ex-3.元聖女さまは異世界を語る。【後編】

「オーク、ゴブリン、スケルトン、ドラゴン、今回の現破治に出現したモンスターの名前です。……RPGゲームをプレイしている人には聞き覚えがある名前のモンスターだと思いますがどうでしょうか」


 名前を口にする度に3Dディスプレイに投影されるモンスターたちの姿。

 それを戸惑った様子で見ている記者たち。逆に食い入るように見つめる政府重鎮たち。


「そちらの国に出現したモンスターは地竜に属するモンスターで、そちらの国に出現したのは海竜に属するモンスターです」

『『っ!! ミ、ミス乙女、それはっ!!』』


 新たに投影されたのは地竜の亜種に属しているヴェロキラプトルによく似た見た目をしたモンスター。次にウミヘビによく似た見た目をしたモンスター。

 どちらもドラゴンの領域に入り始めてたか、成りそこないのモンスターです。

 それらが表示されると国が隠していたことを出されたからか、戸惑った声が彼らから聞こえましたが……考えを改めさせませんと。


「皆様、これらが国のトップシークレットなどと言わないでください。とある筋の情報から、もう数年したらモンスターを知らない人のほうが珍しいということになってしまうことですから」

『『『『っっ!?』』』』


 私の発言に政府重鎮たちは一斉に息を呑んだのが分かります。

 なので私は話を続けます。


「この世界に隣り合うようにして違う世界があります。そこは剣と魔法のファンタジーと呼ぶような世界であり、元々はどちらの世界とも干渉することはありませんでした。

 ですがその世界に魔王が現れ、勇者によって倒され……その影響で世界と世界の境界にヒビが入りました。その結果、こちらの世界へとモンスターが現れるようになったのです」

『なっ!? そ、そんなこと一度も聞いたことがないぞ!?』

『そうですよ、ミス乙女! 貴女はそれを知っていたのですか!?』

「落ち着いてください。各国でモンスターが現れたということは独自の機関の情報で知っていました。ですがそうなった原因を知ったのはつい先日のことです」


 私の言葉に驚き、批難するように何か国の重鎮が声を荒げてくる。

 そんな彼らを落ち着かせながら、嘘偽りなく答えます。

 ですが一度沸いた疑心暗鬼の感情は簡単に消えることなく、彼らは話を聞く状態にはありませんでした。


『つい先日知った? いったい誰に教えてもらったというんですか!?』

『聖財閥が懇意にしているという情報主、我々にも協力してもらえるのですかなぁ?』

『異世界とか、非現実的なことを言うなんて……』

『日本に名を馳せている財閥の当主である御人がそのような訳の分からないことを口にするなんて……』

「このままだと話が進みませんね……、仕方ありません。荒ぶる精神を鎮めたまえ――≪鎮静カーム≫」


 室内にいる者たち全員がヒートアップしすぎて話し合いは無理だと判断したので、彼らの心を落ち着かせるために小さく詠唱して呪文を発動させる。

 直後、呪文の効果が広がり、室内にいた人たち全員の精神を落ち着かせていき……憤っていた表情が変わっていくのがわかりました。

 ですが、先ほどまで激しく怒っていたはずだというのに自身の心境の変化に戸惑っているのか、困惑しているようでした。


『な、なにが起きたんだ……?』

『さっきまで苛立っていたはずなのに、まるで休暇中のように苛立ちが消えていった……』

「ストレスでキリキリしてた胃の痛みがなくなった……? いや、落ち着いてきたのか?」

「落ち着かれたようですね、皆様」

『ミ、ミス乙女、何かをしたのですか? 一瞬、あなたが光ったように見えましたが……』


 困惑していた重鎮のひとりが恐る恐る訪ねてきます。

 どうやら彼は魔法を扱う素質を持っている人がいたようで、その方が私のことを指摘し……視線がこちらへと向きます。

 なので私は告げることにしました。


「はい、先ほどから荒れていた皆様の精神を魔法で鎮静させていただきました」

『『『ま、魔法っ!?』』』

「異世界では、現れた魔王を倒すために勇者が誕生しました。闇ある所に光ありという感じですね。そして、勇者を支えるために世界各地から仲間が集められ、集められる仲間は世界の境界さえも超えました。中学生のころ、私は……聖女として異世界へと召喚されました」

『『『しょ、召喚っ!?』』』

『異世界召喚!! FOOOOoooooo!!』


 私から出る発言に一同は驚き、異世界召喚された発言に一人オタク気質のある記者からは歓喜の声が上がっていました。

 同じ出版社ではそんな様子が見られなかったのか、記者の反応が信じられないといった驚きが見えますが……多分、抱いていた印象がぶっ壊れたのでしょうね。

 そう思っていると重鎮のひとりが質問とばかりに手を上げました。


『ミス乙女、つまり貴女は自身が異世界に行ってきたから……そのミラクルパワーを扱えるというのですか? ですが、あの無数のモンスターを相手にひとりというのは些か無理があるのでは……』

「その心配を抱くのは分かります。ですがご安心ください、今この世界には戦う力を持つ者たちは居ります――じいや、次の映像をお願いします」

「かしこまりました、お嬢様」


 誰もが心の中で思っている不安を口にしてくれたことで次の映像を出す切っ掛けができました。そのことに安堵しつつじいやに指示を出して映像を再生してもらいます。

 すると、先ほどまで現破治のメインストリートをモンスターが闊歩する映像が変わり、別の映像が投影され、室内にいた人たちから声が漏れました。


『『おおっ! こ、これはっ!?』』

『WOW!! ファンタジー!! ミラクル! アメイジーング!!』

「おいおい、これなんてバトルアニメだよ……」


 驚き、興奮の声が上がるのは当たり前です。何故なら投影された映像は数名の人がモンスターと対峙し、倒されるどころか圧倒するように倒しているのですから。

 つまりは優木さんたちがモンスターと戦いはじめた辺りの映像です。

 まあ、認識阻害がかけられているので誰かは分かりはしませんが、握られた剣がオークを倒し、木星のバットによってスケルトンが砕かれ、人を襲っていたモンスターの前に盾を持って護っているといった姿や、普通に放たれた矢がまるでホーミング機能でも持っているかのようにモンスター目掛けて飛んでいくもの、一斗缶ほどのサイズの氷や岩が空中で創られて放たれていくという非現実的なものを見たら、普通の人たちは興奮しかしませんよね。

 食い入るように見ていますし……、しばらく戦いの様子を映しましょう。

 そう思いながらしばらく待っていると場面は進み、財閥の私設部隊による銃撃によってモンスターが倒される場面も映し出されていました。

 とりあえず、只野さんが活躍するシーンまでは入れないでおきましょう。というよりも彼女のレベルを見せたら……『もうこいつひとりで良いんじゃないのか?』といった意見も出そうですし。

 浮かんだ想像の通りにならないように、魔王が出たところで映像を停止するようにじいやへと指示を出します。

 私の合図に気づいたじいやは魔王が出て、投影越しでさえ空気を震わせるような咆哮をあげたところで映像を停止させました。


『「『『あぁ~~……』』」』

「まるで映画のように見ているところ悪いのですが、大丈夫ですか?」

『『っ! すまない、ミス乙女。つい見入っていたよ……』』

『ポップコーンとコーラがあれば完全に映画を見ている気分だったね』

「こっちはホットドッグが良いんだがね」


 映像の興奮が収まらないようで、少し軽口になっていますが気分が悪くなるわけではないので大丈夫ですね。

 とりあえず話を進めましょう。


「この映像に映っていた者たち、それが現在私の知っているモンスターと戦う力を持っている者たちです。

 順番に勇者Brave騎士KnightレンジャーRanger戦士Warrior魔術師Magician武闘家Fighterというコードネームを持っています」


 私の紹介をする度にそれぞれの見せ場とも呼ぶべきシーンが投影されて、分かりやすくしています。

 ……まあ、認識阻害しているために誰が誰かと分かっていませんが。

 エンブレムか個々人の称号的なものを示すのを用意するべきですよね。


『すごい力……ですね。これならモンスターも簡単に倒せることでしょう。……戦車も簡単に壊すことさえもできるのでは……』

『『っ!!』』

「そう、そこです。今回皆様を招待した最大の理由が、今浮かんだことです」


 映し出される映像を見ながら、他国と度々小競り合いが行われる国の秘書が呟きました。

 その言葉により、紹介された優木さんたちの利用価値に政府重鎮たちは気づいたようです。

 現れるモンスターと対峙する場合、優木さんたちは救世主になることでしょう。

 けれどモンスターが居なくなったら? 彼らを利用して、国家間の戦争に使えることができたなら。そんな欲が浮かんでしまったのか、濁ったような視線を投影されている彼女らへと向けてきます。

 そんな彼らへと指摘するように私は口を開きました。

 すると何を言いたいのか理解した重鎮たちからはハッとした反応が見られました。……一部変わらなかった国のかたも居ますね。

 そちらとは今後のことを考えましょう。……とにかく、今は釘を刺すことが大事です。


「モンスターを倒すことが出来る凄い力を持っていたとしても、彼らは皆……私たちと同じ人間です。生きている人間なのです。

 ケガをして痛ければ痛いと言いますし、悲しいことがあれば泣きます。楽しいことがあって笑いたければ笑います。そんな今を生きている人間なんです。

 ……だというのにモンスターと戦うことを余儀なくされてしまいました。そんな彼らをいま、皆様は戦争の道具としてを使えるのではと考えましたよね?」

『『それは……』』


 私の言葉に始めに理解した国の重鎮たちは黙り、理解していなかった国の重鎮もようやく考えたようで黙ります。

 そんな彼らへと私は言う。


「今、皆様が考えたこと。それが後日開かれるお披露目の際に幾つかの国が考えてしまうことでしょう。

 もしかしたら強硬的な手段に出てしまう国さえもあるかも知れません。ですが私は彼らの意思を尊重したいのです。

 私たちの世界のために彼らはモンスターと戦うことを選んでくれました。その想いを、意思を、踏み躙りたくないのです。

 ですから彼らを護るための助力を願います」


 言い終え、頭を下げます。

 今の私は彼らにはどう映っているのでしょう。偽善、それとも慈愛?

 分かりませんが……、今は彼らの良心を信じるほかありません。

 そう思いながら、私は彼らの言葉を待っていました。

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