4-2.中学時代の日々

「――――ちゃ~ん」

「ん、んぅ……?」

「――ィンちゃ~ん」

「まみゃ……?」


 ゆさゆさ、ゆさゆさと体が揺すられ、ゆっくりとわたしは起きはじめる。

 声を呼ばれてぼんやりと声をかけてくる人がママであることに気づいて、寝惚けながら声をかけた。

 するとわたしが起きたことを理解したみたいで体が揺すられるのが止み、ゆっくりと目を開けた。


「おふぁよう、まみゃ……」

「おはよう、シミィンちゃん。……まあ、もう夜だけどね~」

「あふ、そうなんだ……」


 目をこすりながら車から降りると、外はママが言ったように夜で周囲は暗かった。

 ここはどこだろうかと思いながら周囲を見ると、ログハウスがいっけんあるだけ。

 ログハウスには『ドルイドの食卓』という店の名前の看板がかかっていて、その名前を見た瞬間に理解した。


「あ」

「ふふ、改めておかえりなさいシミィンちゃん。ここがシミィンちゃんのお家よ~」

「ん、ただいま。ママ」

「おいおい、ママにだけかー?」

「あら~、あなた嫉妬なんてしちゃダメよ~♪」

「ううん、パパも運転お疲れさま。ただいま、パパ」

「し、しし、しっとなんてしてないぞぉ! ま、まあ……こほん、おかえりシミィン」


 家の鍵を開けに行ってたパパがすこしわざとらしくわたしたちに言う、そんなパパに運転をしてくれたお礼とママに言ったようにただいまと口にした。

 隣ではママがパパを茶化すように言うと、パパは顔を赤くしながら動揺。だけど咳ばらいをしてからやさしくおかえりと言ってくれた。

 そして家に入って中を見る。……今日からここが、わたしの家。

 もうすぐ中学生になるし、懐かしい土地での新しい生活。どんなことが起きるだろ。


「今度はいじめられないと良いな……」


 わたしのために用意してくれていたお部屋のベッドから……窓の外の暗い世界を眺めながら呟く。……すこしだけ不安になってるのは、久しぶりの日本だからだと思いたい。

 日本はわたしの故郷だけど、小学生の数年間は嫌なことが多かったから。

 もうイジメられるのは嫌。だから、周りらかは距離を取りたいな。

 そんなことを思いながら、わたしは眠りについた。


 それから中学校への入学までのあいだ、色々なことを行った。

 これまで通りに通信教育で勉強を行って小学校で学ぶはずだった勉強を頑張った。

 ……そうしたらある程度の偏りが大きく見つかったことに気づいた。

 そっちは重点的に勉強をしないと。


 次に師匠が暮らすために必要な土地を選ぶために不破治の中を勉強を終えて空いている時間のほとんどは散歩に徹した。

 この散歩には久しぶりの不破治の町並みを見るということも含まれていたから、懐かしさと前よりも幼かったころは行けなかった場所も見ることができた。

 でも、髪の色が珍しいからか時折高校生にチラチラと見られたりしてちょっと嫌だったけど……あきらめよう。

 そして選んだ土地は山の近くにある森で、その森の中央あたりに拓けた場所があったから師匠を招くためのポイントとして倉庫から門を取りだす。

 両開きの扉ほどの大きさの門、それが地面に降りることでズズンと音を立てたような気がした。

 この門は師匠といっしょに創った物で転移の術式が組み込まれた魔法の道具、師匠に転移するための場所を知らせるものでもあるけど……大量の魔力を消費して、門自体を地脈へと繋げることによって、同じように地脈に繋がった門同士の転移を可能にするというものだった。いわゆる、どこで〇ドアってやつだと思う。

 けど、門がこの地の地脈に繋がるまではまだまだ時間がかかりそうだから、このまま放置で良いかな。……いちおう誰も来ないように結界を施しておこう。

 こうして、この森は特定の人しか来ることができない迷いの森になってしまった。

 でも、大丈夫だと思いたい。そう思いながら森から離れた。


 次に入学する中学校の制服を買うために春に入学する中学校と契約をしている服屋にママといっしょに行った。

 近所で契約をしている服屋は商店街の中にあるすこし古い外観の服屋さんで店員のおばさんがママを見ると目を輝かせていた。

 モデルみたいな見た目だから、ママを見て目を輝かせるのもわかる。

 そう納得しながらママが店員のおばさんと話をするのを見ていたけど、採寸用に用意されていた制服に着替えるように言われて着がえた。

 わたしが入学する中学校はセーラータイプの制服で黒に緑色を足したような色をした感じの生地が印象的だった。

 そしてママは成長することを考えてみたいでちょっと大きなタイプをすすめてきたけど……。


「ママ、ちょっと大きくない?」

「そうかしら~? シミィンちゃんもママみたいにきっとおっきくなるわよ~」

「そう……かな?」

「きっとそうよ~♪」


 ニコニコと微笑むママだけど……なんだか数年たってもぜんぜん成長できなさそうな予感がするんだよね……。

 具体的に言えばママみたいに身長がおっきくなって、おっぱいとかもバインバインとかになる未来がまったく見えない。

 心からそう思いながら、わたしはブカブカの袖口を見ていた……。


 ●


 それからしばらくして……お店で出来上がった制服を受けとって、家に帰るとモルファルとモルモルに制服姿の写真を送るからと一度着ることになった。

 着がえて一足先に部屋のなかの全身が映るサイズの鏡で制服姿を見たけど制服を着ているというよりも制服に着られているといった感じに思えた。

 きっと3年の間に着ているといった感じになるんだろうな……。

 そんなことを思いながら改めて鏡にうつる自分を見る。


 新品のセーラー服は光に当たるとすこし緑っぽく見える黒に近い色をしていて、襟と袖口には白色のラインが3本ついている。

 首にかけるスカーフは白色だ。入学する中学校の女子の学年が分かる方法はスカーフの色で、入学してから3年間ずっとそのままみたいだった。

 つまりはわたしが入学したときは白色のスカーフだったけど、次に白色のスカーフをつけることになる学生はわたしの年代が卒業した次に入学する新入生がつけることになるみたい。

 スカートは膝下よりも長いプリーツスカートだけど、わたしは身長が低いから地面にはついていないけど、足首近くまでの長さになっていた。

 ここまで長いと走りにくいかも……。

 そんなことを思いながら制服姿をまじまじ見ていたけど、ゆっくりと視線をうえに向けていく。

 襟のあたりからウェーブかかった灰色よりの銀色の長い髪が見えて、うえに視線を向けていくと……うっすらと色付いた小さな唇、鼻、そして青い瞳を隠すようにかけ続けているメガネが印象的な顔が鏡に映っていた。


「……髪型をいじったら、もっと地味な見た目になるかも」


 再放送されていた昭和のテレビ番組に出てきた地味な見た目の学生を思い出しながら、なんとなく両手で髪の両サイドをつまんでみる。

 たぶんツインテールだと思う髪型だけど、なんだか文学が得意そうな感じに見えた。……わたしは社会情勢とか、日本語とか、歴史は苦手だけど。

 でも何も整えずにいるよりも、この髪型はいいかも知れない。

 そんなことを思いながら、両サイドに髪をよせてから化粧台に置かれたリボンで結ぶ。

 ……思い付きで鏡を見ながら髪を整えたからかすこし偏っているし、ちょっとぼわぼわしていて良い感じになっていないけど……これはありだと思う。


「ママ、着替え終えたよ」

「待っていたわよシミィンちゃ~ん。……あら? ちょっと待ってね~」

「マ、ママ? ん……」

「こんな感じの髪型にしたいのね~? ママに任せなさ~い♪」


 着替え終え、リビングに向かうとすぐにママに捕まって髪型をすこしだけ弄られた。

 わたしがこんな感じの髪型にしてみたいと理解しているみたいで、ママはブラシを片手にリボンを解いた髪をサッと梳かしてからもう一度リボンを結び直した。

 それを手鏡で見せ貰ったけど……髪はわたしがしたよりも自然に分けられていて、くせ毛が強い髪はリボンの結び方で矯正されていて先端がウェーブっぽくなっているだけになっていた。

 手鏡ににこにこと笑うママの顔が映る。


「どうかしら~? ママは可愛いって思うわよ~」

「ん、最高。ありがとう、ママ」

「いいのよ~♪ でも、メガネを取ったらもっとかわいいと思うわ~」

「……ママたちの前だと外そうって思うけど、ほかの人たちの前だと外したくない」

「そっか、でもシミィンちゃんは可愛いから自信を持ってね」


 メガネを取らない理由、それは地脈や溢れ出た魔力を視れないようにするだけだった。

 ついでにいえばもう魔力制御ができるからメガネを外してても地脈や漏れ出た魔力は見れないようにもなっている。

 けど、何時の間にかメガネは無くてはならない存在になっていた。

 だから基本的にメガネをかけるのが当たり前だけど、何も知らないママもパパも全員……自分に自信がないからメガネをかけるようになったと思っているみたいだった。

 まあ、この世界だと魔法が使えるようになりましたとか瞳が魔眼になりましたとか言われても、ちゅーに病って一過性の病気だと思われるだろうしね。

 そんな風に思いながらママといっしょに外に出ると、パパが家の前でスマートフォンを手に外に出ていた。


「お待たせ、あなた~♪」

「おう、大丈夫だ! それにしてもシミィンの学生服姿……うぅ、感動だぁ!!」

「パパ、うるさい」

「ぐはっ! で、でも、すごく可愛いぞ」

「……ん、ありがと」

「う、うおおおおおおっ! シミィンはやっぱり可愛いぞぉぉぉぉぉ!!」


 すこし大げさに涙を流すパパにちょっとだけ引いてしまいそうになるけど、小学校のことがあったから中学校の制服を見たら涙を流してしまったんだと思うことにする。

 でも、ほかの家と離れているからって大きな声で可愛いとか言われるとすこし……ううん、だいぶ恥ずかしい。

 それからすこしして、落ち着いたパパはスマートフォンを手に家の前に立つようにわたしに指示して写真を撮りはじめた。

 とはいっても、わたしもママもモデルじゃないし、パパもプロのカメラマンじゃない。

 だから普通に立ったままの写真だったり、ママといっしょに撮られたり、パパといっしょに撮ったり、パパとママの3人で撮ったりした。

 ……いちおう、3人で撮ったときだけメガネを外して撮ったけど。まわりには見られていないから問題はないと思いたい。

 それをモルファルとモルモルに送るとすぐに転送したら、4分もしない内にテレビ電話がかかってきてすごく嬉しそうに感想を送ってくれた。

 というか、みんな……可愛い可愛いって、言わないでほしい。

 すごく、照れるから……。

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