11-2.騒乱

 すごく、すごく……腹が立っていた。

 それはなにに? 境界を壊したバカに? 違う。向こうの世界から現れたモンスターが駅前で人を殺そうとしていたことに? 違う。……腹が立っているのは、わたし自身にだ。

 これを行ったのが誰かわからないけど……、こちら側から境界を壊す可能性も考えるべきだった。師匠と創った魔道具で周囲のモンスターが現れるのは不破治だけに集中すると思い込んでいたからこうなったんだ。

 これを引き起こした誰かが何かをするよりも前にこのことに気づけたなら……。そしてそれをとめることが出来たなら……。そうしたら、現破治で境界が壊されてこの場所にモンスターが出てくることなんてなかったはず……。

 すべてはわたしの怠慢が原因……。


「でも、これ以上はやらせない……。やらせは、しない……」


 ギリッと杖を握りしめながら、わたしは呟く。

 上空から≪氷壁アイスウォール≫を駅ビルの前に展開してドラゴンのブレスを防ぎ、続いて何が起きたのか分かっていないドラゴンへと≪風槍ウインドランス≫で翼の皮膜を撃ち抜き地面に落ちていったのを見ながら、わたしはゆっくりと地面に降りていく。

 その際、上空から駅前をチラリと見ると……あれらがモンスターと戦ってるのが見えた。

 あっちは……まだ大丈夫だと思う。

 というか、ゴブリン、オーク、スケルトンの混成だから問題はないと思う。

 それらに混じってアーチャーやモンク、マジシャン、ソードマンといった上位種はいるけど……それを倒せなかったら勇者じゃないでしょ? あと、なんか3人増えてるしピンチにはならないと思う。

 そんなことを思っていると、なんかバカ代表が叫んで手を振ってたりしてるけど……ムシする。


「賢者! 賢者だ! おーい、賢者! おーーいっ!!」

「四夜さん! 戦いに集中してくださいませ!」

「おい、ブラザー! ちゃんと戦えよぉ!!」

「うわっ!? ご、ごめんっ!!」


 戦闘中によそ見をしていたからか、盾を構えていたナイト生徒会長とバットを持つ同年代のチャラ男がバカ代表を怒鳴りつけている。

 その声にハッとしながらバカ代表は謝りながら、襲いかかってくるゴブリンの首を斬りおとしていた。

 また駅前からすこしだけ離れている場所では半田先輩がオークの眉間を狙って矢を放っているけど、武器の性能が悪いからか矢が眉間に刺さったとしても生き残ってるのが見える。

 その近くで駅構内に入ろうとするゴブリンから入り口を護るようにして、マッチョマンが蹴ったり殴ったりと肉弾戦をしているのが見えたし、それに補佐するようにして魔法を使う……わたしと方向性が違う暗さを持つ男が居た。


「というか、師匠以外で魔法を使う人……初めて見た」


 たぶんだけど、あの3人も転生者なんだろうな。でも持っている道具は……戦いに適したものじゃない。

 チャラ男が持っているのは野球のバットだし、マッチョマンは自分自身が武器みたい。魔法を使ってる男も何も持っていない。

 いちおうナイト生徒会長とか半田先輩とかアレは聖理事長の支援もあるから装備はしっかりしていると思う。ただし、素材的に武器には魔力を通すことが出来ないけど。


『『『GYAOOOOOOOOooo!!』』』

「っと、こっちも戦いに集中しないと。とりあえず、境界の回復を早めるために魔力をバンバン空気中に飽和させないといけないから……気にせず使おう」


 降りていくわたしを睨みつけながら、地上で体勢を立て直したドラゴンたちがいっせいに頭をわたしへと向けてブレスを放とうとする。

 というか、もう放たれる寸前だった。口に魔力が高まっているのが見える。

 だけどそれは分かっていたから、待機状態であった魔法を発動させる。


「≪魔力増加マナブースト≫、そして――≪拘束バインド≫」

『『『GUOOOO――GO、GOGYA、GYA――――!?』』』


 魔法が発動しようとした瞬間、大口を開いていたドラゴンたちの口の中で息と混ざり合っていた魔力は急激に拡大され、戸惑いを覚えた瞬間にいっせいに塞がれ――放たれようとしていたブレスは口の中ではげしく暴発してしまい頭は吹き飛んだ。

 そして頭を失ったドラゴンたちは失った頭部からけむりをモクモク立てながら、いっせいに倒れた。


「効率のいいやりかただけど、やっぱり見た目がひどい……。そして、この魔力のながれ……」


 頭があったかしょから血が垂れているのを見ながら呟くけど、これが一番簡単な下級ドラゴンの倒しかただからしかたない。

 師匠が言うには上級ドラゴンなどは口以外から魔法を普通に使うけれど、下級ドラゴンはブレスとして吐く息の中に属性魔力を込めて魔法を使うとのこと。

 そして、そんな下級ドラゴンたちを簡単に倒す方法は、口の中で息と属性魔力が混ざり合ってブレスを放とうとした瞬間にその口を塞ぐというものだった。

 そうすればドラゴンが放とうとしていた強力なブレスは中で荒れ狂って、体内を傷つけていく。そして、中で渦巻くブレスに体内は耐えきれずに……爆発する。

 そんな方法だけど例外があるとすれば、自身が持つ属性に対して無効耐性を持っているドラゴンだったなら効果が無いというものだったりする。

 フリーズドラゴンが氷属性のブレスを受けて回復したり、ファイアドラゴンが炎属性のブレスを受けて回復するのが分かりやすい例。

 まあ、許容量以上の威力が中で荒れ狂ったなら、無効耐性なんて意味がない。

 だから≪拘束バインド≫を使う前に≪魔力増加マナブースト≫を使った。

 そうすることで下級ドラゴンが込めた以上の魔力が自身の息と混ざり合うこととなる。その結果として放たれるブレスは激しい威力を生み出すことになるけれど……口を塞がれているため、強力なブレスはドラゴン自身の体内を荒れ狂ってしまうこととなる。

 それが師匠が教えてくれた簡単な低級や下級ドラゴンの倒しかた。


「ファンタジーの定番って言われてるドラゴンの肉は食べたいって思わないけど、皮はあったら便利だから回収しよう。それと血も残っている分はほしい……」


 呟きながら倒れた下級ドラゴンに近づくと素早く倉庫に収めていく。

 4トントラックほどのドラゴンだけど、倉庫のなかはまだ余裕がある。

 そう思いながら手早く周囲を見渡す。……うん、しゅういのモンスターはアレが率いるパーティーが対応してるから問題はないと思う。

 それといま戦ってわかったけど、下級ドラゴンの強さはアレらでもなんとか対処できそうだから大丈夫。というか出来なかったらザコ確定。


「だったら、こっちはこっちで行動しよう」


 呟き、わたしはもう一度空へと上がると……気配を探る。

 今回の境界の亀裂、簡単には塞がらなさそう。

 下級ドラゴンを倒したとき、残存魔力が境界に吸い込まれて塞がれる手助けが行われると思ってたのに……残存魔力は別のところに流れていった。

 多分だけど何かがモンスターを倒したときに漏れる魔力を吸い込んでると思うから、それを対処しないといけない。

 そう思いながらわたしは魔力のながれを視て、魔力が流れているほうへと向かって移動した。


 ●


 ☆ 四夜視点 ☆


 ほんの数十分前までは普通に人が行きかって楽しそうな雰囲気を出していた駅前だったのに。今じゃモンスターがうじゃうじゃと沸いて、平和なんて言葉がぐしゃぐしゃに丸められてゴミ箱に捨てられているようなものだった。

 ああもう、なんでこんなことになったんだよ!?

 心からそう思いながら握っていたロングソードをグッと握りしめ、襲いかかってくるゴブリンたちと対峙する。


「はあぁああああッ! 【ストライクスラッシュ】!!」

『『ギ――、ギギィ!!』』


 気合をこめてスキルを叫び、勢いのままにロングソードを横に振るう。

 するとスキルが発動し、刀身へと力が宿り威力が上昇をはじめる。

 それに対してゴブリンたちは持っていた武器で迫りくるロングソードを受け止めようとしたけれど、スキルによって強化された刀身は持ってた武器ごとゴブリンたちを斬り飛ばしていく。

 初めにぶつかったこん棒はバターのようにスッと斬れて、続けて1体目のゴブリンの首に吸い込まれていって……次の瞬間にはスパッと斬りおとした。

 そこから2体目のゴブリンが握るボロボロのダガーに剣先がぶつかりキャリキャリと金属同士が擦れ合う音を立てたけれど、ボロボロだったダガーはバキャっと折れてしまいそのままゴブリンの首を斬りおとした。

 しかし……、


「ああくそ、やっぱり途中で散っちゃうか……」


 2体目のゴブリンとぶつかり合う前に刀身に宿っていたスキルによって上乗せされていた力は漏れ出してしまい、ダガーと唾競りあって打ち勝ち、それをへし折ったときにはもうスキルの効果はほとんど切れていたため……ゴブリンの首を斬りおとときは多少力が必要だった。

 前の世界だったら、10体ぐらいまとめて倒してもスキルによって上昇した切れ味も衰えることがなかったのに……。


 この間の初めての魔族との戦いでの反省会でようやく理解したけど、ボクらが使っている武器や防具は聖女が用意してくれたこの世界において最も機能的な物を使っているけど……この世界の物だからか使われている素材に問題があるみたいだった。

 前の世界だと魔力の概念はあたり前にあったから、魔力があることが普通だった。だから、素材が原因なんて考えはまったく無かった。

 けど品質上に問題なんて全然ないし、忙しい中で施してくれた聖女の祝福が付与されてるから普通に使えるけど……、これはどうにかしないとと思いながらの今のこの状況。


「ほんと! タイミングがっ、悪すぎるんだよ!!」

『ブモォォォォォォ!!』

「ああもう、うっさい!!」

『ブヒッ!?』


 刀身に付着したゴブリンの血を剣を横に振って血を払うと……腰だめにロングソードを構え、迫ってくるオークに向かって力強く駆ける。

 突進してくるオークもボクが自分に向かって駆けてくるなんて思っていなかったみたいで驚いた声をあげるけど、知ったことじゃない。

 全身に≪身体強化≫を使って体を強化し、ロングソードを構えながら突っ込むボクはさながらひとつの弾丸のようだろう。

 というか考えてみたら、これって……映画でよく見るヤクザの鉄砲玉がしそうな持ちかただけど、安全性はばっちりだと思いたい。

 そしてあと少しでオークとボクが接触というところで、ロングソードを前へと突き出しながらスキルを発動。


「いけっ! 【チャージトラスト】!!」

『ブギャッ!!』

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」


 スキルとともに素早く突き出されたロングソードはオークの腹へと勢いよく突き刺さり、勢いが衰えないままに貫かれたオークの体ごと突進を続ける。

 その突進に巻き込まれるようにして後ろにいたらしいゴブリンたちが跳ね飛ばされていくのを見ていたけど、ロングソードに重みを感じてスキルが切れたのを理解するとオークの体からロングソードを抜こうとした。

 でも分厚いオークの腹からロングソードは抜けにくく、手間取ってしまい背後からスケルトンが近づいているのに気づかずに反応に遅れる。


「っ!」

「おっと、あぶねーぞ、ブラザー! おらっ、【ハードクラッシュ】!!」

「ありがと戦冶! 助かった!」

「気にすんな――よっ!! あーくそ、バッドがまた折れた!!」


 自分のミスにしまったと思い、多少の傷ならと覚悟を決めたボクだったけど、襲いかかってきたスケルトンは近くにいた戦冶のバッドの殴打で頭を砕かれて倒された。

 しかし戦冶の代償は大きく、持っていた武器……というか野球の木製バッドはバキッと音を立てて折れてしまっていた。

 折れたバッドを放り投げるとアイテムボックスから再びバッドを取り出し、ゴブリンへと駆けていった。

 ボクらと違い、戦冶たちはアイテムボックスに武器を持っていないようだった。

 でも私生活や部活動をするのにアイテムボックスは便利だから、こっそりと部活で使う道具は持っていたみたいだけど……。まあ、ボクらの場合は聖女の支援があるからロングソードや弓といった武器を持ってるんだから仕方ないか。


「ま、気にしてもしかたないか! 武は武で拳で応対してるんだしね!」

「ちょああぁぁぁっ! 【回転脚】ぅぅぅっ!!」

『『ゲギャハァァァッ!?』』

「分厚い脂肪だろうと、内側に当てれば問題はない! 【振動波】!!」

『ブヒ? …………ブヒャ?』


 言いながら武が戦っているほうに視線を向けると彼は格闘ゲームよろしくといった感じに空中でグルグルと両足を広げた蹴りを放ったり、地面に立つと気がうんだらこんだらって感じにオークに拳を押し当てて……少ししたら攻撃を受けたオークは血を噴きだして倒れた。それを見ながら、武はふぅはぁと呼吸して息を整える。

 ……うん、彼だけ別の世界で生きてるよね?

 ま、まあ、モンスターが減っていくことには変わりないから問題ないか!

 ちなみに術流は「ククク」と言いながら、離れたところから≪魔力弾≫をバラまいている。

 何というか好き勝手に動いているけど……これが前世での戦冶たちの戦いかただ。

 懐かしい。その中に居たことがあるから懐かしいという感情が胸の内にあるけど、今は戦いに集中をしないと。

 そう思いながらロングソードを握りしめ、モンスターと戦いをつづける。

 そんなボクを援護するようにしてレンが離れた位置から矢を放ち、死角から襲おうとしているモンスターの妨害や撃退を行ってくれていた。


「これ以上は先に行かせませんわ! 【シールドウォール】!!」


 また、そんな術流とレンを狙うように近づいてくるモンスターに対して、ナイトが盾スキルを使ってそっちに来れないようにしている。

 モンスターとナイトとの間に扇状にいくつも盾が現れ、モンスターがそっちに行けないでいるのが見えた。

 ちなみにナイトの持ってる盾は向こうの世界の盾が素体……というか大部分は修復されてるけど、聖騎士が使っていた盾だからスキルを使う場合も魔法を使う場合も拡散せずに盾に残っている。


「でもナイトの場合は偶然だったから、あっちの世界の素材を使った装備なんて無いからなぁ……」


 倒したモンスターが持っていたボロボロの武器を使うという手は……やっぱり無いや。

 あっちはあっちで質が悪すぎるから使いたくないんだよね。

 でも防具自体は倒したモンスターを素材にしたら創ることが出来るだろうけど、オークやスケルトン、それとゴブリンなんだよなぁ……。あ、けど下級ドラゴンが素材だったらいいなー。

 あー、でもこの装備で下級でもドラゴンと戦うのってかなり大変そうだなー……。

 しかも他のモンスターを相手にしているし、さらに大変だよね。


「まあ、とりあえずドラゴン以外を倒さないといけな――――っ!!?」

「っ!? お、おい、ブラザー……。何だこの気配……」

「わ、わからないけど……やばいよ。この気配……それに」


 なんだろう。いくつも感じる気配、ボクはそれらを……

 覚えのある気配にボクは緊張するのを感じ、ロングソードを強く握りしめる。


 そして、それらは……ボクらの前に現れたのだった。

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