5-3.今日はここまで(別視点)
☆ 聖女視点 ☆
「こうして出来上がったのがその土地の人から垂れ流される魔力を一点に収集させるための魔法の≪
話を初めて数時間が経ちましたが……只野さんが言っていることに私は終始驚きを隠せませんでした。
というか、賢者さまからはモンスターがこの世界に現れるようになるから防衛をするための協力をしてほしいといった手紙しかもらっていませんでしたがこの世界にモンスターが現れるようになった原因が私たちにもあっただなんて……。
さらには数年前から集めるようになっていたH関連こと聖財閥……というよりも私が興味を持ちそうな超常現象が関わる事件で大規模テロが起きるはずだったものの中心に彼女がいたとは……。
そう思いながら彼女がテーブルに置いた道具を見ましたが細い枝に宝石のような石がいくつも付いた物には見覚えがありました。
「これは……現地調査を行った方たちからの報告に度々出ている道具ですね? 一度地面に突き刺さった物を抜こうと試みたみたいですがまったく抜けなかったと報告があります」
「ん、これを地面に突き立てることで身近な地脈にこれは繋がれる。そして繋がったことで簡単に抜けることはなくなって、垂れ流された魔力を収集させて一定の量が溜まると世界と世界の亀裂を修復するために地脈の力を借りて増幅させて放出される」
そう只野さんは説明をしてくれましたが、鑑定をしてみても複雑に創られすぎていてまったく分かりません。
ですが彼女の言葉通りなら害があるような物ではないのは確かです。
そしてこの木の枝みたいな道具をこいろんな場所に設置するために賢者さまは世界各地を転々と移動しながら旅をしているようですね。
そう思いながら改めて彼女の置いた道具を手に取り……まじまじと見ますが、出来は本当に素晴らしいと思えるものでした。
「只野さん、これは賢者さまと共に創られたのですか?」
「ん、師匠と一緒に錬金術を使って創った。でも練習として何本かはわたしに創らせたりもした」
「あの、創られた物を見せてもらっても良いでしょうか?」
「いいけど……あまり上手いものじゃないよ」
私の言葉に只野さんはもう一本同じ物を取りだして渡してきました。
それをマジマジと見てから指の腹で這わしたりして触りますが、付与されている術式は先ほど見た物と同じですが……術式を付与された本体は賢者さまと比べて少し粗削りながらも賢者さまが創った物とほとんど変わりないと思いますね。
というか木の枝と思っていましたが、よく触ってみるとこれは金属で創られているみたいですね。そして魔石らしい木の枝についた石は木の枝に行われた付与術式の補助を行っているのでしょうか。
そう考えると本当によくできた物だと思います。……いちおう、相談してみましょうか。
「只野さん、少々良いですか?」
「なに?」
「錬金術で……武器なども作れたりしますか?」
「武器? なんで?」
私の質問に只野さんは首を傾げながら理由を尋ねてきます。
その問いかけに私は隠すことはなくちゃんと話しました。
前回彼女も関わったモンスターが起こした事件で優木さん、グレートシールドさん、半田さんに用意した武器のほとんどがあっさりと壊れてしまったということ。
現代科学で製造されている武器のほとんどは強固に作られてはいるけれども、魔力を帯びた攻撃には耐性がほとんど無いということ。
用意している武具には聖女である自分の加護を一応は掛けてはいるけれど、効果は数日しか持たず……戦うときに万全ではないことを語りました。
只野さんは黙ってそれを聞いていましたが……かるく頷いているところから理解しているようです。
そして少し考えてから彼女は鞘に入ったナイフ……いえ、短剣ですね。それを取り出してテーブルのうえに置きました。
「見てもよろしいですか?」
「ん」
「では失礼して……」
「お嬢様、ここは私が先に確認いたします」
短剣を取ろうとした私ですが、先にじいやが手を伸ばして短剣を取りました。
そして鞘から抜き、角度を変えながら刀身をマジマジと眺めます。
先にとって確認をするのは当りまえのことですが、信用できる人物なのですから良いと思うのに……そう思いながらじいやを見ていると短剣を眺めるじいやは首を傾げつつ眉を寄せていました。
「……これは普通のナイフよりも劣っているように思えますが、使われている金属がいったい何なのか分かりませんね……」
「じいや、そろそろ私にも見せてもらえませんか?」
「失礼いたしました。どうぞお嬢様」
「ありがとうございます」
短剣を鞘へと納め、私へと差し出されたのでそれを受けとり鞘から短剣を抜き、確認します。……これは魔力を含んだ鉄ですね?
錬金術を使って精製したのですから武器の質は作り手の知識に寄りますが……どちらかというと包丁に近い風に作られているのでしょうか? そしてじいやが言ったように劣っているように見えますが……それは違います。
「じいや、何かいらない物はありますか?」
「いらない物、ですか? ……まさか試し切りなどをお考えで?」
「ええ、じいやにはこの短剣が切れ味の悪いナイフだと思われているようなので考えを改めてもらおうと思いまして」
「そう言われましても、この部屋に置かれている調度品は高価なものばかりで……」
「じゃあこれを使って」
私の言葉に戸惑うじいやとは違い、只野さんは試し切りをすると分かっていたみたいでインゴット状に成型した金属の塊をテーブルへと置き、重たい金属の塊が乗った瞬間テーブルはドシンとした重量感がある音を立てます。
軽く指で塊を叩き、空間もない完全な金属……鉄だということが分かりました。
その鉄の塊に一度短剣を押し当てますが、切れる様子はありません。
それをじいやも見ており、やっぱりといった風に頷きます。
「普通の人が使ったら普通の物です。ですがこれは魔力を使える者にとっては強力な武器となるんですよ、じいや」
言いながら私は短剣に魔力を込めました。すると短剣に魔力が伝わって淡く光りだし、その状態でもう一度鉄の塊へと押し当てます。
すると今度は鉄の塊がまるでチーズのように短剣は吸い込まれていきました。
そして、タンと短剣の先がテーブルの面に当たったのが分かった瞬間に……テーブルも真っ二つになってしまいました。
「…………な、なんですかこれはっ!? て、鉄の塊が真っ二つ? しかもテーブルまでも!? ただのナイフで金属の塊を切るなど無理なはずではっ!?」
「うん、良い感じに魔力が伝導していますね。ですが……」
驚くじいやを他所に私は十分に魔力が刀身に伝わっている短剣を見ながら感心します。というか十分に戦いに使えそうなレベルだと思います。
ですが、彼女には武器に対する知識が少ないみたいですから完璧に良い物とは言えませんね……。
それとなく彼女に聞いてみましょうか。
「只野さん、貴女は武器……例えば剣や槍などに対しての知識はありますか?」
「ない。師匠からも切れれば問題ないと言われてたから、家の包丁を参考にしてみたつもり」
「やはりそうですか。でしたらサンプルを用意するのでそれを参考にして錬金術を使って武器の作成を行うことは可能でしょうか?」
「……たぶん大丈夫。金属はどれが良い?」
只野さんはすこし考えてから返事をしてから、いくつかの金属を取り出して宙に浮かばせながらこちらに見せてきました。
……って、ちょっと待ってください。この短剣が魔力を含んだ鉄だったから魔鉄を持っているのは分かっていましたよ? ですが、ミスリルやヒヒイロカネは何故持っているんですか!? ま、まさか、オリハルコンも持っては……。
「オリハルコンは採掘できる量が本当に少ないから無理」
「あ、あるのですか。只野さん……オリハルコンはあちらの世界では勇者が振るう聖剣にのみ使われるほどの希少な鉱石なんですよ……」
「ん、師匠からは聞いてる。だからそれによりは劣るけどオリハルコンに近いデミオリハルコンってものも創ったりもした」
いやいや、そんな重要なことを平然と言わないでください。
心からそう思いながらも何とか平静を保ちつつ、保有している量を尋ねますが……やはりと言っていいのか魔鉄の量が一番多く、次にミスリルみたいですね。
更にいうとそのデミオリハルコンという謎金属も量は少ないみたいです。
そしてヒヒイロカネは剣が2本創れるほどの量。
なので優木さんたちのための装備を注文するなら今のところ魔鉄……でしょうか。
当然支払うべき報酬も用意するつもりです。
「防具も金属で創る? ……重くない?」
「まあ重い……ですよね? 一応ですが各地で私設の部隊がモンスターを倒したときに回収した素材はありますが使えたりしますか?」
「ゴブリンゴミ、オークゴミ、トカゲ一応オーケー、ドラゴンさいこう、虫系の甲殻や糸は種類と部位によっては強固」
「さ、流石にドラゴンは出ていませんよ。各国で確認されているモンスターはゴブリンやオークが大半ですね。それとアースドラゴンに属する亜竜も少ないですが見られたそうです。それと海上で海竜系の亜竜も確認されたそうですが……その海域を保有する国の海軍が対処を行ったために素材は海の藻屑みたいです」
サラッと言いましたが亜竜ではない本物のドラゴンはこの世界には来ていないはずです。……ですよね? 只野さん、まさか戦ったりしていませんよね?
そんなことを思いながら淡々と口を開く只野さんに苦笑しつつも返事をしながら、財閥が回収して保存……というよりも解体を終えた素材を思い出しながら言いますが改めて確認するとレアドロップは無いですね。
良くて素材に使えそうなのはヴェロキラプトルのようなアースドラゴンの亜種の皮でしょうか。ああ、一応はワーム系やスパイダーの糸やムカデの甲殻も回収されている可能性もありますね。
それを彼女に伝えると納得した様子でした。
「ん、わかった。亜竜の皮をメインにしたレザーアーマーとか作れると思う……」
「それでお願いします」
「デザインはあっちの世界にある感じにしたら良い?」
「……いえ、出来れば防弾チョッキといった感じのボディアーマーみたいな感じでお願いします。資料はあとで用意しますので」
「ん、わかった」
優木さんたちにあちらの世界での鎧などを着せた場合、どう考えてもコスプレチックになってしまうでしょう。
というか、浮いてしまうこと間違いなしです。そして貰った時点で優木さんが意気揚々とその鎧を着て高校に通うことでしょう。
そしてグレートシールドさんと半田さんが力づくで止めようとする未来も見えます。
なのでこちらの世界でも多少は違和感がないようなデザインで作ってもらう必要がありますね。
そう思いながら話を聞いて頷く只野さんを見ていましたが、彼女がこちらを見返してきました。
「……この後、どうしたら良い?」
「え」
「時間」
「あ、もうこんな時間なのですね。まだまだ話を聞きたいので少々名残惜しいですが……只野さんのご両親が心配しますね。じいや、彼女を送ってもらえますか?」
「かしこまりました」
「送らなくてもいい」
彼女の言葉に窓の外を見ると空は暗くなり始めていて、時計を見ると時間はもう夕方の18時を指していました。
そのことに驚きつつもあれだけ話を聞いていたのだから時間が経たないわけがないことを納得しつつ、彼女を送ってもらうことをじいやに頼みます。
しかし只野さんは拒否しました。
そして彼女はゆっくりと窓へと移動し、窓を開けると春特有のやわらかな風が室内へと入りこみ、閉ざされていた部屋の空気が変わるのを感じました。
「帰り道に色々聞かれそうだから、今日はひとりで帰る」
「……わかりました。でしたら後日、そちらに迷惑をかけたお詫びの品とどのような装備が欲しいかという資料を用意させていただきますね」
「ん、わかった。それじゃあ」
そう言って只野さんが軽く腕を振るった瞬間、彼女の服装が一瞬で変化しました。
制服の上に羽織るようにして賢者さまが着ていたローブが現れ、銀色の髪の上には同じく賢者さまがかぶっていた三角帽子。
その手には、賢者さまが使っていた杖が握られます。
どうやら賢者さまが残した物を彼女は身に着けているようですが……魔法使いみたいのように見えますね。
それだけなら良いのですが……今の只野さんはギチギチに結んでいた髪は解かれて、目を隠していたメガネは外されてそのきれいな素顔が露となっており……とても魅力的な顔が私たちの前に晒されました。
透き通るような蒼い瞳がとても印象的でまるで妖精のように感じられます。
例えるなら、そうですね――妖精賢者でしょうか?
そんな姿が彼女の戦闘スタイルですか……。
「――≪
彼女が一言呟いた瞬間、解かれた髪はよりきれいな銀色の光を放ち、持っていた杖が浮きます。それに腰を下ろして彼女は宙に浮き……そのまま窓から飛んでいきました。
隣では飛んでいく彼女を驚いた様子でじいやが見ており、私は銀の軌跡を夜の紫に色付き始めた空に描きながら飛んでいく彼女を見送ります。
……そういえば、只野さんから彼女が初めてモンスターと戦ったときはどんなものだったのか聞けませんでしたね。
私の場合は生きるのに必死で無我夢中でしたけど、彼女はそんなことはありませんでしたからどうだったのでしょう。
聞いてみたら答えてくれたりしたのでしょうか?
そんなことを考えつつ、彼女に渡すための資料などを用意するためにじいやへと声を掛けました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます