11-9.騒乱【別視点】
飛び出した瞬間に世界は元の速度に戻り、四夜さんを呑みこんだブレスがわたくしたちに向けて近づいてきました。
ですがそれよりも先にわたくしは盾を構え、ブレスに向かって駆けだします。
後ろのほうから有家さんたちの声が聞こえましたが、大丈夫という確信はありました。
「はああああああああっ! 自らのブレスで切り刻まれなさい! 【シールドカウンター】!!」
『グ――オオオオオオッ!?』
盾がブレスにぶつかった瞬間、キャリッと表面を削ろうとする音と火花が散ります。
しかしその瞬間、スキルの発動条件は揃い――叫んだ。
するとこちらを呑みこもうとしていたブレスは逆流するように魔王に向かっていき、その体を傷つけていきます。
そして魔王の雄叫びが上がり、自らのブレスから逃れようとしますが――させません!
「逃しはしません! 盾使いの真価、お見せしますわ!! 【シールドウォール!】【シールドウォール!!】【シールドウォール!!!】――魔王をブレスごとをわたくしの盾で閉じ込めますわ! 【シールドジェイル!!】」
『グリュギャオオオオオオオオオッ!?』
「はぁ、ふぅ……すごい、まったく疲れませんわ……!」
「ナイト、ナイス。今度はあたしに任せて――毒で苦しめ、【ポイズンアロー・デス!】」
『グギャ!? ギャ――ヒッ? グゲゲゲゲゲェェェェェエェェェッェッ!?!?』
スキルで創られた透明な巨大シールドに囲まれ、自身が放ったブレスに体を傷つけられる魔王。
それを見ながら半田さんが弓を構え矢を番えると、慣らしと言わんばかりに一発矢を放ちます。
放たれた矢は魔王に近づくにつれて段々と物凄く毒々しい色へと変化していき、魔王を囲むシールドをすり抜けて魔王の体に命中した途端、魔王が激しく苦しみ出し口、目、鼻からどす黒い血のようなものを垂れ流しはじめます。……きっとこれ、普通の毒矢よりも強力なものですよね?
半田さん、地味にえげつないですわね……。そう思いながらチラリと彼女を見ると、思った以上の威力だったようで一瞬だけギョッとした顔を浮かべているのが見えました。
「ま、まだ終わらない。【ガトリングチャージ!】――【シューティングスターシャワー!!】」
『ガ――ガガガガガガッ!? グギャアアアアアアアッ!!!?』
戸惑った彼女でしたが追撃として、矢筒から矢をまとめて抜くとその手に携え――番える、放つを繰り返し行い、空に向けて連続的に矢を撃ち出しました。
空高く上げられた矢は一定の高度まで上ると地上に向かって流星のように落下し、魔王に勢いよく向かっていき、次々と魔王の体へと突き刺さっていきます。
その矢の威力は先ほどまで使っていた矢とは比べ物にならないくらいで、魔王は体にいくつもの矢を生やしていきました。
そして最後の矢が魔王の固めへと落下し、魔王の口から雄叫びが上がろうとした瞬間――!
「四夜さん!」「四夜!!」
「――まかせて!!」
わたくしたちの声に反応するようにして、革鎧を纏った四夜さんが跳び出していきました。
その手には、わたくしたちと同じように賢者さんから貰ったであろう
その姿は彼女が本当に勇者だということをわたくしたちに知らしめるかのようで、わたくしが思い描いていた勇者の姿でした。
『グオオオオオオッ!! ユウ、ジャ! ユヴジャアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!』
「っ! 【シールドジェイル】が――四夜さん!?」
「はあああああああっ! くらえっ、魔王!! ――【ブレイブスラーーッシュッ!!】」
四夜さんが近づくと気配を感じ取ったのか魔王は叫び、怨嗟の感情を吐き出すようにブレスを放ちます。そのブレスを【シールドジェイル】が受け止めていましたが、許容量を超えたのかパリンと音を立てて【シールドジェイル】は砕け、四夜さんに向けてブレスは放たれました。
魔王の怨念を宿しているからか放たれたブレスは先ほどの風属性のブレスとは違い、禍々しさを感じるようで、呑みこまれた者の命を刈り取るかのように見えます。
それに対して四夜さんは避けることなく、雄叫びとともに向かってくるブレスへと剣を振りました。
瞬間、振られた煌々と輝く剣は夜空を流れる天の川のようにブレスを切り裂き、切り裂かれたブレスは霧散し――最後まで振り下ろしたときには魔王の体が肩口から下半身に向けてパックリと斬られていました。
『ゥ、ア、ォ……ア、ァ……!』
「やっぱりこれでもまだ死なないか……。魔王、ボクにはもうキミが哀れでしかたないよ……」
剣の切っ先を魔王に向けながら四夜さんは憐れむように魔王を見ます。
わたくしは知り得ませんが、きっと勇者として魔王と敵対していたから相手を認めていたのでしょうね……。
そう思いながら四夜さんを見て、未だ死なない魔王に視線を移しました。
魔王はパックリと斬られたままの状態で微動だにしませんでしたが……口からはうめき声だけは漏れていますので生きているのは確かです。いえ、これは生きているのでしょうか?
そう思いながら切断面から垂れる血のような黒い液体を見ると、地面に滴るように溢れ……周囲に広がっていました。
「これは、止まる気配はなさそうですわね……」
「ナイト、【シールドジェイル】でまた魔王を閉じ込めることできないかな?」
「やってみますわ。――【シールドジェイ――!?」
先ほどと同じように魔王とそれから垂れる液体を纏めて【シールドジェイル】で閉じ込めようとしていると、コポリ……と切断面から心臓のような物が現れました。
それを見た瞬間、強烈な目眩が襲いました。
「――ぅ!? な、んですの……これ」
「これ、魔力濃度が……」
「っ! 魔力量は大したことないのに、質が……やばいっ!」
腹の中がグチャグチャにかき回されるような感覚を感じながら、膝をついてしまうと……地面にポタリポタリと血が落ちる。
これ、自分の体からこぼれてる……?
鼻から感じるヌルっとした感覚と鉄さび臭で鼻血が出ていることと、口の中に広がる鉄さびの味に気づきつつも、一切立ち上がることができません。
『ナイト殿! しっかりせよ!』
「おじ、さま……」
必死にわたくしを呼ぶおじさまの声になんとか返事をしますが、立つことが出来ず……それどころか体に力が無くなっていきます。
これは、どうして……? 徐々に冷えて行く体に恐怖を覚えつつ、どうにか体を動かそうとするけれど……動きません。
四夜さんや半田さんは、どうなりましたの? 他の人たちも……。
はやく、おきないと。はやく……。
立ち上がろうとするわたくしですが、何時の間にか体は地面に突っ伏していて……意識が朦朧として、思考が定まりません。
『ァァァァァァァァァ……』『ォォォォォォォォォォ……』『ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……』
そんなわたくしの耳に、まるで死の国からの誘いかのように怨嗟に満ちたような声が届きます。
何かが近づいてくる。対抗しないと……なのに、起き上がれない。
『ナイト殿! ナイト殿!!』
おじさまの声が聞こえるけど、返事ももう出来ない。
どうにかしないと、起きないと……。
「――≪
動かない体を必死に動かそうとする中、どこからか声が届き――直後、いくつもの光が見え、光が自分をすり抜けた感覚がすると意識が落ち着いたのを感じました。
「うっ――げほっ、げほっ! た、助かった……」
「けほっ、けほ……いったい、なにが……?」
「っぺ……! 生きてる……のか?」
「ぅ、不覚……」
「ヒッ、ヒヒッ、い……生きてる! 生きてるよぉ!!」
「はぁ、はぁ……そ、そうですわ! ま、魔王、魔王はどうなりましたの!?」
「「「そ、そうだったっ!」」」
わたくしと同じように呼吸が出来ずにいた四夜さんたちも呼吸ができるようになったみたいで生を実感していますが、魔王のことを思い出しそちらを見ます。
ですが、魔王を見た瞬間、わたくしたちは固まりました。
何故なら魔王を囲むようにして、光の壁が展開されており……その前には誰かが立っていたのですから。
古めかしい厚手のローブを羽織り、最低限の装飾のみ施された木の杖を掲げた人物。
「あ、あれは……! 来てくれたんだね!」
四夜さんが嬉しそうに彼女の後姿に声をかけます。
先ほど空を飛んでいた姿をチラリと見ましたが、こうして間近で見るのは初めて……いえ、【鏡映】のミラーとの戦いで見ていましたね。
そう思いながら、四夜さんが彼女のなまえを口にしました。
「待っていたよ! ――賢者!!」
――――
やばい、こんがらがってる。
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