ex-3.元聖女さまは異世界を語る。【前編】

 ☆ 理事長視点 ☆


 7月に行う予定の優木さんたちのお披露目。

 その発表を行うための会場は押さえましたし、日本政府にはもう連絡を行ったし、優木さんたちもやる気が十分に見られています。

 というかやる気が十分すぎて、どんな感じの仕草がテレビ映えするかなとか言ってて、すごく勇者感など感じられません。というよりもミーハーな感じでしたが女の子らしい今の人生生きている感がしましたね。

 そんな彼女たちが大人たちの都合のいい道具にされないための準備として、今日は聖財閥の企業として交流のある国々の政府重鎮と、財閥が支援を行っているテレビ局や新聞社の人間などを招いてのこの世界の状態の説明と魔法は本当にあるという認識をさせるのが目的でした。

 招待に応じてくれた各国の重鎮と新聞社などが会議室に集まるのをじいやからの報告で聞いていた私でしたが……聞き慣れない出版社に首を傾げます。


「じいや、この出版社は何ですか? 私には聞き覚えがないのですが……」

「いえ、それが……何故か、お嬢様名義の招待状ではなく、H機関からの招待を受けて来たと受付で言っていたみたいなのですが……だれも出した様子が見られないのです」

「出したはずがない招待状を受けて来た……ですか? ……賢者さまか、只野さんでしょうか? ですが、何故この出版社に……」

「調べたのですが、オカルトをネタにしている雑誌を出版している会社のようです。……只野様であれ、件の賢者様であれ、何らかの意図があるのでしょうか」

「だと良いのですが……。さて、そろそろでしょうか」

「はい。ではお嬢様、参りましょう」


 ある意味ブラックボックスなお二人の真意が読み取れないまま、開始時刻が迫り、じいやに導かれるままに会議室へと向かいます。

 会議室に入り、チラリと集まった方々の様子を見る。席へと座るために歩く私に様々な視線が突き刺さる。……私がおこなう行動を信望してくれている人、今回呼び出した理由が告げらていないためにどんな用件かを疑っている人、今回招集を行ったことの真意を探ろうとする人、様々だ。

 善意と悪意が入り乱れる政府重鎮、壁際では招待された出版社や新聞社の方々が居り、ボイスレコーダーやテレビカメラ、スマホ、昔ながらのメモ帳を持っている人も居ますね。

 それにグラビアアイドル顔負けな女性もいまし……って、あれってサキュバスじゃないですか?! え、何でこんなところに?

 もしかして、私の行動を予測した現在の魔王軍が送ったスパイですか?

 いえ、ですが、彼女からはスパイっぽさはまったく無いんですよね……。というよりもポンコツオーラが強く――あ、目があ――って、気絶しましたよっ!?

 しかも気絶する直前には私を見て怯えましたし、壊れた機械のように震えてました……え、私なにかしました?


「……こほん、お嬢様。どうやら出版社側で何かあったようです」

「え、ええ、そうみたいね。……じいや、ホテルスタッフに連絡して彼女を医務室に連れて行ってあげてください」

「かしこまりました。失礼、よろしいでしょうか」


 じいやに頼むと私から離れ、倒れた女性サキュバスに声をかけている彼女の同僚と思しき男性に声をかけつつ、ホテルスタッフに連絡を入れています。

 ちなみに各国政府重鎮や他の報道関係者からの視線を受けているので、男性はたまったものじゃありませんね。

 こんな中で席に座るということはせず、立っているとホテルスタッフが中へと入ってき――あの、オネットさん? 何をして……あ、はい、貴女はホテルスタッフですね。

 ちょっと性癖が狂ってしまったメイドさんじゃないですよね。そう思いながらホテルスタッフオネットさんに女性は運ばれていくのを見届けます。

 多分ですが、女性が運ばれた先には彼女が居ますよねー……。


「お待たせいたしました、お嬢様」

「……ご苦労様です。じいや。皆様、お騒がせしました。そちらの出版社の方は気を落とさないでください」


 遠い目をしていた私ですが、じいやが戻って来たのでハッと正気に戻り、針の筵のような心境になっているであろう男性記者にフォローを入れる。

 あの様子から女性が倒れたことで周囲からのやっかみを覚悟していたのでしょうが、私の言葉で少し緊張が解れたように見えます。

 そのタイミングで私は集まってくれた皆様へと頭を下げた。


「さて、では改めてこの度は私に時間をくださりありがとうございます」

『それについては構わないが、どういう意図で我々を呼んだのかを聞きたいのですが』

『先ほども訊ねたように、新聞社や出版社の人間もいるようですが……本日はいったい何を行うのですか?』

「はい、本日は少し先に行われる日本政府主催によるある会議のための事前打ち合わせを行いたく皆様を集めました。出版社及び新聞社の方々は本日の記録を取ってもらうと同時に、後日行われる発表の際にすぐに対処出来るようにしてもらいたくお招きいたしました」

『会議ですか? ……そういえば、予定が組まれていましたね』

『確か、何かのお披露目をするとか……』

『それとミス乙女といったい何の関係があるのでしょうか?』


 呼ばれた意図を知りたい各国の重鎮たちの問いかけに返事をし、後ろに立つ秘書に尋ねて後日行われるお披露目会の要件を思い出しているようです。

 そんな首を傾げる彼らを見ながら、会議室内の3Dディスプレイを起動させるようにじいやへと指示を出します。

 私の指示に頷き、じいやは準備を始めます。その間に、今回私が招いた諸外国の方々に挨拶を行いましょう。


「まずはじめに――本日皆様をご招待した理由は私個人、または聖財閥との関係があるというだけではありません。じいや、例の映像をお願いします」

「かしこまりました。皆様、円卓中央に設置された空中投影式のディスプレイをご覧ください」

『『『――っ!! こ、これは!』』』


 円卓中央に設置されたホテルロゴが浮かんでいた3Dディスプレイへと指示した映像が映し出されます。それを見た瞬間、映像の映し出されている存在に覚えがある各国重鎮の方々が息を呑むのがわかりました。

 何故なら映し出された映像というのは、現破治の街並みを映し出すための監視カメラによって録画された……街中を大量のモンスターがうろついている映像だったからです。

 ゴブリンが、オークが、スケルトンが街中をうろつき、カメラを横切るように空中をドラゴンが飛行する。そんな現実ではありえない光景。

 そんな映画のようなワンシーンとしか言いようがない映像を見た各国重鎮のほとんどは何故自分たちが呼ばれたかという理由にピンと来たようで、各国の重鎮たちが互いに視線を合わせたのが見られました。ここでようやくそれぞれの国でファンタジーに出てくるようなモンスターが現れているのを知ったようですね。


 その一方で、ネットにこれら関連の動画や写真が上げられた瞬間に規制や削除されたりしたために一般市民には知られていないので……壁際で円卓中央に表示されている映像を見ていた出版社や新聞社の記者たちからは戸惑った様子が見られました。

 いえ、一部のオタク気質を持っている人はテンションが高そうですね。


「おいおい、何だよこれ……宇宙人か? けど、どっかで見たような気がするんだよな……」

『これは、新作の映画のコマーシャルか? モンスターも良く出来たCGだ。凄い映画になること間違いなしじゃないか』

『だが、それにしてはやけにモンスターたちの質感がリアルだ……。街も壊されているのもよく出来ている。けど……戸惑って逃げている人々の様子が演技には見えない……』

『FOOOoooooo!! やっぱり日本の技術はサイコーだぜ!!』


 戸惑っていたようですが、自分の尺でしか想像できない彼らはどうやら聖財閥が援助して製作される新作の映画の話と思ったようです。というか一部は完全に映画と信じているみたいで両腕を広げて興奮していました。

 ですが、あのサキュバスがここに居た場合、これが現実で起きていることだと気づいたでしょうね。……気づき、ましたよね?

 けど彼女って、なんだかポンコツっぷりが激しそうでしたし……。というか、顔立ちは美人でしたが誰かに似てるんですよね……ま、まあ、とりあえず話を勧めましょう。

 あちらはあちらで彼女たちがなんとかしてくれるでしょうし。というか、起きたらあのサキュバスはテンパっているでしょうし。


「こほん。こちらは先日、日本の某県にある現破治という街で起きた出来事です。皆様はこの映像が映画のワンシーンだと思われているようですが、これは実際に起きた出来事ですので逃げている人たちは本気で逃げています」

『『『……は? い、いやいや、ちょっと待ってくれよ。これが……現実?』』』

「現破治っていうと、あの県にあったはずだよな。……あ、そう言えばこの映像ってネタがないか漁ってたときに入った掲示板で見たんだった! だけど、それは映画会社に勤めていたバイトによって流出した新作映画の映像って言われてなかったか? じゃなくて、言われてませんでしたか?」

「あなたは……えぇと、ああ、オカ伝出版から来られたかたですね。新作映画の流出映像というのは、私が仕事を依頼して一般人には見つけにくい匿名掲示板に流出という体で投稿してもらったものです」


 サキュバスの関係者らしき記者のかたが呟き、それに返事をするとその記者はこういう場所に慣れていないようでなんとか礼儀を正そうとしているようでしたが……ちょっと違和感が残るような喋りになってますね。

 そんなことを思っていると同時に、元々現破治の事件を聞いた諸外国の情報部が仕入れるようにわざと流していた情報を見つけた彼に対し少しばかり関心していました。

 入室前に取り寄せた情報をパッと見た程度ですが、三流と周知されているオカルト雑誌を出版している出版社も侮れませんね。今度機会があれば読んでみますか。

 そんな風に思っていましたが、後日その雑誌を読んだ私は頭を抱えることになるのですが今は気にしないでおきましょう。


「あ、あんたが依頼して? あんた……じゃなかった。あなたは何をしようとしてるんだ? 有名財閥の当主じゃないのか?」

『そうですよ。アナタは聖財閥のトップですよね? 私でも知っているんですよ? そんなアナタがなぜこのような事を……』

『この動画に映っているクリーチャー、ミス聖は何かを知っているのですか?』

「有名財閥の当主である私が何をしたいのか。そして現破治に現れたモンスターたちに驚くことなく皆様を招待したのか……その理由を上げるとするならば、


 礼儀正しいけれども、私が何かを知っているのではないのかという風に考えながらの発言。なので、ここに居る全員に聞こえるように私は言いました。

 直後、全員が私へと視線を向けました。ですが当然、突然のその言葉に何を言っているんだこいつといった風な視線が向けられました。

 さて、ここからが本番ですね。

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