢を使っての狙撃をしていたと師匠は懐かしそうに言っていたけど……戦いばかりの世界だったんだろうな。

 まあ、それは今は良いとして……その魔法を使った結果、クラスメイトはわたしに対する関心はまったく無いようになった。

 たとえば、入学式のときにチラリとこっちを一度だけ見たとしてもすぐに関心を失ってすぐに別のほうを見たり、クラスでプリントを配るのを忘れられそうになるけれど……配ったとしてもすぐに興味が無いようになっていた。

 はたから見たらイジメとか思われてしまうけど、あまり関わらないようにしてもらえるのが一番うれしい。

 そんなつかず離れずの中学生活だから特に語るつもりなんて無い。

 それよりも中学時代はどちらかというと休みの間のことを大きく語るべきだとわたし自身思う。

 師匠との思い出のことを。


 ●


 すこしだけ時間が戻って……中学校の入学式がもうすぐそこまで来たころ、森の中に設置していた門が地脈に繋がったことを理解した。

 そのときはもう夜の23時だったけど、すこし眠い……そう思ったけど構わない。

 気づかれないように窓を開けると外の空気が入ってくる。

 春が近づいてきているけどすこし肌寒い……。でも、空は雲一つないから空はきっと気持ちがいいと思う。

 そう思いながら開けた窓から身を乗り出して窓の枠に座る。


「……≪飛翔フライ≫」


 ちいさく呟いた瞬間、くすんでいた銀色の髪がキラキラと輝きだし……お尻が窓の枠から浮いてきた。

 そしてゆっくりとわたしの体は空へと飛びはじめる。


「あ、メガネ忘れた……けど師匠に会うだけだからいっか」


 部屋のなかにメガネを置き忘れたことを思い出したけど、気にせずに空を飛んで門を置いた森へと向かう。

 というか森の中じゃなくてこんな広いところで飛ぶのって初めてかも。

 モルファルたちといっしょにいたときは森の中だけで修行してただけだし、パパとママといっしょに暮らすようになったときからは基本的に目立たない魔法を使っているだけだった。

 だからこんな風にして広い空を飛ぶのは本当に初めてだったことを理解する。

 機会があればまた空を飛んでみたいな。

 そんなことを思いながら、わたしは森に向かって飛んでいった。

 後日、月夜の空を舞う白銀の妖精がファンタジー高等学校の学生のなかで話題になったみたいだけど……ワタシジャナイ、うん、ゼッタイニ。


「……うん、地脈にちゃんと繋がっている」


 しばらく空を飛んで森へと辿りつき、森の奥の拓けた場所――門を設置した場所に降りると門は淡い光を放っていた。

 地脈を視ると……門は地脈へと根を張るようにして大地に広がっているように視えた。

 でも、どちらかというと地脈が門に広がっているといったほうが良いのかも知れない。

 それを見ながら門へと手を当てて、師匠へと連絡を入れる。


『師匠、師匠、門が地脈に繋がったよ』

『うむ、わしのところに置かれた門も光っておるから理解しておるが……シミィンよ。お主、まだ起きておったのか?』

『ん、師匠はひとりでも門を開いてこっちに来れるのはわかってるけど、わたしが師匠を出迎えたかったの』

『そうか……、ありがとう。ではそちらへと転移させてもらうぞ』

『うん』


 師匠がそう言って連絡を終えると、淡く光った門がゆっくりと開かれた。

 開かれた門の先には師匠が立っていて……師匠の背後の景色はわたしが居る門の後ろではなく、モルファルたちの家がある森。

 そこから進むように師匠は歩いてきて、門をくぐった。

 ただ門をくぐるだけの行為に見える。けど門をくぐっただけじゃない。

 師匠はまるで青いタヌキのロボットが使うトビラ型の移動アイテムのように、一瞬でスウェーデンから日本へと移動したのだ。

 ちゃんと日本に移動できたことに安堵していると、師匠がくぐった門はさっきよりも光が弱くなり……ゆっくりと門は閉まった。

 そして閉まった門を見ながら師匠はこの道具の問題点を口にし始める。


「これまで使っていた転移よりも消費する魔力は少ないが、様々な場所に門を設置しなければならんことが難点じゃな、そして何より地脈に干渉できる者が居らんと話にならんか……。さて、こうして会うのは久しぶりじゃなシミィンよ。元気であったか?」

「ん、師匠久しぶり。わたしも元気だよ」


 久しぶりに会う師匠を見ながら、わたしはできる限りほほえむ。

 そのほほえみを見た師匠は満足そうに頷いた。

 師匠とは血は繋がっていない……けど、わたしにはこの人は三人目のモルファルだと想えているから心を開いている。


「魔力の循環はしっかりとしておるようじゃな。そしてよい微笑みじゃ」

「ん、ありがと……」


 師匠にそう言われて嬉しいのと同時に……すこし恥ずかして照れてしまう。

 それから師匠はわたしが門を設置した場所を見て回ると、満足そうに頷いた。


「うむ、ここは良い土地じゃな。周囲を囲んでおる森は穢れなく澄んでおるし、この地自体に悪い気配が少ない。そして後ろの山は純粋な魔力を大量に含んだ土となっておる。その中へと金属を埋めたならば、魔力を含む鉱石へとに変異するはずじゃ」

「そうなの?」

「うむ、普通は無理じゃな。だが地脈と深い繋がりが出来たためにこの周囲の大地は完全に魔力を含んでおる。人の手が届かぬ場所があれば知らぬ間に魔石の鉱脈なども出来てしまっておったりするかも知れんぞ」

「……それ、大丈夫なの?」


 師匠との修行のときに魔石の危険性とかいろいろと教わったから、そう聞くと不安になってしまう。

 しかも師匠のその言い方だと……地脈を繋げたりする作業をしたわたしに原因があると思えてしまっていた……。

 けど、師匠はわたしがなにを考えているのが分かっているみたいでフォローを入れる。


「そんな顔をするな。お主が悪いわけではない。それに……たとえ、今回のきっかけがお主だったとしても、この大地に魔力が満ちるのは時間の問題だったじゃろうしな」

「え、どういうこと? なにか……あったの?」


 どこか遠くを見るように師匠は言う。

 その様子に師匠がどこか遠くに行くのではないかと思いながら、不安そうに問いかける。

 すると師匠はすこし真剣な表情をこっちに向けてきた。


「シミィン、今からわしは大事な話をするが……聞くか? じゃが、それを聞けばお主は人為らざる者と戦う選択を突きつけられることとなるが、良いか?」

「たた、かう……?」

「うむ、それが何を意味しているかを理解するには少し時が必要じゃろう? じゃから、しばらく考える時間を与える。その間に考えよ。お主からの返事を待つ間にわしはこの場所に住むための小屋をつくっておく」

「ん、わかった……。師匠、おやすみなさい」

「うむ、また会おう。シミィンよ」


 重要なことだということを理解し、わたしは師匠に何も言えず……この日は師匠を迎えるだけで家に帰ることになった。

 でも、戦うって……どういうこと? いったいと戦うの?

 師匠が言っていることが分からず、その日は眠ることができなかった……。


 ……うん、やっぱりもう一度ちゃんと師匠と話をしよう。

 いったい何が起きているのか、それをわたしは知る必要がある。

 それからでも、戦う選択を選ぶかどうかを決めることができると思うし……。

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