12-5.魔改造
エリクサーの効果でゆっくりと魔王の転生体の体が修復していく……、だけどちょっと様子が変だった。
穴が開いていた胸はふさがっていったけど、ほかにも変化があった。
「……魔石の特徴が体にでてる? それと色々じょうかされてる?」
呟きながら変質していく体を見ていくけど、はずはじめに体が日本人特有の黄色かかったものじゃなく……外国人特有のしろい肌になっていく。
同じように黒かった髪も老人のように白い髪になっていった。
さらにそんな白い髪のあたまにはぴょこんとネコとくゆうの耳が出ていて、逆に人間の耳が縮んでいった。
これは……テンペストタイガーの魔石の影響? そう思っていると背中がパキパキと音がしてドラゴンのような翼が生えた。
……なんというか、人間だけどあの魔族の知識にある獣人みたいな感じになってしまった。
「ん、んんぅ…………。わ、れは……」
「おきた」
体力が回復したみたいで、魔王の転生体が目を覚ました。
そして茫然としていたけど……わたしと目が合った。
あ、ひとみもオッドアイみたいになってる……。それにネコみたいな感じになってるし。
「おまえは……だれだ? いや、マスターというのはわかっている……?」
「……れいぞくはうまく発動してるみたい」
「っ!? 隷属だと……? 貴様、我に対して……! ――――っ!?」
わたしの言葉に魔王の転生体はカッと目を見開いて睨んできた。
そして手に力をこめた瞬間、人間の手だったものがドラゴンの腕のように固いウロコにつつまれ、足もネコ科のような細いものに変化した。
魔王の転生体もそうなったことに驚いたのか目を見開くのが見える。
「これは……」
「れいぞくさせないと、わたしとかアレを襲うでしょ?」
「あれ? ……なるほど、勇者か…………」
わたしが指差した方向を魔王の転生体が見るとそこではアレがモンスターに向けて剣を振るっているのが見えた。あと、残り2人も。
ほかにもさっき武器を投げつけた男のひと3人も頑張っているし、聖理事長が送ったと思う傭兵部隊も乱入しているのが見えた。
それに、色々と人の目が強くなってきている。
「そろそろ離れるべき、かな。ねえ、手足を元に戻せる?」
「……それは命令か?」
「ううん、お願い。それとその翼で空は飛べそう?」
「わかった。……翼? 生えているのはドラゴンのものか。ならば訓練次第だろうな」
「ん、だったら乗せていくから乗って」
ドラゴンの腕とネコ科……虎の脚が普通の人間の手足になって、すこし自分の体を動かしてから……魔王の転生体は答えた。
訓練したら飛べるようになるんだ……。すこし驚きつつも杖を横にして、乗るように促す。
わたしの言葉に従って魔王の転生体は杖にまたがる。
……あ、そういえば伊地輪たちにひと声かけるべきだった。というか無事……だよね?
すこしだけ不安になったから周囲を探知してみたけど、あれらがモンスターを徹底的に狩っているのと……ビルの上の階あたりでちいさなドーム状の結界が張られているのがわかった。
「うん、ちゃんと発動してる」
「なんだ?」
「なんでもない。とりあえず、落ちないように気をつけて」
「ふん、貴様。誰にものを言っている? 我は……んん?」
魔王の転生体にそう言うと杖を浮かばせはじめる。
いっぽうで魔王の転生体は自信満々に言ってたけど、自分の言ってることに違和感を感じているみたいで首を傾げていた。
……まあ、大丈夫だよね。ということで移動。
「っ!? ま、待て! 股! 杖が股が喰い込んでいる!! ちょ! 待てと言ってる!! ひんっ!?」
「だいじょうぶなんだよね?」
「け、賢者! なにをしてるんだ!! 魔王をいったいどこに連れて行くつもりだーー!!」
魔王の転生体が何か叫んでるし、あれも地上から叫んでる。
それらを無視して、わたしは現破治から飛びたつ。
あとすこししたら境界のひび割れは修復するだろうし、聖理事長の手配でレスキュー隊とかが来ると思う。
……そうだ、いちおう身を隠すために≪
「――≪
これで気配は消えたから、よっぽどの探知能力を持ってる相手じゃないとばれないと思う。とりあえず森に向かおう。
なんだか後ろで、またがまたがと言ってる魔王の転生体の言葉は無視して森に移動することにした。
●
空を移動して30分も経たないうちに、わたしと魔王の転生体は工房のある森に到着した。
地面に足がつくくらいの高さになった瞬間、魔王の転生体は杖から転がるようにして地面に落ちた。
「うぅ……、股が裂かれるかと思ったぞ……」
「回復するから問題ないんじゃないの?」
「それとこれとは話は別だ! マスターでなければ殴りつけていたというのに……」
「けっきさかんみたいだから、そうしておいた」
「ぐぅぅぅ……」
こかんに手を当てながら、魔王の転生体はわたしを恨めしそうに見る。
とりあえずれいぞくさせておいてよかった……。
そんな風に思っているとあらためて魔王の転生体がわたしを見てきた。
「ところでマスターよ。貴様はいったい何者だ? 勇者は賢者と呼んでいたが……我にはそうは思えぬ」
「そういうそっちも、魔王の転生体……でいいの?」
「まおう……ああ、そうだった。我は魔王であったな。まだ少し記憶の混濁が目立っているようだ……」
いぶかしむようにわたしを見ていた魔王の転生体だったけど、わたしの問いかけに一瞬キョトンとした表情をしてからかるく頭を振る。
……魔王の転生体なんだろうけど、邪悪さが感じられない。というよりも、違和感が強く感じる。
でも、害はなさそう。というか、害を感じたら精霊に森の外に追い出されそうだし。
そう思っていると魔王の転生体が周囲に目を向ける。
「股の痛みが治まってきたから、ようやく周囲を見るが……ここは精霊に護られているようだな」
「……わかるの? …………え」
『かみさまだ』『カミサマダ』
『もどってきた!』『モドッテキタ!』
森を護るように頼んでいた精霊の多くが魔王の転生体によろこんで近づいていく。
そしてしばらくしたら、たいりょうの精霊たちに群がられていた。
たぶんだけど、森だけじゃなくて漂っていた精霊も近づいていると思うけど……、どういうこと?
目のまえの状況に戸惑っていると魔王の転生体が立ち上がった。
「我は魔王だった。それ以上でもそれ以下でもない、そう思っていた……しかしどうやら違ったらしい」
「……どういうこと?」
「我は遥か昔、精霊たちの神だった。しかし、何者かに存在を歪められ……我は魔王となった。いや、されてしまった」
魔王の転生体はそう言って複雑そうな表情をする。
いっぽうのわたしはわたしで驚きをかくせない。だって、魔王がかつては神様だって言うし、精霊が認めているからうそじゃないというのもわかる。
かつては精霊たちの神だった存在が魔王となった? ううん、本人のはなしを信じるなら何かによって魔王にさせられた。……じゃあ、だれに?
もしかすると、向こうの世界で魔族を率いている存在とか? ……わからない。
「情報がそろっていないのに、考えるのはむずかしい……。それよりも、先にすることをしよう」
「マスターよ。貴様は一方的に喋らせてダンマリを決め込むつもりなのか? 貴様はいったい何者なのだ?」
「……いちおう、賢者」
「…………そういうことにしておくことにする」
わたしをジーッと見ながら魔王の転生体は言う。
たぶんだけど、賢者じゃないと理解してるだろうけど……れいぞくの影響で強く言えないんだと思う。
人としてはどうかと思うけど、使っていて良かったと思う。
「まあ、それは置いておいて……中に入ろう」
「置いておける問題か? まあいい、貴様……いや、マスターが答えるまでは待つとしよう。それで、何をする気だ?」
工房のなかに入り、明かりを点けるとついてきた魔王の転生体が訊ねてくる。
そういえば、魔王の転生体の名前って何だろう? まあ、名前がかわる可能性だってあるし、聞かなくてもいいや。
それよりも何をするかを答えることにする。
「かんたんに言えば修理」
「修理? ――っ!? オネット……! しっかり、しっかりせよ!」
倉庫から取りだした人形を見て、魔王の転生体は驚きつつ肩を揺する。
だけど、機能を停止しているからか反応はない。
それを理解したみたいで、揺すっていた手を放す。
「……マスターよ、修理といったな? 我が出来ることがあるなら何でもする。だからこの子を、オネットを修理してくれ」
「ん、わかってる」
魔王の転生体にうなづいて、わたしは人形……オネットと呼ばれた人形の修理を始めることにした。
れっつまかいぞう。
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