6-3.うわさ

 わたしがそう言うと、ナイト生徒会長がどこか非難するような視線をおくりはじめているのに気づいた。半田先輩はまだ疑っているといった感じに見える。

 そんな中でアレが怒鳴りつけるように声を上げた。


「まだそんなことを言ってるの!? いい加減にするんだ! 今はキミの誤魔化しに付き合っている暇はないんだ!!」

「ごまかしていない。それに……どなられる理由がわからない」

「だからそうやって雲に巻こうとするんじゃない! キミの友達も危険な目に遭ってるんだよ!? それでもキミは何も知らないって耳を塞いで目を閉じているつもりなのか!?」


 これは、真剣に怒っている。

 じぶんの言っていることを認めようとしないっていう自分勝手な理由じゃなくて、わたしが逃げているように見えているから怒っているんだ。

 ……だけど、なんども言うけど、わたしは『』じゃない。もちろんテイマーでもない。ただのいっぱんじんだ。ただの市民なのだ。

 だから自分を酷い人間だと思うのは……しんがいだ。


「……まあいいや、ボクらはキミが賢者かテイマーだって思って話をするよ。ナイト、資料を出して」

「わかりましたわ……。これは昨日の夜に監視カメラで撮影された映像です。本来は関係者のみに見せるようになっているのですが……」


 勝手に好感を下げながら、アレはナイト生徒会長に頼む。すると彼女はふしょうぶしょうながらといった感じにタブレットを取りだしてわたしに見せてきた。

 タブレットには停止状態の映像がうつっていて、ちゅうおうの再生マークをタップすると映像が再生された。

 動き出した映像はくらい……夜の校舎の踊り場が映っているだけだった。


「かいだんの……踊り場?」

「ええ、ですが黙って見ていてください」

「……わかった」


 ていねいに言っているけど、もんく言わずに見ろと言ってるだけ。

 だから黙って見る。

 すると映像にだれかが映る。……ギャルグループだ。何故かそう思ってしまう。

 彼女たちはおっかなびっくりといった感じに、踊り場にたどり着くと……そこを調べはじめていた。いったい何をしているのだろう?


「最近、放課後のある階段の踊り場で笑い声が聞こえる声っていう噂が校内で広まっている」

「…………あ」


 思い出した。昨日、食堂でごはんを食べている最中にギャルグループがしていた話でそんなことを言っていた。

 けど、なんで夜に学校に来た? それとも放課後からずっと隠れていた?

 理由がわからないまま見ていると、踊り場を調べていたギャルグループがビクッとしてしゅういを見はじめる。何か聞こえている?

 監視カメラは録画するだけのタイプだったみたいで、声は入っていなかった。

 そしてギャルグループは何かに気づいて、ぜんいんが一点を見ており……いっせいに走り出した。ううん、逃げた?

 画面外に消えたギャルグループだったけど、すこしして大きなかがみに変化がおきた。

 まるで弾力を持ったようにかがみの表面がゆらいで、黒い手が伸びていくのが見えた。

 何がおきたのかはタブレットの映像を見たおかげで理解できた。だけど、ただの市民であるわたしは……何も知らない人間だから、アレらに聞く。


「これ、なに?」

「……魔力の揺らぎが感じられるから、これは一種のゲートになっているんだ」

「ゲート? かがみじゃないの?」

「前の世界でもあったみたいですが、アナザーワールドへの入り口ですわ。何らかの条件であのミラーをゲートにしていたか、元もとあれ自体がゲートなのかは分かりませんが。まあ、向かう先はきっとこことは違うワールドでしょうけどね」

『うむ、魔王の配下の城を攻めたときに鏡を抜けるときもあったが、城から洞窟になったり草原になったりもしていて驚いたのが懐かしい』

「???」


 分かっていない。そんな風に首をかしげると、いらだたれてしまった。

 ポーカーフェイスなんてムリだと思うから、さげすむ視線が強くなっている。

 そしてざんねん。彼女たちが言っているゲートっていう見立てはすこし違っていた。

 あの揺らぎを見たことで、わたしはあの大きなかがみを見たときに感じた違和感をようやく理解できた。

 あれはいっしゅのダンジョンとなっていて、かがみのなかの構造はほぼほぼここと同じ形をした逆の世界になっていると思う。

 詳しく知るには……あれが起きている状態で見る。またはダンジョンの入ってみないとわからない……か。

 そんな風に思っていると画面外に伸びていた黒い手が泣きわめくギャルグループの腕を掴んで捕まえ戻ってきた。

 そして黒い手に引きずられるままにギャルグループはかがみに取りこまれていく。

 ギャルグループは逃げようとひっしに暴れているけど、黒い手のこうそくはとけない。

 ……わたしに同情でも引かせたいのか、アレがタブレットに触れてギャルグループを呑みこもうとするかがみを拡大してきた。

 人間、恐怖に怯えた瞬間ほどだれかに助けを求めるって師匠は言ってた。その証拠にギャルグループは口のうごきでパパとママの名前を口にしてるのだろう。そしてその中に、わたしの名前もあった。

 そんな後味の悪い映像だったけど、ギャルグループがかがみへと完全に呑みこまれてすこししてから再生が終了した。


「今回……このように初めて人を巻き込むという事件が起きてしまいましたが、このまま対処しなければこれからもこのような失踪事件が増えるかも知れませんわ」

「だから、そうなる前にボクらが対処しなければいけないんだ!」

「そう、がんばって」


 ナイト生徒会長がわたしをどこか信じながらも見放すような視線でたんたんと言って、最後にバンとテーブルを叩きながらアレはこっちを見ながら熱く言う。

 そんな彼女にそっけなく言った。けど、それがいけなかったのだろう。

 アレは立ちあがるとわたしに向けてどこからともなくアイテムボックスから出した剣を突きつけた。


「っ! し、四夜さん! それはいけませんわっ!?」

「四夜! 落ち着いてっ」

「シミィンちゃん、ボクらは今夜ボクらはあのゲートに入る。それにキミも同行してもらうよ!」


 剣を突きつけられたのを見たからかナイト生徒会長と半田先輩が焦った声をあげる。

 そしてアレは何処か狂気を感じさせる様子で叫んだけど、わたしは普通に尋ねた。


「……なんで?」

「そ、それは……キ、キミが賢者かテイマーかも知れないから、無理にでもつれていけばどうにかするに違いないからだ!」

「わたし、ただの学生だから、へんなことに……巻きこまないで」

「だっ、だから! その誤魔化しはもういい加減に――!!」

「ストップ! ストップです四夜さん!」

『そうだぞ勇者殿! いったん落ち着かれよ!!』

「只野シミィン、悪いけど……出て行って。それと、今見たことと聞いたこと、忘れてほしい。黙っている代わりとしてそれ持っていって」


 何というかむちゃくちゃな理由でダンジョンに連れて行こうとしていた。

 そして本当になにも知らない人間だったら、ただ犠牲者を増やすだけなのに……。

 頭に血がのぼっているのだろうけど、勇者と呼ばれた人がそんなことをするなんてと呆れながら言うと斬りつけるまではしないようだったけど、わたしへと手を伸ばしてきた。

 けれどギリギリのところで、2人におさえられてしまっていた。

 そしてわたしは、カツタマサンドカツどんがのった皿を持たされて生徒会室を追い出されるようにして出ていった。


「……どうしよう」


 持たされたカツタマサンドを食べながら、わたしはもうすぐ始まろうとしている午後の授業を受けるべく……教室へとあるく。

 ……とちゅう、問題の踊り場をとおるとそこに置かれたかがみには同じようで違う校舎のすがたがうつっていた。

 そして、ようやく自分にきづいたと言うようにギャルグループのリーダーの顔がついた人の形をしたかがみが、その中でケタケタ笑っているのが見えた。どう見てもふつうじゃない。


『!!ハハハハハハハハハア、~ぇねててっ待で中の校学、らかるげあてしに間仲のちたシタアもんゃちンィミシらたっなに夜、ねててっ待 ♪ぁたれくていづ気がんゃちンィミシ。たいづ気。たいづ気、ハハア』

「……ごめん、そっちで仲間になるつもりない。なるなら、こっちで友達としてのほうがいい」

『ん~~ゃちンィミシ。ねててっ待、らかだ ♥ぇねらかうゃちし解理てっいいち持気てっくしら晴素とるれま込り取、て来にちっこもんゃちンィミシ、ぇねにれそ !ダヤダヤ』

「そっちがなんと言っても、むりやりにでも連れもどすから……またね」


 まだ何か言っているギャルグループリーダー……たしか、伊地輪をムシして、わたしは階段をのぼって教室へと向かう。

 というか、ふつうに会話できていることに変だと思っていない時点でかなりとりこまれている……。


 ……アレらにはああ言った。だけど、すこしだけ……ほんの少しだけ心のなかのモヤモヤはつのっている。

 クラスの中でかなりズカズカと話しかけてくるのが彼女たちだからだと思う。それがいなくなったら、彼女のパパとママたちも悲しむと思う。

 だから、わたしは……。


「……今夜中に終わらせる」


 だれにも聞こえないように呟きながら、食べおわったカツタマサンドがのった皿をだれにも見られないうちに倉庫の中へと入れた。

 そして教室にもどってイスに座ったところでチャイムが鳴り午後の授業が始まった。それと同時に、ジッと目をとじる。

 今から創るもののリミットは、放課後だ。それまでにある程度形にしないと。

 そう思いながら、まわりからシャットアウトして作業をはじめる。


 ……ちなみに頭の中での作業をしていたから、午後の授業はきいていなかった。

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