11-7.騒乱【別視点】

「いったい、どうなったんだ……?」

「ボクにもわからない。けど、危険すぎるっていうのはビンビンする」

「正直逃げていい?」

「四夜さん、大丈夫ですの?」

「ブラザー、大丈夫か?」

「……か、勘が、アレはやばいと告げてる……」


 口々にボクらは呟きながら変化した魔王を見る。

 というかどうしてあんな感じになったんだ? オネットを呑みこんだから?

 もしかすると賢者ならわかるだろうけど、ボクらには解かるわけがない。

 けど、戦うしかないのは間違いないと思う。そう思っていた瞬間、魔王が吼えた。


『グルァアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!』


 その咆哮に周囲の空気が震え、無事だったビルの窓がパリンパリンと割れる音が響き……それを皮切りに色んな人の悲鳴が聞こえた。

 直後、ダンッと魔王が後ろ足を蹴って、猫のように空高く跳んだ。

 そして上空を警戒しながら飛んでいた一頭のドラゴンの首に噛みつき、前足をブンと振るうと風の刃が飛び出て……飛んでいた他のドラゴンを切り裂き、さらに周囲の建物をも切り裂いたのが見えた。……中の人は無事?


『GI! GIIIIIIIII!!!』

『GYAOOOOOOO!!?』

『グオオオオッ!!』

『GYA!? GA――!』


 魔王が地面に降りると首を噛みつかれ一緒に落ちたドラゴンは必死に噛みつきから逃れようと暴れていた。

 だけど魔王が顎に力を込めると、ゴキリと首の折れる音とともにドラゴンは絶命した。

 そしてドラゴンの死骸を魔王は骨ごとゴリゴリと食べ始めたのか、すごい音が周囲に響く。

 そんな様子に建物に隠れていた人たちは青ざめ恐怖に震え、ボクらは理性の無い有様に言葉を失い、自分たちも巻き込まれたくないとでもいうように他のモンスターたちも距離を取り始めた。

 しかしきっと魔王はドラゴンを食べ終えたら……次は別のモンスターを狙うか、それとも建物の中に顔を突っ込んで人を襲うかも知れない……。

 だからボクは剣を握りしめ、集まっていたみんなへと振り向く。


「行こう、みんな……。あいつを、魔王を倒そう!」

「「「「え?」」」」

「このままだとアレは見境なく周囲を壊したり、襲ったりすると思う。だから、そうなる前にボクらで倒さないといけないんだ」

「お、おいおい、ブラザー……。本気、なのか?」

「そ……そうですわ。今の装備で相手をするなんて無茶が過ぎますわよ?!」

「あたしも同意。どうにかしないとって思うのは分かるけど……今のままじゃ……」


 ボクの言葉に否定的な意見ばかりが出る。

 だけど、みんなもあの魔王を放っておくのが危険だと理解しているのは目に見えてわかった。


「それは分かってる。けど、けど、ボクが逃げたら他の人たちに危害が加えられると思う。ううん、きっとここが地獄のような場所になる! だから、ボクは戦うんだ!!」

「……やっぱり、四夜は勇者。武器はボロボロ、戦力もかなりかけ離れてる。けど、やると決めたら絶対に逃げない」

「ったく、今度可愛い女の子を紹介しろよ? とびっきり可愛い子をよ!」

「オレは筋肉好き女子であれば嬉しいな、もしくはジム通いの子とか」

「ククッ、オタク趣味を理解してくれる女子を頼む……」

「レン、戦冶、武、術流……」


 ボクの言葉に賛同してくれた4人に感謝する。だけど、女子の知りあいって居ないから紹介はたぶん無理なのは今は言えない……。

 そんなボクたちを見ながら、ナイトがすこしキレ気味に叫ぶ。


「し、四夜さん! む……無理ですわ! やめてくださいませ!! あんな巨大で凶悪な化け物を相手にするなんて……! そ、そうですわ。軍隊を派遣してここにミサイルを撃ち込めば良いではないですの!」

「ナイト、無理だよ。一度決めたら四夜は止まらないの、知ってるよね?」

「分かってます。わかってますけど……! あんなのを相手にしても、無駄死にするだけじゃありませんの!?」


 ……ああ、そう言えばナイトはこれまであんな大きなモンスターと対峙したことなんてなかったんだ。

 それに力の違いが大きすぎるのもこの間の【鏡映】のミラーぐらいで。だから、勝てるって自信がまったく無いんだ。

 前世の記憶を持っているボクやレンたちと違って、ナイトは聖騎士に憑かれているだけなんだからしかたないか……。


「大丈夫だよナイト。ボクは、ボクらは負けない。これまでだって負けそうになったし、勝てない戦いもあった。けどその度に立ち上がって、強くなった。

 ……だから、ボクは、ボクたちは負けない。勝つからね!」

「四夜さん……。けど、わたくしは……」

『ギャオオオオオオオオオオッ!!』

「「――っ!!」」


 不安そうにボクを見ながら名前を呼ぶナイトだったけど、突然魔王が吼えた。

 その咆哮に驚きながら魔王を見ると、背中がグチャブチャと肉を引き裂くような音を立て……背中から翼のようなものが生えるのが見えた。

 翼のようなものじゃなくて、翼だ。しかも、ドラゴンの翼? ということは、魔王のあの姿って、魔石が関係している? オネットに使われていた魔石を呑みこんだからあの姿で、ドラゴンの魔石を呑んで翼が生えた?


『グギャオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

「っ! 四夜さん!! ――【シールドウォール】!!」

「ナイト!」


 魔王があの姿になった原因がもしかしたらと思っていると、魔王が咆哮を上げ顔をこっちに向けた。瞬間、理性がない血走った目がボクを貫いた。

 いったい何を? そう思った瞬間、息を吸うのが見え――まさか!

 何をするのか気づいたとき――魔王の口から激しい風ブレスが放たれた!

 それにいち早く気づいたナイトが地面に盾を固定し、スキルを発動させるとボクらの前方に半円状に透明で大盾が展開された。

 直後、風ブレスと透明な大盾がぶつかり合う。直後、キャリキャリキャリと金属が激しく擦れる音が周囲に響き渡った。


「――くっ! 護って、みせますわ!」

『ナイト殿! このままではナイト殿が危険だ!』

「わかっておりますわ! でも、わたくしが逃げたら……四夜さんたちが! それに、施設が巻き込まれるかも知れませんわ!!」

「ナイト、無茶だ! このままじゃ、キミの盾も壊れてしまう! 速く逃げるんだ!!」


 ボクの声にナイトは返事をしない。意識を前に集中しているからか返事が出来ないのかも知れない。

 だけど代わりに彼女のスキルで創られた大盾がブレスによってパリンパリンと砕ける音が聞こえた。

 それでもナイトはその場から離れることなく、盾を前に構える。

 そして、最後の透明な大盾が壊れた瞬間、ナイトは叫んだ。


「……四夜さん! あとはお願いしますわ!!」

「ナイト!? キミ、まさか……!」

「おじ様、申しわけありません……! 壊してしまいます!」

『ナイト殿……! お気になさるな! 勇者殿、あとは頼みます!!』

「ナイト! 聖騎士!! ダメだ! ボクが何とかするから!!」


 このままだとダメだ。ナイトが死んでしまう!

 イヤだ、イヤだイヤだ! ボクはもう、仲間が死ぬところなんて見たくない。

 誰も死んでほしくはない。


「死んでほしく――ないんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「四夜!」

「ブラザー!」

「っ! 四夜さん!?」

「はああああっ! 【パワースラッシュ】----ッ!!」


 ナイトの肩を掴み、引っ張るように後ろに下がらせると同時にボクは握りしめた剣に魔力を込めて、こっちに向かってくるブレスに向けて振るった。

 直後――ギャリギャリと金属が擦れる音が響き、火花が散る。

 両腕が痺れ、力負けしそうになるけど……ここで逃げたくはない!


「うおおおおおおおおおおおおおっ! ま――けるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 腹の底から叫び、散った火花が頬に当たり熱い、足が震える。

 それほどまでにこの風のブレスは強力だった。……しかも、間近で見て気づいたけどこのブレス……小さな風の刃が荒れ狂っているんだ!

 こんなのに呑みこまれたら、細切れになってしまう……! 何とか防いだとしても、傷だらけになってしまうかも知れないし……。

 そんな感じに考えながら、ブレスが収まるまで剣で防ごうとしていた……けど、限界はあっさりと訪れた。


 ――ガキッ、パキッ。


「え――あ、しま――っ」

「し、四夜さーーんっ!!」

「四夜!」


 魔力で覆った刀身だったけど、耐久性が増したわけじゃなかった。

 元々ボロボロになっていた刀身が折れた瞬間、まるでスローモーションのように風のブレスがボクを呑みこもうとしていた。

 後ろから焦るナイトとレンの声が聞こえた。

 ……あー、これ、大丈夫かな? どうにもならないかな?


「やっぱ、無理かなぁー……」


 そう呟きながら、ボクはブレスに呑みこまれてしまった。

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