ex-2.とある雑誌記者の災難
@ 記者後輩視点 @
どもっ、ウチの名前は佐久羽莉々須というっす! 気軽にリリスちゃんって呼んでほしいっす!
ウチは東京にあるオカルト系のネタを取り扱っている出版社に勤めているっす!
そしてそして、この世界に来てからまだ6年しか経ってない新参者っす!
この世界――、ようするにウチは元々別の世界で生きていたっす。しかも、人間じゃなくて、モンスターに分類されるサキュバスっす!
まあ……ママが子作り用の種に選んだオスは顔だけの男だったみたいで、そんな男を父親にしたウチはサキュバスでも下の下ってくらいに魅了の才能も、魔眼の才能も、魔法の才能もなかった落ちこぼれだったっすけどね。……ハハ、なんだか泣けてきたっすよ。
ちなみに才能の塊と言われていたママは何時ものようにイケメンを漁りに街に行ったきり戻ってこなかったから、きっと誰かに倒されたっす。
そんな周りからバカにされるレベルの落ちこぼれだったウチっすけど、向こうの世界ではまったく通じなかった男を惑わす魅了だとしても、この世界の人間には一応は通じたみたいで……召喚された際にウチを召喚者たちを操って、この世界の知識とか戸籍を手に入れることができたっす。
ちなみに初めて受けた魅了が召喚者たちに効きすぎたからか、彼らは突然「魔王様の声が聞こえる。生贄を求めている!」とか言って飛行機をハイジャックする計画を立てはじめて、それを実行してたっすけど、案の定失敗に終わってたみたいっす。
召喚者たちを失ったけど、彼らから教えられたこの世界の知識を得たウチは向こうの世界では落ちこぼれサキュバスだったっすけど、この世界では有能な雑誌の記者として頑張っているっす! ちなみに記者のスカウトは偶然だったっす。運が良かったっす!
そして今日は数日前から予定されていた取材のために、会社の先輩といっしょに目的地に向かっているっすよ!
くたびれた中年みたいな先輩はダメダメっすから、ウチが頑張らないといけないっす!
「先輩先輩、美味しい食べ物とか出るっすかね?!」
「あー、あるといいなー。そうなればいいなー」
「むー! なんすか、その心の籠ってない返事はぁ!!」
「いや、だってよ、普通に考えて都市伝説でしか噂されていないとこからの招待状だから、仲良く会食とか、みんなでワイワイビュッフェとかでご飯食べれますよ~って感じじゃないと思うぞ」
「そういうもんすか?」
ちょっと認識のズレというものがあるからか、ウチには理解できないっす。
だって、招待状といったらイメージだとパーティーって気がするし、会場が有名ホテルだから美味しい食事にありつけると思うっすよ?
召喚者たちだって、見た目があれだけど楽しそうにパーティーしてたし……。
ウチが上座でヤギの生首が置かれて、変な魔法陣が床に描かれて……あれ、考えるとアレはパーティーって言うんすか?
そんなことを思いながら、先輩についてウチは会場入りしたっす。
……でもしばらくして、呑気に浮かれていたウチを叱りつけたいと思ったっすよ。
いや、本当。そう思うっす。
〇
「ほえ~、おっきいホテルっすね~」
「本当に大きいな。というか、H機関ってよくこのホテルの一室を借りることが出来たな」
「このホテルって有名なんすか?」
「ああ、調べたけど聖財閥が経営しているホテルの中でも最上級に入るホテルらしいぞ」
「ほへ~……」
ホテル前に到着したウチらはホテルの大きさに圧巻しつつ、周囲を見るっす。
……これは、どう見てもセレブリティ溢れるホテルっすよ!
聖財閥って凄いんっすね!
そんなすごいホテルで、どんなパーティーが行われるっすかね~。
ワクワクしながらホテルに入った瞬間……首筋にチリッとした感覚を感じたっす。
「?」
「何してるんだ。はやく来い」
「あ、待ってくださいっす先輩~!」
何か感じた気がするけれど、きっと気のせいっすよね?
そう思いながら指定された会議室に入ると、すごくお偉いような外人さんたちがいっぱいいたっす。
あ、あの人はテレビニュースとか新聞で見たことがあるっす!
きっと他の人たちも有名な人たちに違いないっす。とか思いつつ、キョロキョロとしていると……キュッと心臓を鷲掴みされたような感覚がしたっす。
瞬間、全身を駆け巡るのはかつての走馬灯。
『いいことリリス、サキュバスの武器は色気なの。色気で魅了して、男を誘惑して女王様になるのよ』
『はーい、ママ』
『それじゃあ、ウチは新しい寄生先を探しに行くから楽しみに待っているのよ』
『いってらっしゃーい』
ママとの最後の会話。
胸が大きくてスタイル抜群な美人で、男を魅了させて精気を吸いとる技術に長けていたサキュバスクイーンになれる可能性が高いと言われていたママ。
ママ……ウチはスタイルはママ譲りだったけれど、それ以外はポンコツだったっす。
ダメダメなウチを許してほしいっす……――はっ!?
「大丈夫か、後輩? 何か一瞬飛んでただろ?」
「だ、だだ、大丈夫。大丈夫っす。ちょっと色々あって驚いただけっす」
「そうか。なら良いけど……、具合が悪かったらちゃんと報告するように」
「りょうかいっす」
ウチの返事に先輩はそう言って、時間までジッと待つけど……ウチは気が気じゃなかったっす。
だって、気づいたけど……この会議室、というかホテル全体にモンスターを寄せ付けない結界が張ってあるっす。
ゴブリンだったら一瞬で消滅で、かなり魔力がある魔族だったら弾かれてしばらくは侵入できないレベルの聖なる結界っす。
向こうの世界だと、神の祝福を受けた大司教とか聖女が張れそうなレベルの代物っす。
けど、ウチはかなりポンコツだから悪影響はあまりないみたいっすけど、チクチクとした棘が首筋に押し当てられる感覚はしているっす。
こればかりはポンコツだったことに感謝するべきっすか? それとも、ここまで来てようやく結界に気づいてしまったポンコツっぷりを呪うべきっすか?
心の底からそう思いつつ、会議場から逃げれないかと先輩に問いかけたけれど……状況的には無理みたいだったっす。
と、というか、どうやって、誰がこんなやばい聖なる結界を張ったんすか?
ま……まさか、聖女がこの世界に帰ってきてるとか……。い、いや、この世界に来てから読んだ転生ものの小説のような展開なんてないっすよね? ね!?
心からそうであってほしくない、そう思いながら必死にこの時間が早く終わることを祈っていると……会議が始まろうとしているのか、主催者らしき女性が執事と思われるおじいさんを連れて入ってきたっす。
ある程度の年齢の女性だろうけれど、生命力に溢れているように感じられるっす。
その女性はお偉いさんたちを見回すとお辞儀をしたっす。
「皆様、本日は招集に応じてくださり誠にありがとうございます」
『ミス乙女、本日はどういうわけで我々を呼んだのですか?』
『そうです。乙女さんの招集でなければ参加なんてしませんでしたよ?』
『しかも、今日の会議は有名な新聞社なども同じ室内にいるようですし……』
お偉いさんたちが口々に入ってきた女性に質問をしており、女性は黙って聞いているみたいだったっす。
なんだか、重い雰囲気がするっす。どこかで見たような気がするっすけど、誰でしたっけ? そう思いながら先輩を見ると……驚いた表情をしていたっす。
「先輩? どうしたっすか?」
「おいおい、マジかよ……。都市伝説でしか聞かないところからの招待であんな大物が来るってどういうことだよ……」
「……先輩?」
「っ!? ぉまえなぁ、そんな感じに耳元で囁くなって言ってるだろ? とりあえず、正直驚いている。あの女性は聖乙女っていう、このホテルを経営している聖財閥の現当主なんだよ……」
「現当主って……かなりの大物じゃないっすか!?」
トカゲの尻尾を追いかけたらドラゴンが顔を出したってぐらいに凄いっすよね!?
というか、どういうことっすか? H機関と聖財閥って関係があるってことっすか?
そんな風に思いながら、女性に視線を移したっす。すると同じようにあっちもこちらに視線を向けて、目が合ったっす。
瞬間、全身を電流が奔ったように震えたっす。
「――――ひぅ!?」
「お、おい、後輩? ど、どうしたんだ?!」
「あばばばばばばばばばばば……」
ウチの突然の叫びに先輩は驚いたみたいだったっすけど、そんなの気にしてる余裕はないっす。
目が合った瞬間、理解したっす。あの人、ウチら魔族やモンスターの弱点である神聖魔法の使い手っす。
しかも、かなりの使い手だというのが分かって、関わるとウチの人生お先真っ暗というか消滅待ったなし間違いなしっす。
それを理解してしまったために、ウチはしばらく使い物になりそうになかったっす……。
先輩、あとは任せたっすよ……がくっ。
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