1-3.アレらと話し合い
真緒は自分に向けられた敵意に対して反応するかと思っていた。
だけど、向こうの世界で魔王としてアレらと戦っていた前世のこととか……その前世の怨みやきょう気に自我を呑みこまれて起こした今回の不始末とかを考えてか、眉をしかめながら何も言わずにわたしに付き従うようにしてソファーに座った。
そんな様子にアレらはすごく戸惑った様子を見せているのが見え、それを見てからフードの奥からちらりと真緒を見ると……わたしの視線に気づいたみたいでこっちに目線を向ける。
……なるほど。しばらくは自分は黙っているっていう選択をえらんだみたいだ。
まあ、こっちはこっちでやることをしよう。そう考えながらじぶんのからだの緊張をとくために……気づかれないようにちいさく深呼吸。
「すぅ、はぁ……、はじめまして、さきほどヒジリ様よりご紹介に預かりました。賢者の弟子のイミティ=エーションともうします、いごお見知りおきを」
「え、あ――ボ、ボクは優木四夜! 勇者だよ!」
「ナイト=グレートシールドですわ。騎士をしてます」
「半田恋……ハンター兼レンジャー」
イミティ=エーション……偽物を意味するイミテーションをもじってつけた名前だけど、とくに問題はないと思う。まあ、偽名だろうって半田先輩は思っているみたいで、ちょっとうたがわしい視線をおくってきてるけど。
そう思いながら、名乗るとハッとした様子でアレが名乗ると続けて残りのナイト会長と半田先輩も名乗る。
だけど彼女たちからは好意的でなさそうな感情が感じられた。
ついでにナイト会長の背後には騎士の霊がいるけど、わたしを前にして何かに気づいたみたいだけど……≪制約≫の効果で何も言えないようだった。
……まあ、そんなアレらの感情の根元はさまざまだろうけど……全員は思ってると思う、賢者と思っていたらじつは賢者じゃなかった。と……。
そのうえ、わたしの隣にはじぶんたちの天敵であった魔王がいて、どくを吐いたりせず借りてきた猫みたいにソファーにジッと座っているからその様子にも戸惑ってもいるに違いない。
だけどそんな風に戸惑いつつも、アレらはわたしたちが変な行動をしたらすぐに攻撃できるというのがわかる。
……攻撃されても意味ないけど、面倒くさい。
とりあえず、いちど関係を修復するしかないよね。
……まあ、ここまで関係がこじれる原因は、何度か会ったときにアレらをバカにしたようなことを言っていたから当りまえだよね。……こんな事態になると思っていなかったから、わたしもあんな対応してたけど。
まあ、頑張るしかない。
「ユウキ、グレートシールド、ハンタですね。まずはじめに、これまでのあなたがたへの対応は大変もうしわけありませんでした」
わたしが演じるイミティのイメージは日本語が喋れるけど、ペラペラじゃない外国の人。
そんなことを考えながらアレらに向けて頭を下げると、慌てたようにアレが両手を前に持って振りはじめた。
「え、ええっ!? そそ、そんなことない――じゃなくて、ありません! だって、ボクらを度々助けてくれたんですよね?! それにこの武器だって!」
「いえ、それでもわたしは表立ってあなたがたの前にでることは、できませんでした……」
「その……何か理由があったりしたのですか?」
「理由、ですか……。その、師匠から……みなさん、特に勇者であるユウキとは関わるなと言われていたのです」
「な、なんだってーーっ!? え、なんで、なんでぇ!? どうしてぇ!?」
……やばい、理由、考えていなかった。
だから誤魔化すためにアレのせいにしたら、アレは驚いた表情をうかべた。よし、とりあえずはこれを理由でいこう。
というか、困ったときの勇者頼みというやつ。こまゆう。
「その……師匠が言うには、
「……なるほど、四夜さんの性格からしてそれは絶対にやるそうですわね」
「うん、しかも賢者なら言いそう。そして四夜はやらかしそう」
「ががーん……。ふ、ふたりともぉ……」
師匠が居たら言いそうな言葉のでっちあげに対して、ナイト会長と半田先輩は肯定した。
その反応にアレはがっくり項垂れているけれど、びじんには見境がなかったりするから釘は刺さないといけない。
というよりも、体に触られないために予防策を。
わたしの≪変態≫はよくできていると思う。その証拠に間近で見られたり、スキルである≪鑑定≫をされたとしても表示される情報は偽情報になる。
だけど……じかに触られたりすると、
そんな風に思っていたら、ナイト会長と半田先輩がこっちを見てきた。
「賢者さん……いえ、エーションさん。その、失礼な態度をとって申しわけありませんでした。ですが、あなたに敵意が無いというのはわかりましたわ。そして、その寡黙ながらもスッパリとものをいう性格だということも理解出来ました」
「うん、四夜はバカだけど多少のことじゃへこたれないバカ。だから、そんな感じにズバッと言ってくれる人材はありがたい。本当にありがたい」
「グレートシールド、ハンタ、ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいです」
「う、うぅ……イミティさん……。ふ、二人だけじゃなくて、ボクとも仲良くしてよぉ! それと、仲間ならちゃんと顔を見せてよぉ!」
「四夜」「四夜さん……」
どうやらナイト会長と半田先輩の警戒はとけたみたいで戦闘状態が解除される。そんな彼女たちにわたしは頭を下げる。
そんな空気を察してか、アレは駄々をこねた。それをナイト会長と半田先輩は呆れた目で見ていた……しかたない。
「わかりました。ですが、わたしの顔は何の変哲もないですよ?」
顔を見せることで賢者=只野シミィンではないと思わせるためにフードを外すタイミングを見ていたので、わたしはそう言ってローブのフードを外して顔を露わにする。
すると、アレらはいっせいに言葉を失った。後ろの騎士はポーッと顔を赤くしている。
「ほら、何処にでもある顔ですよね?」
「「「いやいやいや、それはない!」」」
「そうですか? まあ、わたしの顔の件はべつに良いでしょう。そんなことより……マオさん、そろそろ喋ってもらっても良いですか?」
「うむ、わかった。……その、久しいな、勇者たちよ」
アレらにはそう言ったけど、美人だというのは理解している。
だって、ママの顔をベースにしての≪変態≫だから美人じゃないわけがない。
だけどライトノベルで有名な「おれ、なにかやっちゃいましたか?」って感じにスルーする。というか、スルーしないとべた褒めとかされてしまいそうだし。
そして今度は真緒に話しをしてもらうことにした。すると彼女はアレらにきわめて冷静に声をかけた。……というよりも、対応に困る感じに。
「久しぶりって……、キミは昨日現破治で……!」
「戦ったよね?」
「ああ、あれは確かに我だ。だが……あれは我であって我ではない。いや、あれだけのことをしたというのに責任逃れなどするつもりなどない」
「あの、四夜さん、このかたは本当に魔王が転生した存在ですの? 何というか……誇りを持っていますし、まるで立派な為政者のように見えますわ」
「四夜、話を聞いたほうがいいと思う。なんだか前の世界のときとも気配が違うし……」
「……わかった。だけど、キミは自身の仲間であったオネットを無残にも破壊した。それに対してはボクは絶対に軽蔑す――『幾度も立ち塞がり戦った敵であったわたくしめの心配をしてくださり、ありがとうございます、勇者』――は?」
真緒の殊勝な態度とナイト会長と半田先輩の言葉を聞いて一応は話を聞くことを選んだアレだけど、やっぱりオネットを
だけど、真緒の肩に立つ人形サイズのオネットが声を発した瞬間、間抜けな声を漏らした。
そして3人がバッと真緒の肩をいっせいに見た。
「え? え、え? オ、オネット? え? でも、え?」
「これって、あの壊れかけていた人形……ですの? でも、え? どういうことですの?」
「……え、なんで? え? ありえない……どうして?」
『わたくしめも改めて、お久しぶりと言わせていただきます勇者パーティーのみなさま。魔王改め、真緒の家族である【凶風】のオネット……というよりも、風精霊のオネットです。以後お見知りおきを』
「「「せ、精霊っ!?」」」
カーテシーをするオネットを全員が驚いた顔で見ているけど、半田先輩だけは戸惑った様子だった。
たぶん、彼女の前世はエルフだったから……自然に属する精霊の存在を感知できるのだろうと思う。
だから人形系の魔族だったはずなのに清らかな風の精霊になるなんてありえないと頭が認識できていないみたいだった。だからオネットが自ら精霊を名乗ったときにアレとナイト会長以上に驚いた様子だったのは仕方ないに違いない。
「あ、ありえない! なんで邪悪な魔族が清らかな精霊になんてなれるの!? そんなことあるはずがないのに!? 真逆なのに!」
「レ、レン。どうしたんだ?」
「エルフであったこやつが戸惑うのも無理はない。普通はそうだろう……だが、我は魔王であったが、かつてはあちらでは精霊を統べる神であったのだ。だから我の血を分け与え創られたオネットがこのように精霊になる可能性は秘めていたらしい……我がマスターが言うにはな」
「え、待って。どういうこと? いま凄いこと言わなかった? 魔王が神だった? え? だから、オネットは精霊になれた? え? そして、マスター?」
「あ、マスターはわたしです。あのとき彼女を回復させたさいに、目覚めてすぐに襲われるのではと思いまして、魔法で隷属させていただきました。あと、頭にはえているネコミミはわたしの趣味ではありませんから」
戸惑うアレに対してわたしは告げる。
それと思い出したので言っておくことにした。……恩着せがましく聞こえるかも知れないけど。
「ああそれと、ユウキたちがマオ……いえ、あの魔王ゾンビを倒したさいに心臓から黒いものが出ていましたが、あれをあのまま放置しておいた場合……周囲が完全に瘴気によって汚染されてしまい、人が住めないゴーストタウンどころか範囲に入っただけでアンデッドとなってしまう死の街と化していましたので」
「ほ、本当ですの?!」
「はい、それに気づいたのでそくざに覚えている限りの魔法を使い瘴気と囚われた魂の浄化を行い、その影響で魔王が魔王であった束縛からも解放されたみたいなんですよね」
アンデッドタウンと言った時点で、3人からは顔を青ざめさせる。
どうやらあの状況に対してたいして恐怖を感じていたみたいだけれど、そこまでのことが起きるとは思ってはいなかったみたいだった。
「そ、それじゃあ、目の前にいる魔王は、ボクらが戦った魔王だけど今はもう魔王じゃない……ってことでいいの?」
「うむ、だが我はこれまで我がしたことを決して忘れぬ。だから、我はこの命尽きるまでマスターに手を貸すと決めたのだ。勇者よ、信じてくれとは絶対に言わんが、我は貴様と敵となるつもりはない」
「まあ……敵となった場合はわたしが何とかしますけど、ね」
半信半疑なアレに対して、真緒は自分の胸に手を当てながら正直に答える。
そんな隣でわたしがぽつりと言うと、彼女はビクッと怯えた。
その様子を見て真緒に害はないと判断したのか……、ぎゃくに3人は真緒に対して憐みの視線を向けていた。
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