11-8.騒乱【別視点】

 ◆ ナイト視点 ◆


「い――いやあぁぁぁぁぁぁっ! 四夜さん、四夜さんがぁぁぁっ!!」

「ナイト、落ち着いて……!」

「半田さん、放してください! 四夜さんが、四夜さんが!!」


 わたくしが全力で抑えようとしても無理だったブレス、それに呑みこまれる四夜さんを見ながらわたくしは叫び駆け出そうとします。

 ですがそんなわたくしを半田さんが抑えました。しかもわたくしを逃すまいと力を込めて……。


「わかってる! けど、あたしたちが動揺したらダメ! だから、落ち着いて……!」

「……半田さん。そう、ですわね……。わたくしも、落ち着かなければ……」


 いつも冷静というか平坦な半田さんが出した大きな声で冷静さを取り戻すことができ、わたくしは落ち着くと前を見ます。

 現在、四夜さんはあのブレスに呑みこまれてしまっています。そして四夜さんを呑みこんだブレスはわたくしたちをも呑みこもうと轟々と近づき……あれ?


「ブレスが、近づいて……来ない?」

「範囲外? ……違う、周囲の反応が遅くなっているんだ」

「え? ど、どういうことですの??」


 ピタッと動かないブレス。それに呑みこまれた四夜さん。

 その光景に違和感を覚え呟くと、半田さんが周囲を見渡して違和感の正体を告げます。

 というか、周囲の反応が鈍くなっているってどういうことですの?

 半田さんのように周囲を見ますが、本当にスローモーションになっています。……それもスーパースローモーションと呼ばれるレベルのものです。


「これ、誰かの魔法? けど、誰が? ……ううん、誰っていわれてもたぶん、賢者しかいないか」

「賢者さんですか? でも、いったい何のために? 作戦会議でもしろとでも言うのですか?」

「それはどうだろう……いや、作戦会議ってわけじゃないだろうけど、装備を整えろってことなのは間違いないと思う」


 半田さんの言葉に首を傾げつつそちらを見ると、いくつかの装備が置かれていました。

 これは……盾と鎧? それと隣は弓と矢、それと胸当てですわね。

 そう思いながら近づくと、瓶が数本置かれてもいました。


「半田さん、それ……」

「確認する。……高品質のポーションだ。とりあえず飲む」

「え!? だ、大丈夫ですの?」


 瓶の栓を抜いて匂いを嗅いだ半田さんはそれがポーションだと説明すると即座に飲み干しました。

 すると効果はすぐに現れたようでした。


「これすごい! ……飲んだらすぐに減っていた体力も魔力もスタミナも回復した。ナイトもはやく飲んで」

「わ、わかりましたわ……。――っ!?」


 言われるがままに1本飲むと、先ほどまで残っていた盾を構えていた腕の痺れが解消され、スキルを使用しすぎた肉体の疲労感がスーッと抜けていくのが分かりました。

 その時点で理事長の作られるポーションよりも効果が高いというのが分かります。


「……多分だけど、あたしたちに送られたってことは四夜にも届いていると思う。そして四夜は今あの中で装備を整えてると思う……ううん、整えてるに違いない」

「っ!! そう、ですわね。半田さん、わたくし……四夜さんを助けたいですわ」

「うん、わかってる。だから、四夜を助けて……いっしょに魔王を倒そう」

「ええ、ええ、そうですわね!」


 諦めそうになっていた。だけど賢者さんの支援によってなんとかなるかも知れないという希望がわたくしの中に芽生えました。

 そうと決まれば装備を整えますわよ!

 胸の奥に灯りはじめた炎を絶やさぬようにわたくしは置かれた装備へと手を伸ばす。

 隣では半田さんも同じように装備に手を伸ばすのが見え、互いに装着を始めました。


「すごい、この革鎧……まるで初めから採寸していたかのようにしっかりとフィットしますわ。それにボディーアーマーよりも柔らかいのに、強度が段違いじゃないですか……」

「この胸当ての素材、上位のドラゴンの革? でも、上位のドラゴンなんてこの世界に現れていないはずなのに……じゃあ、賢者のアイテムボックスに残ってた? けど、転生したときにあたしたちのは残っていなかったはず……なんで?」

「半田さん、この盾……な、なんですの!? わたくしの盾以上に魔力があっさりと通りますわよ!?」

「それ、魔鉄? この世界で魔鉄を作れたの? こっちの弓矢も使われている木材に魔力が凄く通りやすい……! しかもこの弦、上位のドラゴンの髭!?」


 ピィンと張られた弦を鳴らしながら半田さんは驚いた表情を浮かべていますが、同じようにわたくしも驚いています。

 何故なら先ほどまで構えていた盾よりもこちらの盾のほうが魔力が浸透しやすく、これなら魔王のブレスも防ぐことができるという確信もありました。

 そしてわたくしが盾を持ったことで不可視となっていたおじさまが隣に現れ、興奮した声が上がります。


『これは……! ナイト殿、この盾ならば自分が持っている力をかなり出すことができますぞ!』

「おじさま! 無事でしたのね!!」

『心配かけたなナイト殿。しかし、その盾を持ったおかげで自分は立ち直ることができた。感謝する』

「いえ、わたくしが感謝されるいわれはありませんわ……。ですが、おじさま。わたくしを手伝ってくださいませ」

『任されよ。してどうするつもりだ?』


 わたくしのお願いにおじさまは頷き、どう動くのかを尋ねる。

 それに対して、わたくしと半田さんは四夜さんを救助すると同時にどう動くかを相談し、自分たちの役割を分担していく。

 この場に四夜さんは居りませんが、きっと彼女がどう動くかは理解できているつもりです。だから、信じましょう。


「それじゃあ、行こうか……ナイト」

「ええ、参りましょう半田さん」


 きっと賢者さんが用意したフィールドから外に出たら、動きは元通りになる。

 そのときがきっと戦いが再開される。

 でも、負けない。負けてたまるものですか!

 わたくしはナイト=グレートシールド! グレートシールド家の娘であり、四夜さんの親友! そして誇り高き聖騎士の力を受け継いでいるのですから!!


 ――そして、わたくしたちは飛び出した。

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