2-2.(厄介さんとの)出会い【別視点】
周囲が歪みに歪んだ世界の外、次元の狭間。
対するは世界を滅ぼさんとする魔王の姿。けれどボクらとの戦いで傷つき、ボロボロ。
向かい合うは魔王との戦いで精根をほとんど使い果たしたボクたち勇者パーティー。
魔王が叫び極大魔法を放つ、賢者が放たれた極大魔法を削ろうと魔法を放つ、削り切れなかった魔法を聖騎士が巨大な盾を使い防ぐ、ハンターが弓を構えミスリルの矢じりで創られた矢を魔王の目に向けて放つ、聖女が残り少ない魔力で全員に回復を行う。
怨嗟の声を上げる魔王、その魔王の胸の中心に向けてボクは聖剣を握りしめて突撃をする。咆哮と共に命を懸けて放つ一撃。
迫りくるボクに向けて、魔王は半ば折れた魔剣を振り上げる。
瞬間、ボクと魔王はぶつかり合った。
そして…………。
「ん、んぅ……。ふぁあ~~あ……よく寝た~!」
体を起こし、うんと背伸びをして時計を見ると……午前10時を過ぎていた。
ちょっと寝すぎたみたいだ。まあ、昨日も畑のほうをパトロールしてたからなぁ。
日付が変わろうとする頃に帰ってきて、そのまま眠ってしまったけれど……パトロールの成果はゼロ。
モンスターの姿は何処にも確認できずにいた。
「まあ、本当にモンスターが居たら笑えないんだけどね。よっと」
ひとりごとを言いながらベッドから起き上がると部屋から出る。
シェアハウス内は静まり返っていて人の気配はない。
ナイトとレンは居ないみたいだ。っと、ナイトは新入生の子たちに挨拶だったっけ。でもって、レンは……散歩かな? それとも今夜のメインディッシュを取りに行った?
「って、ああ、明日から新学期が始まるんだ……授業かったるいなぁ」
グウグウと授業中に眠っても怒られない環境が欲しいよ。……無理か。
そんなことを考えながら、キッチンを漁りシリアルとミルクを手にしてリビングに戻る。
カラカラとシリアルが皿に移され、山盛りになるとその上にミルクをドバーッ。
軽くスプーンでかき混ぜてから一気に口の中へとインしてモグモグ。
「とりあえず、もう少ししたら畑の世話に行こうかな。途中で新入生に出会うかも知れないけど、かわいい子とかいるかなー?」
同学年には失敗したけど、新入生の子なら「こんにちわ、お嬢さん?」とか言ったらメロメロになるに違いない! きっとそうだ!!
……一瞬、ナイトとレンの呆れた顔が浮かんだけど、ボクは成功する未来しか見えない!!
そうと決まれば、畑仕事の準備をして出かけようか!!
ボクの気分はもうみんなのお姉さま!
★
寝ぐせを整えて、パジャマから農作業のためにジャージに着替えて、軍手とかをインベントリに入れて、使い慣れている愛用のロングソードを背負って――いざ出発!
鼻歌交じりに歩き、商店街を通ると警察が居た。……あ、目が合った。
「ちょっと君、背中に担いでるそれは――「さいなら!」――あっ、ちょ!?」
ゆうしゃは にげるを つかった!
全力で逃げて、警察に捕まらずに済んだけど……聖女にあとで話を通してもらわないと。
そんなことを思いながら愛すべき母校の校門へと辿り着く。
チラホラと新入生の姿が見えるけど、どういうわけだかボクを見るとそそくさと逃げていく。本当なんでだよ? ただロングソードを背負っているだけだよ?
まったく、ボクのカッコよさが分からないんだなぁ?
なんだかまた、ナイトとレンが馬鹿を見るような顔が脳裏に浮かんだ。何で?
「ううむ、謎だ……」
そんなことを呟きながら学校の敷地へと入っていくと、外人だと思われる新入生の女の子が前から歩いてくるのが見えた。
くすんだ銀色の髪をギッチギチの三つ編みにして、本当にあるのかと驚くほどにグルグルのレンズがはめ込まれたメガネ。
どう見ても変な、いや、漫画で見たことがある地味な委員長といった感じの格好の女の子だ。だけど、何だろうか……この感じ? 異様? 異質? ううん、分からない。
疑問を抱きながら女の子を見ていたけど、話しかけるのもと思って声を掛けずにいると……女の子は気にせずに学校から離れていった。
だけどこれだけは分かる……。というか、きっとそうに違いない。
「あの子、眼鏡を外すときっと美人だよね」
メガネっ子は美人って言うのは世の常識だから!
そんなことを思いながら校舎には入らずに学校が所有する畑の一角へと向かう。
先日土を起こして肥料を撒いた畑。しゃがんで土を手に取って軽く手で触って、『鑑定』をすると結果が表示された。
――――――――――
名称:畑の土
レア度:ノーマル+
状態:栄養満点
説明:冬の間に栄養を溜め込んだ畑の土、植え付けや種蒔きを待っている。
――――――――――
「うん、良い感じ!」
肥料を撒いた甲斐があった!
去年の秋に見た鑑定結果と比べてレア度も状態も上がっていることに喜びながら、鍬を手に畑を耕す。
わっせこら、わっせこら。手首のスナップを利かせて鍬をサクサクと土に入れて土をかき混ぜる。
空気を入れるようにしてかき混ぜるのが良いらしい。とりあえず今年は何を植えようかな? トマトも良いし、キュウリ、ナス、サツマイモ、ニンジン。4月に植える野菜はいっぱいあるみたいだ。
「まあ、お金と相談かなぁ」
野菜の苗や種ばかりにお金を使っていたら素寒貧になってしまう。
素寒貧……、カジノ、あれは当たる。当たるんだ。ほら、ほら、あのマスに球が入って……はい、はいら……ない――はっ、ボクはいったい何を考えていたんだ?
遠い過去の辛い記憶が蘇りそうだったけど、今は畑に集中しよう。
まあ、考える時間はしばらくあるし……決めるのは今じゃなくても良いよね。
そんなことを考えながらボクは鍬を振るう。
途中、昼休憩をはさんで畑の整地を夕方まで行い、シェアハウスに戻るとナイトとレンは戻っていた。
今晩の晩御飯は川魚の塩焼きで、聞くところによるとレンは今日は山まで行って釣りをしていたらしい。
程よい塩加減と川魚特有のホクホクとした食感と微かな甘みがとても美味しく感じられながら、ナイトを見るけれど……ぐったりとしていた。
「疲れているね、ナイト。入学式の色々で疲れた?」
「そうですわね……。正直なトコロ、新入生への祝辞や雑務で疲れることはありませんわよ? ですが、そう……ですがね、わたくしがとっても苦労したのは警察から不審者の連絡を受けてその説明を行うことでしたわね」
「ふーん、大変だったみたいだねー」
「ええ! 大! 変!! でしたわよ!!! 四夜さんのせいでねっ!!」
バンとテーブルを叩きながら、ナイトは怒りで釣り上がった目でボクを睨みつける。
ボクって変なことをしていたかなー? わかんないや。
ボクが何を思っているのかを理解しているようで、森の緑のように澄んだ緑色の瞳が冷たくなるのを感じた。
「四夜さん……? 貴女、街中で、剣を持つ不審者が居たら、どうします?」
「え? んー……相手も剣士なんだなって思う!」
「だから貴女はバカなんですってばぁ!! うわ~~んっ!」
「よしよし、四夜に道徳を教えようとしても無駄……あきらめよう」
よくわからないけど、ナイトが雄たけびを上げて、レンが頭を撫でて慰めている。
なんだよもー、まるでボクがバカみたいじゃないか!
プンプンと頬を膨らませて拗ねながらボクはご飯を食べる。……こうして、晩ごはんの時間は終了した。
それからお風呂に入って汗を流して、少しだけ寛いでから……夜の9時半ごろになってから動きやすい恰好に着替える。下はスパッツで、上はジャージの上着。
着替え終えて玄関に向かうと、準備を終えていたナイトとレンもすでに靴を履き替えて待っていた。
ナイトはスポーツウェア、レンは大き目のジャージを着ている。
「やっと来た」
「ようやく来ましたのね」
「ごめんごめん、それじゃあ出ようか」
そう言うと2人は頷き、玄関の扉を開けて外へと出た。
そして互いに頷き合ってから三方向に分かれる。
モンスターを発見したら即座に連絡! ベルトに引っ掛けた通信機に手を当て、モンスターを探すために歩き出した。
「まあ、見つからなかったら見つからなかったで良いんだけどね」
……今日は、学校の畑に向かってみようか。
行き先を決定して、ボクは歩くのだった。
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