10-1.女子会ごはん。

 ウインドウショッピングをしてしばらく経って、そろそろお昼だったからわたしたちはビルの上の階にあるレストランフロアに行った。

 そのフロアにはバイキング方式の食べ放題店、中華料理店、昔ながらの喫茶店、イタリア料理店、ラーメン店、地域展開のファミレスがあったけど、回った結果、ファミレスに行くことが決定した。

 ちなみに食べ放題店はお客さんがいっぱいだったから、お店でもスモーガスボードをやったら面白いかも知れない。家に帰ったらパパに言ってみようかな。


「お待たせしました。ご注文の二種ソースのスペシャルオムライスです」

「ん、わたし。ありがとう、ございます」


 注文したオムライスがわたしの席の前にコトンと置かれ、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

 匂いもいいけど、見た目もとっても美味しそうだった。

 皿の半分に分かれるようにして、デミグラスソースとホワイトソースがプルプルタマゴにつつまれたオムライスのうえにかけられていて食欲をそそってしまう。

 伊地輪たちは頼んだ料理が届いていて、わたしの分は最後だったからお腹もすいている。


「シミィンちゃんのオムライス美味しそー!」

「ね、ね、あとでシェアしね? あーしのも分けるからさー」

「食欲そそる~。写真撮っていい~?」


 スプーンを手に取ったわたしへと伊地輪たちが言う。

 ちなみに伊地輪は魚介のスープパスタ、旋毛はミックスサンド、性根はデミグラスハンバーグのセットを注文していた。

 それとテーブルの真ん中には山盛りのポテト。

 こっちはみんなで分けるために注文したそうだけど、オムライスを食べたら……お腹に入るかが心配。

 そんなことを考えながら、スプーンをオムライスに向ける。

 どっちのソースがかかっている方から先に食べようか。ん、先に……ホワイトソースにしよう。

 決めて持ったスプーンをホワイトソース側に突きさし、食べれる量をすくって持ちあげるとホワイトソースの白、タマゴの黄、そしてチキンライスの赤が鮮やか。

 すくったオムライスを口に運ぶとホワイトソースの濃厚なミルクの味わいとケチャップの甘味……そしてチキンの塩気、玉ねぎの甘味が口いっぱいに広がり、まったりとしたタマゴの味でひとつになっていく。

 もぐもぐと咀嚼するととろとろタマゴが口の中でほぐれ、チキンライスのモチッとしたライスの食感、細かく刻まれたチキンのプリプリの食感に玉ねぎのシャクッとした食感、それとマッシュルームのくにくにとした食感が口の中に広がる。


「……ん、おいしい。こっちはどうだろ」


 数十回噛んでからのみこんで、今度はデミグラスソースがかかっている方を食べる。

 黒よりの褐色な見た目をしたソースが絡んだオムライスは口の中にホワイトソースとは違った濃厚なソースの味わいがタマゴとチキンライスと絡み合って味を引き立てている。

 ……あ、デミグラスソースのほうを食べて気づいたけど、オムライスのタマゴにチーズが混ぜられているか上にかけられていたんだ。

 ホワイトソースだとミルク系だったから気づかなかったけど、デミグラスソースだとチーズ特有の味わいがする……。


「……おいしい。頼んで正解だった」

「うっわー、シミィンちゃんの食べる姿見てたら食べたくなってきちゃったー。今度来る機会があったら食べる!」

「それわかるー! シミィンちゃん、本当オムライス数口分とハムサンド1個シェアしようよー!」

「ん~、ハンバーグ美味し~!」


 口の中に残る味わいを感じていると、伊地輪は何やら決意して、旋毛はミックスサンドの皿を近づけ、性根はハンバーグを美味しそうに食べていた。

 でも、伊地輪のスープパスタも透明なスープの中にイカ、エビ、貝が入ってて魚介のうま味が出てて美味しそうだって思うし、旋毛のミックスサンドもタマゴ、ハムと野菜、ツナマヨの3種類のサンドイッチでボリューム満点で良いと思う。そして性根のハンバーグもしたたりおちる肉の脂が熱々の鉄板におちてジュッといい音がするし、切り分けられた部分を見ると肉がぎっしりだった。

 それからしばらく、伊地輪たちといろいろな話をしながら食事をとった。……まあ、わたしからは話しかけず、振られた話題に返事するだけだったけど。

 会話をしながらオムライスをわけたりしたし、逆にスープパスタやサンドイッチ、それにハンバーグをすこし貰ったりもした。

 スープパスタは透明なスープに魚介のダシがしっかりと出ていて、パスタも歯ごたえがよくて美味しかったし、エビもくれたけどプリッとしていた。

 サンドイッチもふんわり食パンでサンドされているから噛むとふんわりとした甘みのあるパンの食感から始まって、つづいてはさまれた具材であるレタスときゅうりのシャキシャキとした食感とハムのほどよい塩加減が楽しめた。

 ハンバーグは荒くミンチされたひき肉を使っているからか噛みごたえがあって、貰ったのはすこしだったけど……噛めば噛むほど肉汁が口の中に広がってきたし、オムライスよりもすこし濃いめに味つけされていたデミグラスソースは肉汁と混ざり合ってほどよい味に変わっていった。

 ……つまりはどれもこれも美味しい。現破治はあまり来たことなかったけど、美味しいお店がおおいのはわかった。

 パパの料理もおいしいけど、このお店もいい勝負している。


「とりあえずさ、これ食べおわったら駅前のビルに行ってみない?」

「いーねー、あっちは若者向けだよね? あーしの好きな服売ってるかな?」

「うちも部屋着の安いの欲しいんだよね~。いいの売ってるといいな~」

「ん、見つかるといいね」


 メインを食べ終え、山盛りポテトを食べながら話をする中で伊地輪がそう提案してきた。

 なんていうか、これって漫画とかドラマで見たことがあるような女子会って感じがするけど、自分がこんな場所に入れるなんて……そんなことを考えながらポテトを食べる。

 塩がふられているから表面はしょっぱくサクサク、中はホコホコしている。でも時間が経っているからか表面がすこしふにゃっとしたのもあるけど、それはそれでおいしい。

 そして塩だけじゃ物足りないって人のためなのか、ケチャップとマヨネーズがいっしょに入った容器もあってそれに付けて食べたら食べたでケチャップの甘さでおいしい。

 ちなみに山盛りポテトのかたちはファストフード店でよく見かける細くて長いタイプ。

 それを何本も黙々と食べてたら……視線に気づいた。もしかして、視られてる?

 顔をすこし上げると伊地輪たちがニコニコしながら見ていた。というか、性根はスマートフォンを向けているから……撮影している?


「なに?」

「シミィンちゃん見てたら癒されるから、つい見てたんだー」

「わかる。なんかポテト食べる姿がリスとか小動物っぽく見えたわ」

「録画して何度も見返すことにする~♪」

「「あとでちょうだい!」」


 ……なにこれ。

 さっきまでこれからの予定を話してた三人だったのに、今は何故かわたしを弄りはじめている。……やっぱりギャルってわかんない。

 でも、意地悪なことをしようとしているんじゃなくて、わたしと関わりたいからっていうのが伝わるから……嫌じゃないと思う。

 きっと、これがおない年の女子同士のふれあいっていうものなんだ。

 そう思うと、なんだか……胸のおくがポカポカした。


「「「……………………うわ」」」

「……どうしたの?」

「「「う、ううん、なんでもない」」」


 どういうわけか三人が顔を赤くしてポーッとしていたから、声をかけると揃って首を横に振った。……何か見たのかな?

 まあ気にしてもしかたないか。とりあえずは残ったポテトを食べて、お店を出て移動しないと。

 満腹になったお腹にちょっと無理をさせながら、残ったポテトの山に手を伸ばそうとした。――その時だった。


「――――っ!!」

「うわっ!? ちょ、シミィンちゃんどうしたの?」

「なになに、どしたのシミィンちゃん?」

「何か変なことでもあったの~?」


 大きな魔力を感じた。

 それも力いっぱいに空間を叩きつけるような魔力が。……これ、まずいかも。

 直後、ピキッと何かが軋むような、割れるような音が何処からともなく響いた。


「何? 何かいま、音しなかった?」

「したした。ガラスに亀裂が入ったような感じの音がした」

「え、もしかしてあの窓に亀裂が……入ってないね~。じゃあ何の音だったんだろ~?」


 伊地輪たちにも聞こえていたみたいで、ほかのテーブルを見ると同じように音を聞いた人たちがキョロキョロしだした。

 そして窓に近い席に座っていたお客さんが空を指差すのが見えた。

 釣られて他のお客さんたちも同じように窓の外、空を見る。


「何だ、あれ……?」

「え、空に……赤い亀裂が走ってる?」

「やだ、なんだか怖いし気味が悪い……」

「天変地異の前触れとか?」


 口々にお客さんたちが言いはじめ、伊地輪たちも席に座ったまま体を伸ばして窓の外を見ようとする。

 性根に至ってはスマートフォンを手に窓越しに空を撮ろうとしていた。

 そんな彼女たちを無視して、わたしはカバンを手に取ると席から立ちあがる。

 すると立ちあがったわたしに隣の伊地輪が訪ねてきた。


「シミィンちゃん?」

「どしたの? なんかあった?」

「もしかしてトイレとか~?」

「…………ん、ちょっとトイレ」


 このまま外に飛び出しても、変な人と思われそう。だから振られた話題に乗るようにトイレに行くことにした。

 ……とりあえず、こんな街中でモンスターが出たら混乱する。だから、ここは……頼るしかない。

 そう考えながらファミレスから一度出るとフロア内のトイレに向かって移動をしながら、カバンからスマートフォンを取り出すと操作を行って、電話帳に登録されている人に連絡をした。


 プ、プ、プ、プルルル、プルルルル……とすこしコール音が鳴って、3回目でその人は通話に出た。


『もしもし、只野さんですか? もしかして突然の送金に驚いたので――』

「理事長。あいさつは抜きにするけど、現破治でモンスターがでてくる。それもこれまでとは違って、大量のうえに強いのも混じるかも知れない」

『は、はい? え、どういうことですか?!』

「どこかのバカが壁に魔力を叩きつけて、世界の境界を無理矢理叩き壊した。……そっちにモンスターと戦えと言わないけど、人を避難するために手を貸してほしい」

『わ、わかりました。じいや、至急連絡をお願いします!』

「ん、よろしく……おねがいします。それじゃあ」


 聖理事長の指示をする声を聞きながら、通話を終了すると伊地輪たちの元へと戻る。

 トイレ? ウソだったけど、いちおうはしておいた。戦いのさいにしたくなったら困るから……。


「シミィンちゃんおかえりー。これからどうする?」

「……ん、ただいま」

「空が変になってるけど、変わりないよね?」

「やっぱり予定通り駅ビルに行こっか~?」

「…………ん」


 ……とりあえず、伊地輪たちは……どうしよう。ビルの外に連れて行くわけにもいかないし、でも力を持たない彼女たちを置いていくのも心配。

 悩みながら席にすわり、伊地輪たちの会話に曖昧な返事をつづける。


 …………どうしよう。

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