1-2.高校入学
どうして式って、こんなに時間がかかるんだろう……。
必死に眠いのをこらえながら、わたしは壇上をボーッと見る。
いま現在は不破治市の現市長が新入生へお祝いの言葉を話している。
だけど話す内容はちょっと変わっただけだけど、さっきまでと同じような内容。
県知事から始まって、教育長だったり、都会の方の官職の人だったりと来て、現在は現市長。たぶんだけど、聖財閥が関係しているからこんなにもえらい役職の人がきているんだろうな……。
電報もそんな感じのが多かったし……。
そう思っていると耳に寝息が聞こえて、周りも眠いのをこらえているか、すでに眠ってしまっているかとなっているみたい。
でもなんでこういう時の挨拶って、よくよく「これからこの学校へと入学する皆さんは」とか「実りのある学校生活を送ってください」って言葉が入るんだろう。
きっと入れやすいんだろうな。
そう思っていると耳に届く寝息に口元が耐え切れず、ふぁ……と欠伸がもれた。
「ぁふ……がまん、がまん……」
もれた欠伸を手で隠して、軽く頭を振って眠気をさまそうとする。
正直、いま眠ってしまったら……どこかで撮影が行われているカメラに寝顔が映ってしまう。だから頑張っておきていないと……。
パパとママに「シミィン立派だったぞ~」とか「さすがシミィンちゃんね~♪」と入学式の映像を見てもらってちょっと自慢気になりたいから。
そんな野望を抱いていると、現市長の挨拶は終わりを告げた。
『それでは、私からのお祝いの言葉はこれにて終了させていただきます。新入生の皆さん、これから良い高校生活を送り、心身ともに成長をしてください』
『以上、不破治市市長によるお祝いの挨拶でした。それでは最後に、聖ファンタジー高等学校理事長を務める聖財閥現代表取締役の聖乙女さまからの挨拶をもって終わりとします』
司会を務める女性の挨拶を受けて、壇上から市長が降りていき、少しして入れ替わるようにゆっくりとひとりの女性が壇上に上がった。
見た目は30代後半と思われ、肩ほどで切り揃えられた髪は黒くつややかで壇上のライトを浴びて光を帯びているように見えた。
服装は現役のキャリアウーマンを思わせるようなスーツだけど、色は白を基調とした汚れるとそれが目立ちやすいスーツ。
壇上にある演壇の前に立つとゆっくりとお辞儀をして、顔を上げた。
やまとなでしこ。
そんな言葉が似合いそうな女性はわたしたち生徒へと微笑む。
キツめな印象を持った切れ長の目だけど柔和に微笑むその姿はとても魅力的に見え、きっと着物を着たらすごく似合うと思いながら、すれ違ったら全員が振り返るであろう清楚な魅力を感じさせる女性を見ていた。
こんな人がいるなんて……。美人ってどこにでもいるんだ……。
ぼうぜんと思いながら女性を見ていると口を開いた。
『初めまして皆さん。私は今ほどご紹介に預かりました当校の理事長を務める聖乙女と申します。これからは生徒の皆さんとも顔を合わせることとなると思われますが、どうぞよろしくお願いしますね』
生徒たちへと優しく語り掛けるように言い、最後に理事長は再び優しく微笑んだ。
その瞬間、理事長の微笑みに魅了されたかのようにこくりこくりと眠そうにしていた生徒たちはいっせいに目を覚まし、眠っていた生徒も起き出した。
そして全員が壇上の理事長を食い入るように見つめる。
「す、すごい……」
「なんて美しいんだ……まるで女神のようだ」
「これは、年下好きだったのに年上好きに目覚めてしまいそうだ……」
どう言えば良いのかわからないけれど、周囲の男子生徒が小さく呟くのが聞こえる。
女子生徒も幾名かが熱い視線を送っているのが感じられるけれど、わたしは内心ものすごく驚いていた。
どうしてかというと、理事長が微笑んだ瞬間……わたしの耳にはキンッとグラスとグラスを軽くぶつけたような音が聞こえたからだ。
魔法を使う敵と戦う機会なんてまったく無かったから、最近聞くことがなかった音。
これは……自分へとかけられた魔法に対して抵抗した音だった。抵抗したと同時にわたしはどんな魔法がかけられたかを確認すべく、魔法を解析する。
≪
かけられた魔法の効果が何であるかを理解していくと、うたたねから目を覚ました生徒たち全員に語り掛けるように理事長は話す。
『さ、さて、私が言いたいことは殆ど来られた方々に言われてしまいましたね。……ああ、嫌みではありませんからね? というよりも、言う手間がなくなって助かりました。まあ、ですので私は皆さんに簡単に言わせていただきますね』
いっしゅん、理事長は戸惑った様子だったけど、すぐに調子を取り戻す。
ちなみにジョークを入れていたからか、ツボに入った人はくすりと笑っているのが聞こえる。
きっと、理事長も魔法を抵抗したときの音は聞こえるはずだから……誰が抵抗したのか分からなくても、それを行う人物が新入生にいるということに気づいたに違いない。
でも、わたしが抵抗したということには気づいていないはず。
だから静かに高校生活を送ろう。変なことになんて、巻き込まれたくない……。
そう思っていると、理事長は新入生への言葉を口にする。
『皆さんはこれから高校生活という新しい世界へと飛び込みます。そこでは慣れないことや分からないことだってあるかも知れません。ですが、自分ひとりで悩もうとはしないでください。皆さんには同じ志を持ち入学をした仲間がいます。面白おかしく頼れる上級生たちが居ます。ですので、自分ひとりでは無理だと思ったときは悩まず、仲間を頼ってください。そして皆さん自身も困っている相手から頼られるような人物になってください。皆さんはひとりではないのですから、数多くの仲間がいることを忘れないでください』
言い終わり、お辞儀をすると話を聞いていた生徒たちから尊敬の熱いまなざしが向けられる。わたしも、理事長の言葉は生徒のことを思いやった言葉だと思う。
すると誰からともなくパチパチと拍手が館内へと響き、その拍手の波は段々と広がり……新入生のほとんどから理事長に向けて拍手が贈られていた。
わたしも少しだけ拍手を行い、まわりに溶け込む。
『ありがとうございます。それでは、私からの挨拶は以上とさせていただきます』
拍手を贈られながら、理事長はお辞儀をして優しい瞳をわたしたちへと向けてから……壇上を降りていった。
理事長が招待客の列に並ぶのを見届け、壇上に向き直ると司会の声が館内に響く。
『以上を持ちまして、第――回、聖ファンタジー高等学校入学式は終了します。一同、起立――礼、着席』
立ち上がり、お辞儀をして、椅子に座る。……こうして入学式は終わりを告げた。
だけど、新入生がいっきに体育館から出ると入り口の辺りで混雑するのが過去の経験で分かっているようだった。
だから科別に校舎を移動するみたいなので、わたしは指示があるまでそのままジッと椅子に座り待っていた。
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