6-2.うわさ
朝、教室に到着したわたしだけど、何時ものように近づいてくるギャルグループがいなかった。めずらしい。
そう思いながらイスに座るとクラスがどこかざわついているように見えた。
どうしたんだろう? そう思いながら首をかしげていると委員長が近づいてきた。
「おはよう、只野さん。えっと……ちょっと、いい?」
「おはよう。なに?」
「そのね、伊地輪さんたちが昨日から住んでいる寮の部屋に戻ってきていないみたいなの。同室の子たちが連絡をくれて、実家にも聞いたみたいなんだけど……帰っていないって」
「……そう、なの?」
頭のなかによくわたしに話しかけようとするギャルグループの姿が浮かぶ。
彼女たちが帰っていない。その言葉に少しだけ嫌な予感をわたしは感じていた。
そんな気持ちをいだきながら朝のホームルームが始まるのを待っていると、石川先生が教室へと入ってきた。
そして教壇に立ってすぐにギャルグループの話題が出てきた。
「あーっと……、昨日から
「先生、私たちも彼女たちが帰っていないって聞いて、寮区画を聞いて回ったですが全員知らないみたいです」
「そうか……。先生たちも交代で山に入っていないか探してみるけど、お前たちは危ないことはするなよ? そして危ない区画には行くなよ? あと、今日は伊地輪たちを探すから幾つかの授業は自習になるけど、各自静かにするように」
石川先生の言葉に全員がうなづく。
それを見届けた先生は教室から出て行った。
しばらくして、1限目の授業がはじまったけど……教師が来なかったため、自習であることが確定した。
そんな自習となった授業が多くあり、そのまま4限目まで終了して……時間はお昼休みになったから、わたしは食堂へと向かう。
「おひるごはん、何食べよう……」
歩きながらひとり呟くけど、頭のなかにはギャルグループの安否が気になっていた。
……いちおう、クラス内で話しかけてくるのが彼女たちだし……何かに巻きこまれていたのかと思うと、心配する。
それに、最近だとこんな呟きを聞いたギャルグループは、昨日わたしが食べていた料理がおいしそうだったとか、これ美味しかったよってすすめてきていた。当然その言葉にわたしはムシをしたけど、気になったわけじゃないけど……それをおひるごはんにしたらギャルグループは何故かハイタッチをしていた。
そんなことを思いながら階段を降りていると、ふいに視線を感じた。
「っ!? ……かがみ?」
ハッとしながら振り返ると……そこには体ぜんたいをうつすほどのサイズのかがみがあり、かがみにはわたしの地味ファッションの姿がうつっていた。
ただそれだけ。……でも、かがみの話……どこかで聞いたような気が。
どこで聞いたっけ? それを思い出そうとしていたところで、下の階からわたしを呼ぶ声がした。
「良かった、見つけた。シミィンちゃん、ちょっと……良いかな?」
「…………、暇じゃない。今からおひるごはんを食べるから」
「そうも言ってられないんだ。……お昼ご飯は用意するから、キミには来てもらうよ。イヤだと言っても来てもらうから」
「……わかった」
声がしたほうを向くと、あれが立っていた。珍しくしんけんな表情で。
そして厄介ごとに巻きこまれることを理解して、この場から逃げようとしたけど……逃がさないようすだった。
さらには3階側にもあれの仲間であるわたしの部屋を監視してた人が待機しているのが見えたから、どう考えてもこの場からは逃げられないと感じた。
だから、抵抗せずにあれのあとについて移動する。……移動して少しすると、あれもまじめな話をしようとしているみたいで何時もみたいなわたしをねっとりとした視線で見てはこな…………やっぱりチラチラと気づかれないように見ていた。
アレはやっぱりアレか……と少しだけ前を歩く残念なそんざいを哀れに思いながら移動した先は、じゅうこうな扉だった。上を見ると……生徒会室とプレートがはられていた。
「戻ったよ。入ってもいいかな? というか入るね」
「どうぞお入りにな――って、だから返事を待たずにオープンするのはどうかと思いますわよ!?」
「ごめんごめん、けどボクとナイトとの仲でしょ?」
「それはそうですけど……で、ですが、今日はお客様が居るのですから礼儀をわきまえてくださいませ!」
「そこはボクとナイトとの仲を見せつけると思って……ね?」
「~~~~っ、だ、騙されませんわよ!!」
「……なにこれ?」
「いつものこと……」
「そうなんだ」
かってに扉を開けたアレに対して、中にいた金髪の上級生が怒ったけれど……すぐにアレの言葉に頬を染めはじめた。
金色の長い髪と色白のはだ(白いはだはアレの言葉で少しほおが赤くなっている)、そして瞳はみどりいろでパッチリとしている。普通に美人だった……そういえばこの人って、アレに初めて絡まれたときに助けてくれた人だ。
あのときは助けてくれて助かったと思ったけど……これって、あれだよね? 普通にアレと同類で、しかもライトノベルでよく見かけるチョロインってやつ?
そう思いながら目の前のこうけいに呆れていると、こっそりとわたしの隣に立っていた
わたしと同じであきれたようにアレがおこす三文芝居のようなものを見ていると、視線をこっちに移してきた。しかもこっちから話しかけろという感じのあつも感じる。
「なに?」
「
「……えっと、只野シミィン、です」
「知ってる」
「そう、ですか」
……この人は何をしたいのだろう?
そんな風に思いながら半田と名乗った監視者をあらためて見るけど、日本人らしい黒……だけど少し青みかかってつややかな髪のまえがみを両側に伸ばして、後ろがみは首したあたりの長さで切りそろえているっていうどくとくな髪形、瞳はすこし明るい茶色で切れ長だ。
背はわたしよりも高い。というかわたしがこの中でいちばん小さいから当りまえだ。
そんな風に思っていると……アレと生徒会室にいた上級生の三文芝居は佳境にきていた。
「大丈夫だよ。ボクはナイトのこと……凄く好きだよ?」
「す、すす、好きって、そんな……で、でも、わたくしたちは女性同士で……」
「そんなの、関係ないよ。今のボクの体は女だけど、心の中はずっとケダモ……こほん、高潔な紳士だからさ。キミと一緒に素敵な一夜を(ベッドの上で)過ごせる自信だってあるよ」
「ご、ごくり……す、すてきないちや……」
「……ねえ、帰っていい?」
「それはダメ。……ふたりとも、バカップルとか、チャラ男に騙されるおぼことか、恋愛経験値ゼロのナイトがホスト狂いになりそうな状況な雰囲気を出すのはいい加減にして」
正直、もう帰りたい。そう思いながらくるりと方向を変えようとしたけど、半田……先輩にかたを掴まれて動けなかった。いちおう先輩だから、先輩呼びにする。
そしてどうやらここに連れてこられたじてんで、わたしはもう逃げることが出来ないみたいだった。
そう思っていると半田先輩がアレらに声をかけた。
すると、さっき言ったようにこのやり取りはいつものことだったみたいで、半田先輩が声をかけると上級生が正気に戻ったようでハッとしながら顔を赤くしながら離れ、アレは「ちぇー」と残念そうにしていた。
あと、手をワキワキしているのは背すじが寒くなるからやめてほしい。
そして促されるままに、へんなやり取りが行われていた生徒会室の中へと入れられて……そのままソファへと座らされた。
「こほん、お、お見苦しいものをお見せしましたわ……」
「だったら帰らせて」
「申しわけありませんがそれは出来ません」
「そうですか」
向かいのソファに座る上級生がほおを染めつつ、軽くせき払いをしてから自己紹介をしてきた。
そして逃げるのはやっぱりムリだった。
「改めまして、わたくしは現生徒会長のナイト=グレートシールドと言います」
「生徒会長だった……。只野シミィン、です」
「存じています」
「そうですか……」
アレが鑑定をしたさいにわかった身長とか色々をことこまかに言った? それともナイト生徒会長があるかわからないけど、生徒会の権限っていうやつで情報を調べられたのかな? 半田先輩に監視されて以降は見られている気配とかしなかったから……だれかに近づいていなかったと思うけど。
そんな風に思いながら顔をしかめていると、アレが話しかけてきた。
「シミィンちゃん。そんなムスッとしないでさ~、これを上げるから機嫌直してよ!」
「……これは?」
ソファの前の燭台がおかれた小さいテーブルに皿が置かれ、上にはカツサンド……だと思うものがのっていた。
……たぶん、カツサンドだと思う。だけど、パンにはカツといっしょに卵焼きもはさまれていて、食べるのに口を開けなければいけない厚さだった。
けど、おなかが減っているからすこし美味しそうに見える……。
「シミィンちゃんのために用意した特製のカツタマサンドだよ! これを食べても良いから機嫌直してよー! それとも、カツサンドは嫌だった?」
「むぅ……、食べる」
「うん、食べて食べて!」
カツサンドもといカツタマサンドにうらみはない。
それにかべに付けられた何かが取りつけられていると思う時計を見て、いま食堂に行っても並ぶことになることが分かったから食べることにした。
……とりあえずは、変なものは入っていないのはわかる。
ひと切れ取って食べる。
「もぐもぐ……おいしい」
「よかった! 気にせず食べてね!」
もっちりとしたパン、だしの利いたタマゴ焼きとタレがかかったカツの味が美味しい。
タマゴ焼きの中にはうす切りの玉ねぎも入っていて、シャクシャクとした食感がいい。なんというか味わいが和風だけど、不思議とパンにあっていた。
もしかするとパンは普通のパンじゃなくて、米粉パンとかだったりするのかな?
……あれ? おこめ、タマゴ、玉ねぎ、カツって、何か組み合わせがあったような……。
そう思いながらわたしはふと周囲をチラチラと見る。
3人ともジッとわたしを見ていた。……なんというか、監視しているみたいだ。しかも燭台にささったロウソクにも火も灯っている。
監視、
どうやらわたしが食べているカツタマサンド、それはカツどんをイメージしたサンドイッチだったようだった。
明かりがつけられた小さいテーブルのうえに置かれたカツどん、囲まれるわたし。
そこでようやく、わたしは尋問されようとしているようだと気がついた。
「おいしい? シミィンちゃん……いや、賢者! それとも、レンが予想したようにテイマーだったりする?」
「いい加減、白状したほうがいいと思いますわよ。賢者さん? それとも、テイマーさん?」
『ううむ、僅かに魔力を感じる気がするが、賢者殿……と違う気がする。テイマー殿とも……どういうことだ?』
「テイマー、力が必要なんだ」
ニコニコ笑っていたアレだったけど、突然はりきったように力づよく言い始める。
それに続いて、ナイト生徒会長と側に立つ鎧の精霊っぽいナニカ(そっちは気づかないふり)、それと半田先輩がたんたんと言う。
というか、何度もわたしは言ってるけど、もういちど口にする。
「……わたし、けんじゃじゃない。あと、テイマーっていうのでもないから」
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