5-2.精霊と会話。
「とりあえず、オネットはいまは休むように。修理した箇所が定着するまでは安静だから……終わったら、あねかわいがりって言うのをしに行ってもいいから」
「わかりました!」
表情が変化しやすいと感情が変化しやすいのか、それとも感情が変化したから表情が変わりやすくなったのか……。
どっちが先なのかは分からないけど、わたしの言葉にオネットは瞳を輝かせながら返事をすると椅子に座って休眠をはじめた。
それを見てからさっきの戦いを思い出し、興味が出たことを考えはじめた。
……精霊を武装にする方法、いいかも。
「……真緒がおこなったのは魔力を差し出す代わりに火精霊に外装となってもらっていた。どうやって? 真緒が精霊と話すことが出来たからだと思う。じゃあ、真緒しか出来ない方法なのかと聞かれると……精霊と話すことが出来る相手、それと魔力を沢山持っている場合にこれが可能になる? ……聞いてみよう」
考えるよりも実践、それが無理なら貸してるがわに聞いてみる。
そう考えて工房から出て森の境目に立つ。
「みんな、聞きたいことがあるんだけどいい?」
『だれ?』『ダレ?』
「わたし」
『しみぃんだ』『シミィンダ』
『けんじゃのでし!』『ケンジャノデシ!』
『どーしたの?』『ドウシタノ?』
境目に立って声をかけると森の監視をしている精霊が返事をした。
とりあえず今いるのは……風と土の精霊が多いみたい。
「ついさっき、精霊神だった子が火精霊の力を借りて、鎧みたいに纏わせていたんだけど……なにか知らない?」
『『『『しらなーい』』』』『『『『シラナイヨ』』』』
質問に精霊たちはいっせいに答える。
精霊の様子を見るけど……知っている雰囲気はない。
じゃあ、真緒が無意識に使った固有の能力?
「ちょっと試したいことがあるんだけど協力してくれない?」
『どんなー?』『ドンナノ?』
『なにくれる?』『ミツギモノー』
わたしのお願いに精霊たちは声を揃えて言いはじめる。
真緒の場合は精霊神だったからかなり交渉は緩和されているんだと思うけど、わたしの場合はどうなのかは分からない。
だから危ない要求にならないようにしよう。
「とりあえず出せるのは、ある程度の魔力。それとお菓子だけどいい?」
『まりょく!』『オカシ!!』
『えー、それだけ?』『モットホシイ』
「今回は試すだけなんだけど、だめ?」
『『しかたないなぁ』』『『シカタナーイ』』
創り出した土のテーブルのうえに皿を置いて、その上にクッキーをのせながら言うとすこしだけ文句を言いながら精霊たちは協力してくれることになった。
ちなみに乗せたクッキーは精霊たちがいっせいに群がって、すぐに空になった。
空になってるから、満足してくれたと思っておこう。
「それじゃあ、お願いしたいんだけど……はじめに土精霊がわたしの指先に集まってくれない?」
『ワカッタ』『おっけー』
フワフワとしたすこし黄色かかった精霊たちが指先に集まってくる。
すこしくすぐったいような気がするけど、ほんのりとあたたかい気もする。
そんな精霊たちが集まっている指先に魔力を一定量込めはじめた。
『まりょく!』『マリョク!』
「この魔力を使って鎧のように硬くなってくれない?」
『ん-やってみる』『ムズカシイ!』
わたしの指示に集まっていた精霊たちがむにょむにょと合わさっていくけど、難しいみたいで何も起きない。
やっぱり真緒の固有能力? とりあえず、肉体に直接は無理みたい。
となると精霊と会話が出来てて、魔力を大量に持っている人でもこれは難しいということで。
じゃあ別のアプローチを考えよう。……今度は装備に纏わせる感じで。
「ありがとう。今度は防具とか武器に使う素材に集まって、さっきのことをして欲しいけど、いい?」
『ついかほーしゅー』『ダスモノダセー』
「ん、今度はこれをあげるから」
そう言いながら空になった皿に別のお菓子を置いていく。
するとすぐに無くなったけれど、満足そうだったから良しとする。
それを見てから、新しく土のテーブルを作成して素材となるプレートを並べていく。
鉄、銅、鋼、ミスリル、ヒヒイロカネ、オリハルコン、毛皮数種、革数種、ヘルポイズンドラゴンの革。
皮などはたんざくほどの大きさに切ってある。
「これらをお願いしたいんだけど、先にどれが嫌か言ってくれる?」
『『これだけは』』『『ゼッタイニイヤー!』』
「ん、わかった」
ヘルポイズンドラゴンの革は完全に除外らしく、速攻で排除した。
元々の素材は良いと思うけど、精霊は寄りつかなくなるみたい? それとも危険と判断しているかのどっちかだよね?
そんな風に思いながら、もう少し
ちなみにお菓子につられたからか、ついさっきよりも精霊の数は増えている。
『これはいいー』『コレダメー』
『ちょっとにがて』『イイカンジー』
『きついぃ』『ハジカレル!』
増えた精霊たちが用意した素材に集まっていき、様々な変化が見られたり、見られなかったりした。
鉄や鋼はほんのり属性の色がついたように見える。だけどすぐに元の素材の色に戻った。
銅は……変化が見られない。一応触れてみたら、砕けた。
耐久性が足りないのが原因だと思う。
「魔法に耐性があるとか、魔力の受け皿にしやすい素材じゃなかったら意味がないみたい」
モンスターの毛皮系は……、属性が同じ精霊が協力してくれたら反応が見られた。
元々は風の属性を持っていたと思うモンスターの毛皮がそよそよ動いたし、硬そうな革に岩の表皮が出来たりした。
特定素材で反応する? ちなみにそれらに協力してくれている精霊たちは疲れていたから精霊としての力をかなり消費してしまうんだと思う。
「金属系の素材よりも親和性が高い。けど、消費量が多いみたいだから精霊の負担がかかるみたい?」
モンスター素材だと真緒がしたことに近いことが出来そうだということが理解できた。
けど、高位の精霊が協力するか、バッテリーのように魔力を貯蓄しておく道具が必要になると思う。
まあ、全体的に人間が精霊の力を借りようとしたら魔力を使用時から常時消費することになりそうだけど。
そう思いながら残りの素材を見る。
「ヒヒイロカネは……風には合わない。土は、一応は適正はあるけど……火と水は分からない。けど、元々火の気質が高いから火精霊との相性がよさそう。
オリハルコンはすべての適性が均等といえば聞こえはいいけど、元々の金属が精霊を弾いているように見える。下位だから? 上位精霊か……光か闇の精霊に協力出来たら試すべき?
いまのところ一番精霊との相性がいいのはミスリルみたい。……魔力を帯びた魔鉄とも合いそうな気がする」
ようするに魔力がある素材、魔力を通しやすい素材を使うと精霊の力を借りることが出来るみたい?
でも、協力してもらった精霊たちはすごく疲れているみたいだから、常時発動もムリみたいだし、位が低い精霊だと存在が消えてしまいそうになるかも。
もしもこれを確立させるなら、魔力が馬鹿みたいにある人か魔力を溜めておくアイテムを所持して、なおかつ協力してくれる精霊が上位精霊じゃないと厳しいみたい。
「いまは真緒限定の能力って考えておいたほうが良いかも。アレらが上位精霊と接触できたなら考えるべきだろうけど」
起きるかも知れないことを口にしつつ、わたしは協力してくれた精霊たちに魔力とお菓子をさらに追加で与える。
協力してくれたために疲弊していた精霊たちは追加の魔力とお菓子へといっせいに集まっていく。
それを見ていると新しく精霊が近づいてくるのを感じた。
「精霊? けど、この辺りの気配がしない」
いったいどこから来て、何をしに来たのか。そう思っていると精霊がわたしへと近づいてくる。
『とどけものー』
「届け物? なに?」
『これー』
間のびした声といっしょにフワフワとした体から届け物である魔力紙で書かれた手紙を取り出して、渡してくる。
この時点でこれを送ってきた人物がだれであるかを理解し、ここまで来てくれた精霊にお礼を言いながら魔力とお菓子を差し出す。
「……ん、ありがと。魔力とお菓子、いる?」
『いるー。ありがとうー』
そんな精霊をチラリと見てから、送られてきた手紙をかいふうする。
手紙はやっぱり想像していた人物で、内容は簡単な挨拶と用件、それと地図だった。
それを見ながらわたしは小さく、
「うん、師匠らしい手紙。けど……こんなことになってるんだ。原因はわからないけど、いちど行ってみたいかも」
もしかしなくても、向こうがわの敵が仕掛けたものだと思う。
きっと今頃は理事長のほうにも師匠から連絡が行ってるか……、もしくはわたしが言わないといけないのかも知れない。
そう思いながらわたしはこの世界に現れたダンジョンの場所が記された地図を見ていた。
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