1-2.アレらと話し合い

 コンコンと窓をノックすると窓が開かれ、中へと入る。

 室内には聖理事長と執事のおじいさんがいた。


「おはようございます只野さん。もう少ししたら優木さんたちも来られますが……大丈夫ですか?」

「おはよう理事長。大丈夫……。それより、真緒たちは問題なかった?」

「はい、とくに問題はありませんでした。けど……優木さんたちにはまだ伝えていないので、そちらでも一波乱があると思います」


 不安そうに聖理事長が言う。その隣ではおじいさんは静かにたたずんでる。

 そんな2人を見ながら、わたしは問いかける。


「理事長、頼んでいた服……用意できた?」

「は、はい、用意はしましたが……サイズが合わないと思いますよ? じいや」

「かしこまりました。只野様、こちらですが……よろしいでしょうか?」


 そう言って理事長の指示に従っておじいさんはタンスを開ける。

 中には白色のブラウス、紺色のロングスカート、それと黒色のソックスと黒に近い緑色のローブとチョコレート色の革ブーツが入っていた。だけど、それらすべてのサイズは大人が着るサイズで今のわたしが着たら、ブカブカになること間違いなしだ。

 それをわかっているからか2人も本当に大丈夫? といった感じの視線を送っているのだとわかっていた。

 だからわたしは説明をする。


「体型を変化させる魔法を使うから」

「そうですか。わかりました」

「そのようなものもあるのですね。魔法とは凄いですね……」


 わたしの言葉に納得した理事長と魔法のすごさに驚くおじいさん。

 そんな2人に支度をするというと、部屋から出て行ってくれたので準備を行う。

 タンスから着替えるための服を取りだし、用意してくれた下着もベッドの上に置く。

 用意してくれた下着は白の刺繍入りだけど……さすが高級品、触り心地がまったく違う。

 そう思いながら、着ていた物をぜんぶ脱いで裸になる。

 見られているわけじゃないけど、すこし……恥ずかしい。


「それじゃあ、はじめよう。……体形はママに近い感じで、髪は度々アレに見られてるから銀髪のまま、目の色は……黒にしよう。声はすこし落ち着いた感じにして……」


 見た目が似ていても一か所が違っていたら、それがその人物だとわからないと聞いたことがある。だから、変身したわたし=只野シミィンだと分からなければ良い。

 そう思いながら、頭のなかで描いた姿へと変身するために魔法を使う。


「魔力を糧に我が姿を変化させよ――≪変態メタモルフォシス≫」


 呪文を唱えると体をうっすらと発光した繭が包みこみ、ゆっくりと繭の中の体が変化する。全身がグニグニと動き、自分が思い描いた姿に変化していく。……すこしだけ変化する際に体に痛みが発生するけど、成長痛のようなものだと思えばいい。

 そんな感じに5分ほど繭に包まれていたわたしだったけど、変化が終わり繭がほどけていき……ゆっくりと目を開けたわたしの目線は高くなっていた。すこしだけ視線を下に向けると……いつもは見えている足先が体に隠れて見えない。

 白い肌の先端にきれいに色づくかしょが見えるけれど、足先が見えないのはすばらしい。


「勝った。なんだかわからないけど、かった」


 何に勝ったのかはわからないけど、その言葉を口にしてしまう。

 とりあえず着替えよう。


 用意してくれたショーツを穿き、ブラジャーをつける。

 ママがいつかは着けるときが来ると期待して着用方法を教えてくれたけど……大きなカップサイズだとこんな感じなんだ。

 初めてのブラジャーの着け心地におぉ、と思っていたけど黙々と着替えをする。

 ……ちなみに下着姿のまま姿見を見てみたけど、そこには清楚で白い下着姿で腰近くまでの長さのウェーブかかった銀髪、それと黒い瞳をしたママみたいなおっぱいがおっきいモデル体型の女性が立っていた。


「うん、これならバレない。……あとは、喋りかたを変えればいいはず」


 耳に響く声はいつもよりもすこしだけ違うように感じるから、≪変態≫で変化して声帯もちゃんと変化しているようだった。

 あまり使ったことが無かった魔法だけど、ちゃんと成功してよかったと感じながらベッドの上に置いた服を着ていく。

 ブラウスを着て、スカートを穿き、足にソックスを通して、革ブーツを履いた。

 髪は……うん、いっぽんに束ねよう。髪型を決めて手早く行うと、ローブを着用するときに邪魔になるために片側から前に回す。

 それを終えて、最後にローブを羽織り……いつもの杖を手に取る。


「ん、着替え完了。入っても良いよ」

「只野さん、無事に着替えることができ…………」

「これは、見事な変わりようですね……」


 扉の前で声をかけると、理事長とおじいさんが部屋に入ってくる。

 そしてわたしを見た瞬間、理事長は動かなくなり、おじいさんは感心したような声を漏らした。


「変なところはない?」

「い、いえ、ありません。ですが……あまりにも綺麗ですね。優木さんに狙われませんか?」

「大丈夫。それに今のこの姿=わたし只野シミィンだって気づかれることはないと思うし、空想上の人物を追い求める可哀そうな人になるだけ」

「な、なるほど……。只野さん、優木さんに対して辛辣ですね」


 正直、アレは苦手な部類。理想を押し付けるとか、鬱陶しいとかそんな感じがするし……。

 だから関わり合いにはなりたくはないけど、今回は仕方ないと思う。

 はぁ、とちいさく溜息を吐いていると部屋の扉がノックされ、おじいさんが応対する。


「どうしましたか?」

「お忙しいところ申しわけありません執事長、御当主様のお客様がお越しになられました」

「わかりました。お客様方にはお茶とお菓子を用意して来客用の応接間にお通しするように」

「かしこまりました」


 どうやら相手は屋敷で働いているメイドさんだったみたいで、相手はアレらだということが理解できた。そして理事長はおじいさんにアレらが来たらどうするかを事前に伝えていたみたいだからスムーズに話が進んだようだった。

 そう思っていると理事長がこっちを見てきた。


「どうやら優木さんたちが来たようです。準備は良いですか?」

「ん、だいじょうぶ。そういえば、真緒たちはどうしてる?」

「別室で待機していますが、会いますか?」

「……いちおう会っておく」


 すこし部屋を移動して真緒とオネットの2人と会ってかるく打ち合わせをして……アレらと先に話をしている理事長からの呼び出しを待つ。

 そうして、真緒たちと待機をしてから30分ほど経って……メイドさんに呼ばれてローブのフードをふかく被るとゆっくり歩きだす。


「御当主様、お連れいたしました」

「ありがとうございます。どうぞ、入ってください」

「失礼、します」

「邪魔をするぞ!」

『失礼いたします』


 理事長に促されて部屋のなかに入った瞬間、視線がいっせいにこっちに来た。

 大部分は好意的じゃない視線。……まあ、いろいろやったからしかたない。

 そう考えながら、どこかばつの悪そうな表情をした真緒とともに空いているソファーに座った。


 ●


 ☆ 四夜視点 ☆


「はぁ……、ほんとーに昨日は大変だったよー!」

「そうですわね。ですが聖女さん……いえ理事長、現場からのスピーディーな撤退からのホテルの手配ありがとうございました」

「ありがとう」

「いえ、お気になさらないでください。あのまま放置していたら、より厄介なことになっていたことでしょうし……それで、疲れは取れましたか?」

「もっちろん!」


 今朝まで聖財閥が運営している高級ホテルで、しかも最上階のスイートルームで休んでいたボクたちだったけど、聖女に呼ばれて不破治の郊外にある屋敷に来ていた。

 あ~、思い返してもスイートルームは本当にすごかった。

 お風呂もジャグジーとか発光したりとか色んな機能があったうえに広くてすごかったし、本当にリビングにはリンゴにバナナにメロンといったフルーツが飾られてたし、ごはんもボクたちを配慮して量が多かくて……しかもすっごく美味しかった!

 それらを満喫して、ぐっすりと眠ったから疲れは本当に取れていた。

 それが分かったのか、聖女は安心した様子を見せた。


「それで聖女はどうしたの? 何か聞きたいことでもあった?」

「聞きたいこと、と言いますか……相談事、ですね……」

「ネット上でのわたくしたちの特定など……ですわよね?」

「緊急事態だからって、変装とかしていなかったのは失敗した……」

「え? どいうこと?」


 聖女をはじめ、ナイトもレンも頭を抱えていた。でも、どうしてなのか分からない。

 そんなボクにレンがスマホを見せてくれた。

 えっと、何々……『コスプレヒーロー現破治に現る!?』

 ぼやけた画像に写っているのはボクとかナイトとかレンとか、ブラザーたち。


「って、ナニコレっ!?」

「四夜さんがお風呂入ったりとスイートルームを満喫している間、わたくしと半田さんも後のことが気になってネットをチェックしていましたの」

「そしたら、ネット障害が回復したからか動画とか写真を撮ってた人たちがSNSとかにアップしてたわけ」

「ですので表面上は現破治駅前で地盤沈下が起きて、その影響でビル内で火災が起きたという風にしようとしていたことの意味がなくなりそうなんです……」

「そうだったんだ……」


 そんなことが起きていただなんて……。

 でも、どうすればいいんだろう? このコスプレヒーローの正体はボクらだ!って感じにババーン!ってテレビにでも出る?

 そうしたら一躍ボクらは有名人。うぇへへ、人気者待ったなしだねー!


「四夜さん、きっとおバカなことを考えていますわね?」

「っ!? か、考えていないよ! 有名人になってモテモテなんて考えてないよ!!」

「大丈夫、四夜は芸人枠だから問題ない。みんな笑い転げてしまうから」

「芸人!? 10年にひとりのアイドルレベルの芸能人枠じゃないの!?」


 みんなからスッパリと言われたことにちょっとショックを受けるボクだったけど、聖女は違ったみたいだった。

 すこし躊躇った様子を見せながら、申しわけなさそうに口を開いた。


「……すみません。実はとあるかたと事前に相談しまして、優木さんたちにはこれから行うことのプロパガンダになってもらおうと考えています」

「「「え?」」」


 プロパンガス? 爆発するの? 着火したら大爆発しちゃうの?


「四夜さん、プロパガンダは宣伝。広告塔といった感じですわ」

「なるほど……。ってなんでボクが考えてたことを理解してるんだよ!?」

「顔にでてるからね」

「なるほどー!」


 って、プロパンガスを考えている顔ってどんな顔!?


「……そのかたが言うには、今日みたいな出来事がまた世界のどこかで起きる可能性が高いとのことです。ですので、優木さんたちにはモンスターの脅威から人々を護る旗印となっていただいてもらうと同時に、自分たちにも戦うことが出来るという考えを抱くようになってもらいたいそうです」

「プロパガンダは分かりましたが、普通の方々に戦ってもらうというのは違うのではないでしょうか?」

「そうだよ! この世界の人たちにはモンスターと戦う力なんて無いじゃないか!」


 誰だよそんな無茶ぶりを言ってきたやつは!

 バカとしか言いようがないだろ!?

 そんなボクの反応を理解しているのか、聖女は話をつづける。


「……優木さんたちの前世は勇者でした。当然それまでの記憶も持っていることも分かっています。ですが、今その体はこの世界の住人のものです。ですから、自身のステータスを理解し、そのための戦いかたを学び自身を鍛えれば様々なスキルも手に入るようになると考えています」

「それはそうだけど……、実例がないじゃないか」

「……あります」

「「「え?」」」


 確証を持っていないというのに不確かな根拠だけで行ったら危険だということはボクだって分かっている。

 だからその考え方はどうかという思いを込めて口にした。

 なのに、出てきたのは思いがけない返答だった。

 聖女の言葉にボクらから間抜けな声が漏れてしまう。


「あるって……どういうことですの、理事長?」

「理事長、何か隠してるよね?」

「え!? 聖女、何か隠してるの!?」


 レンの言葉にボクは驚く。というか聖女がボクに何かを隠すなんて!? ショックすぎる……。

 そんな風に思っていると聖女が口を開く。


「実は賢者さまから、しばらく前から連絡を貰っていました」

「「「賢者(さん)からっ!?」」」


 聖女の言葉にボクらは驚いた声をあげる。

 だけど、語られた内容はそれ以上に衝撃的だった。


「え? 賢者は転生じゃなくて……転移? そ、そんなバカな……!?」

「しかも、その転移先で出会った現地の人に対して魔法を教えた? あの賢者が?」

「それがわたくしたちが出会った賢者さん……だと思っていたかたですの?」

「はい、彼女とは……賢者さまから送られていた連絡で、つい最近知り合って、お願いをしてこちらに来てもらい秘密裏に協力してもらっていました。その協力のひとつが皆さんが着ていた装備も彼女が創った物です」


 その言葉にボクらは驚いた。それと同時に混乱もしていた。

 だって何度もボクらの前に現れた賢者は転生者じゃなくて、向こうの世界のことなんて何も知らない……この世界の住人。そんな人物があれだけの凄い装備を創ったって言うことに。……会いたい。正直会ってみたい。

 賢者に教えてもらった人物は、もしかするともしかするんじゃないのか。

 そんな可能性を抱きながらボクは聖女に尋ねる。


「聖女、その……彼女とは会うことが出来るかな?」

「はい、そもそも彼女から皆さんに会うことを提案してきましたのでこの屋敷に居ます。……許可をいただければ呼びますよ」

「ぜひ呼んでください!」

「わかりました。では連絡をします」


 興奮気味なボクの言葉に聖女は頷き、入り口に控えていたメイドさんに指示を出す。……しばらくして目当ての、ローブを頭から被った人物が部屋へと入ってきた。……ローブの隙間から覗く体つきで女性に違いない。きっと彼女が賢者の弟子だ。

 けど、入ってきた瞬間にもしかしてシミィンちゃんがと思っていた予想は砕けてしまった。しかし、ローブ越しでもわかる……あれはムッチムチだ!

 顔はどんな感じなんだろう? ローブ越しに銀色の髪が見えるけど、ボクは顔、顔が見たいんだ!

 そんな願望欲望を胸に抱きながら賢者の弟子の女性を見ていると付き添うように入ってくる白い女の子がいた。……って、え――


「「「ま、魔王!?」」」


 あのとき賢者によって連れて行かれたからチラッと見ただけだけど、ボクはそれが魔王だということが理解できた。

 瞬間、魔王に対しての敵意を込めた視線をボクらは一斉に向けた。

 そんなボクらに対して、魔王はどこか居心地が悪そうな様子をしていた。

 ……あれぇ? 何か様子が変じゃない?

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