4-1.中学時代の日々

「ひさしぶりの日本」


 十数時間ぶりの地面の感触を味わいながら、バスの出発時間を潰すために展望デッキにあがって久しぶりに見る日本の景色を見る。

 けど降りた空港は街からは離れているからか都会らしい街並みは見えなかった。でもここから見える景色は日本だということは強く理解できた。

 日本であんなことがあったけど、やっぱりわたしにとってこの国はふるさとなんだ。

 そう実感しているとパトカーや消防車、救急車のサイレンの音が聞こえた。

 音がした方向を見るとそれらはわたしがに向かって走っていくのが見えた。同じように気づいた大人の人たちが飛行機の方へと視線を向けるのが見えるけど、それを見てもわたしは驚かない。

 それどころか……。


「ああ、やっと気づいたんだ。でも、本当にぶっそうな世の中だって思う」


 まるで他人事みたいに呟きながら、視線を飛行機から外す。

 後ろのほうで「誰かが運ばれている」とか「何があったの?」という声が聞こえるけど、わたしにはもう関係ない。

 そう思っていると名前を呼ばれた。


「シミィンちゃ~~ん!」

「え? ママ? なんで? お店は?」

「おやすみしたに決まってるでしょ~。大切なシミィンちゃんをひとりで不破治市まで移動なんかさせないわよ~。パパも向こうに居るわよ~」


 振り返るとママが手を振りながら近づいていて驚いた。

 そしてここに来た理由を聞いて、嬉しいという気持ちが心の中に溢れてきたけど……そんな表情を見せるのが恥ずかしくて照れてしまっていた。

 ママが来てくれたのもうれしい、パパも待っててくれてうれしい。

 そんなわたしの気持ちを理解しているみたいでママはすこし俯いたわたしを屈んで見てきて、ぷいと見てくる顔からそらす。


「うふふ~、シミィンちゃんってばかわいい~♪」

「む、むぅ……」

「も~、照れてるからって頬を膨らませないの~。えいえい♪」

「頬をつつかないでよ」

「ふふふ~♪ しばらくぶりの生シミィンちゃんだわ~。えいっ!」


 タブレットやパソコンでテレビ電話をして話したりしてたけど、こうしてママと触れるのは夏休みぶりだったから……懐かしい。

 抱きしめられた温かさ、顔に当たるぷにぷにの胸の弾力、ママが好きなお花の香りがする香水のいい匂いが鼻に届いて落ち着く……。

 そんなわたしたちのスキンシップだけど、空港の展望デッキのひとコマみたいでここに居る人のほとんどは飛行機とそこで停車するパトカーなどの様子に夢中だった。


「ふぅ~。シミィンちゃん分を久しぶりに補充しちゃった~♪ それじゃあ、パパと合流しようか」

「ん、わかった。行こう」

「ふふふ~、パパも久しぶりのシミィンちゃんにうれしいに違いないわよ~」


 ひとしきりママがわたしを抱きしめるのを堪能したみたいで離れるとパパと合流するために、ママと手を繋いで歩きはじめた。

 そしてパパと合流したら、空港内の食べ物屋さんでごはんを食べることになったけど……和食のお店がいろいろあってどれにしようか悩むことになった。

 けど、パパとママと相談した結果……和風の定食を売りにしているお店に入ることにした。

 パパはカツどんとうどんのセット、ママはアジフライ定食、わたしは悩んだけど向こうだとあまり食べる機会がなかった小さな親子どんとおそばのセットにした。

 ホカホカのごはんの上にのった甘辛い醤油だしの味……久しぶりに食べた味。

 プリプリのとりにく、トロトロの卵、ときおりシャキシャキと歯で切れる玉ねぎ。それとごはんが口の中でひとつになって、美味しさのハーモニーを奏でる。

 そんな料理漫画みたいな台詞を頭のなかで浮かべながら、久しぶりに食べる親子どんの味を堪能してるとお客さんは次々と入っていていろんな話をしていた。


「ついさっきパトカーとか消防車とか救急車とか来てたけど、何かあったのか?」

「聞いた話だと飛行機のトラブルで火事になるかもってことで消防車が来たみたいだぞ」

「けど、パトカーってのは変じゃね? 実はハイジャックが起きてましたとか」

「なわけねーだろ。お前、漫画とかの見すぎじゃね?」

「だよなー。まあ、この国は平和だからハイジャックなんて一昔前の出来事か」


 すこしチャラそうな男の人たちがどんぶりを持ちながらそんな会話をしている。

 別の席では女性がスマートフォンを使って何かをしているのが見えるけど、離れているから画面はよく見えない。

 ときおりママを見る人とか居たりするけど、家族連れと気づいて見ていたのを誤魔化しているのが見えた。

 そして飛行機のトラブルがあったかも知れないという話が聞こえていたみたいで、ママとパパが心配そうに見てきた。


「飛行機のトラブルがあったって話だけど、シミィンは何もなかったか?」

「何もなかったよ」

「そう~? シミィンちゃんに何かあったら、ママたち生きていられないわ~」

「大丈夫だよ。ぶじだったから、ここでママとパパとごはんできているし」

「それもそうか!」「そうね~♪」


 わたしの言葉にふたりは嬉しそうに笑うと、食事をつづけた。

 それを見てから……わたしも食事をつづける。おそばがおいしい。

 うどんやパスタとは違った麺のすすりを感じ、もぐもぐと咀嚼する。

 うん、おいしい。


 …………ちなみにはなかったよ。

 ただ、わたしが乗ってた飛行機には銃を隠し持っている人が数人居て、それを使って飛行機を乗っ取って、乗っ取った飛行機を貨物のなかに持ち込んだ爆弾を使って乗客たちといっしょに都市上空で爆発させて死ぬっていう誰も得しないと思うことを企てようとしてただけ。

 でも、結局はその人たちはから、ハイジャックじゃなくてハイジャック未遂なんだよね。

 だってその人たちはみんな、声をかけても体を揺すってもぐっすり眠ってたり、雷に打たれたように全身が痺れてたりしていたから。

 そして爆弾はどういうわけかカチコチに氷漬けにされていた。


 初めは降りないお客さんを心配してキャビンアテンダントさんが声をかけたみたいだけど、ぜんぜん反応が無くて……肩を強く揺すったら、その人たちの懐から銃がポロリと落ちて大騒動になった。

 普通はばれないようにとか、落ちないようにしているはずなのに。おかしいよね?

 ……まあ、それをしたのはわたしだけど。

 で、ハイジャック犯だと思うから警察が呼ばれて、ほかにも何かあるんじゃないかと心配になって消防が呼ばれて、ハイジャック犯がケガしてたりしてたから救急が呼ばれた。

 それが飛行機にパトカーとか消防車とか救急車が止まってた理由。

 だけどそれをわたしは言うつもりはない。だって自慢したいわけじゃないんだから。


「でも、何もなくてよかったよかった」

「? シミィンちゃん、何か言った~?」

「なんにも」

「そう~? 帰り道には何か甘いものを食べていきましょうね~」

「ん、たのしみ」


 ほほえむママに返事をして、ごはんを食べる。

 それからごはんを食べ終え……わたしたちはパパの運転する車に乗って不破治市に向けて移動した。

 ……しばらくして、十数時間のフライトと時差の関係があって疲れていたみたいで、気づけばわたしはウトウトと眠りに落ちていた……。



 ■ 【非公開】ハイジャック未遂事件【持ち出し禁止】 □


 ○○○○年●月×日、北欧S空港発の日本N空港行きの旅客機に10名のハイジャック犯が搭乗。

 彼らは人種も年齢もバラバラであるが、全員口を揃えて『夢の中で神から、生贄を捧げよ言われた』と証言をしていた。

 それに対して彼らは妙な使命感を感じてしまっており、まるで一種の洗脳状態であるともいえただろう。

 その状態で彼らは搭乗の際に貨物の中に爆弾を用意し、自分たちは銃とナイフを所持していたらしい。(取り調べの際に確認したためそれは本当のことである)

 北欧S空港を発着、一度経由地であるデンマークを経由して十数時間が経過し、ユーラシア大陸で人口を多く締める国の都市上空に近づきはじめたころにハイジャック犯たちは行動を行おうとした。

 銃を取り出し、空砲を撃ち、喚くならば何名かは見せしめに撃ってしまおうと考えていたそうだ。どうせ死ぬのだから、いつ死んでも変わりはない。そう思っていたらしい。

 しかし、彼らは皆動くことができなかったと証言している。


 立ちあがり――「動くな!」と口を揃え銃を抜こうとしたが、彼らの体は石のように動かなかったらしい。

 それでも必死に託宣に従い、動こうとした者はまるで電流を浴びせられたかのように激しい痛みが体を襲い、意識を刈り取られたとの証言。

 事実、10名中4名は全身を雷に打たれたかのような火傷を確認、医師からもそう診断される。

 事件の発覚は搭乗していた乗客が降りていく中、まったく下りない10名にキャビンアテンダントが気づき、声をかけ体を揺すったところ懐から銃が落ちたことでただの乗客ではないということに警察へと通報を受け警察は特殊強襲部隊を派遣。

 火災が起きた場合を想定してのレスキューチーム、怪我人を搬送するための救急にも連絡が行き、N空港に急行。


 その後、ハイジャック犯と思われる10名は警察と共に救急車に運ばれ、警察病院に移動。

 特殊強襲部隊の隊員による機内調査及び荷物調査でハイジャック犯の荷物と機内から爆発物が発見された。

 しかしハイジャック犯の荷物の爆発物、機内から発見された爆発物は包み込まれるように氷漬けとなっていた。

 爆発物を包み込んでいた氷を専門家に解析してもらったがただの氷とのこと。

 だが氷漬けにされていた爆発物はどういうわけか起爆することなかったどころか、爆発する機能も完全に無くなっていた。爆発物は氷漬けにされただけでは起爆機能は無くならないというのにだ。


 この不可解な事件は事件として報道はされることはなく、飛行機のトラブルとして報道はされた。

 ハイジャック犯たちは火傷や精神異常が確認されて医療刑務所に収監された。

 そして事件は何が原因で起きたのかも、ハイジャック犯たちがどうしてこうなったのかも不明のまま、事件はお蔵入りとすることとする。


 ※ 異能力者関連 H関連

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