9-2.1章エピローグ【後編】

 かがみの中のダンジョンにはいってから数日、高校生活初めての連続したおやすみであるゴールデンウィークが始まった。

 いつもだったらお店の手伝いをしたり、師匠から貰ったひみつの拠点の掃除をするだけだけど……今年はやることがひとつ増えた。

 それはギャルグループこと伊地輪たちといっしょに不破治市の商業施設に出かけるというものだ。

 本当は面倒だと思うけど、行かなかったら行かなかったで何というか……あたらしく出来たともだちに、悪いと思った。だからいっしょに出かけることにした。


「ともだち、か……」


 部屋でちいさく呟きながら、わたしは数日前のことを思いだす。

 あの翌日、伊地輪たちは先生や、娘が行方不明と聞いて急いでここまでやってきた両親たちにこってりと絞られたみたいでギャルがギャルギャルしていないくらいにしゅんってなっていた。

 そしてクラスの皆へと心配かけたことへの謝罪として頭を下げて、その騒動は終了した。……んだけど、そのあと彼女たちは授業のあいだの休み時間にわたしに近づいてきた。

 何を言うのかは理解していたけれど、黙って待っていた。

 というよりも、魔法を使って魔力を消費したこともあって……疲れからすこし眠かったのもある。


「た、只野、あのさぁ……」

「なに?」

「あ、いや、その……」

「瑠奈っち、ちゃんと言いなよ~」

「そうよぉ、ヘタレじゃないんだからさぁ」

「わ、わかってるってば!」


 もにょもにょしながら伊地輪はわたしを見ており、彼女のともだちがそれを茶化しつつも元気づけていた。

 そして意を決したようにわたしを見ると……口を開いた。


「えっと、ね。その……ア、アタシと……と、とも、ともだ……友達になってくれないかな!?」

「………………」

「ダメ、かな?」


 不安そうに伊地輪はわたしを見ていたけど……ふぅと息を吐いて、伊地輪を見る。

 そんな反応に断られると思ったのか、ビクッとしていた。


「別にいい」

「え? いい、の?」

「ん、でも……嫌がることとかはしないでほしい」

「わ、わかった! しない、しないから!」

「瑠奈っちよかったじゃん~! あ、うちらもいいかな?」

「よかったねぇ。あたしもいい?」

「嫌がることをしないことと、素顔はないしょにするならいい」

「「あんがとー!」」


 こうしてわたしは伊地輪たちとともだちになった。

 まあ、ともだちとなったからといって何か変わったかというと……食堂でふつうにおひるご飯を食べるぐらい。それとたまに帰るときに少しいっしょなだけ。

 それでも良いとわたしは思ったけど、ギャルギャルな伊地輪たちはテレビドラマで見るようなウインドウショッピングに行きたいと思っていたみたいで……ゴールデンウィークの何処かで遊びに行かないかと誘ってきた。

 わたしはあまり乗り気じゃないけど……まあ、たまにはと考えていくことに頷いた。

 そして話をして決めた出かける日は、ゴールデンウィーク最終日となった。


「まあ、それは良いんだけど……こっちが問題」

「どうかなされましたか?」

「なんでもない……です」


 呟きながら、わたしは座りなれないフワフワとした座席の感触に身じろぐ。

 そして呟きが聞こえたみたいで運転をしていたおじいさんが訪ねてくる。

 それに返事をしながら、わたしは借りてきた猫のように動かずにいた。

 正直、隣にマーナがいたならちょっとは気が紛れたと思う。だけど今はわたし一人だけ。

 ……というか、ほんとうにどうしてこうなったのだろう?

 ほんの10分ほど前のことをわたしは思い出しはじめる。


 ●


 朝、目が覚めていつものようにママといっしょにパパの作ったごはんを食べているとだれかが来た。

 こんな時間に誰だろうと思っていると、仕込みを行っていたパパが対応してくれた。

 けれど少しして、慌てたようにパパが2階に上がってきた。


「シミィン、ちょっと良いか?」

「どうしたのパパ?」

「うん、いま来た人がシミィンを呼んでいるんだけど……行ってきてくれないか?」

「……パパ、その人って信用できるの?」

「ち、違うぞ! 変な人じゃないからな! ただ、この町で有名な人からの使いなんだ」


 パパの言葉にうさん臭さを感じつつ、ジトッとした視線を向けると慌てたように否定してきた。

 有名な人? そんな人がわたしに何か用なのだろうか?

 疑問に思っているとママもそう思っていたようで、首を傾げる。


「そうなの~? シミィンちゃんに用事って何かしら~?」

「それはパパにもわからないな……。けど、怪しい人じゃないから行ってきてくれないか?」

「……わかった。準備するから待ってて」

「とりあえず、服は礼服……なんて無いから、制服を着ればいいはずだから」

「ん、わかった」


 パパの言葉に頷いて、わたしは部屋に戻ると制服に着替えて髪を結んで、メガネをかけ直す。いつもの地味スタイルの完成だ。

 かがみでもう一度だけ確認して違和感がないと判断して下に降りると、パパのとなりにお客さんだと思うおじいさんが立っていた。

 わたしに気づくとおじいさんは恭しくあたまを下げて挨拶してきた。


「初めまして、只野シミィンさん。私は聖財閥代表取締役である聖乙女さまに仕える羊従者郎ひつじじゅうもんろうと申します。気軽にじいやとお呼びください」

「只野シミィン……です」

「本日は私の主である聖乙女さまが貴女さまに用があるとのことでお呼びに参りました」

「用事、ですか?」


 じいやと名乗ったおじいさんに少し警戒しながら返事をしつつ、主がだれかと気化された瞬間――嫌な予感がばくはつてきに増した。

 だってその人は、入学式の日に新入生に魔法を使った人だから……。

 そしてわたしはその魔法に抵抗したけど、それをしたのが誰かと判別されていないと思っていたのに。

 どこでバレた? それとも、バレていない?

 わからない。だけど、行かないという選択肢はない……と思う。だって、断ったらパパとママに迷惑がかかってしまうと思うし。

 そんな想いを理解しているのか、パパはわたしの頭にポンと手を乗せるとやさしく笑う。


「パパ?」

「シミィン。イヤだったら行かなくても良いからな」

「え、でも……」

「俺たちが嫌がることを無理矢理させるような親じゃないって知ってるだろ?」

「うん。……ありがとパパ、でも、ちょっと行ってくる」

「良いのか?」

「ん、だいじょうぶ……だと思う」


 心配そうにわたしを見るパパに、笑いかけると頭に乗せていた手が離れるのを感じた。

 そして、おじいさんへと頭を下げ、すこしだけ威圧をかけていた。


「シミィンのこと、よろしくお願いします。……でも、娘に何かしようものなら、いくら大企業とか財閥のお偉いさんだとしても容赦しませんからね」

「かしこまりました。それでは、シミィンさん。こちらへ」

「それじゃあ、行ってくるね。……お仕事、がんばって」


 そう言って、パパに見送られながらわたしは道に停められていた車へと乗った。

 扉が閉められ、シートベルトをつけたのを確認するとおじいさんは車を走らせた。


 ●


「シミィンさん、まもなく聖家別宅に到着します」

「わかり、ました」


 すこし前の思い出にひたっているとおじいさんが到着を告げる。

 その言葉にハッとなって正面に目を向けると……、豪邸が目についた。

 お金持ちの家といった感じの2階建ての広めの建物がいちばん初めに飛び込み、次に庭だと思うのが目についた。

 切りそろえられた木々、色とりどりの季節の花……今はバラがちらほらと見えた。

 そんな風に思っていると車はホテルや空港の入り口みたいなグルリと回った場所に入っていき、両手で開くことが出来るじゅうこうな扉の前で横づけされた。

 そしておじいさんが先に車から降り、後部座席のドアを開く。


「どうぞお降りください」

「は、はい」


 促されるままに車から降りると、豪邸の入り口まで案内される。

 ちらりと後ろを見ると気配を薄くしながら控えていた誰かの手によって車は移動して、その場からいなくなった。

 そして豪邸のなかに入ると、客間へとあんないされ……革張りのソファーに座らされた。


「主の支度が終わるまで、こちらでしばらくお待ちください」

「わかりました」


 何というか息苦しい。そんな気分を味わっていると……コトンと紅茶とバナナカスタードが挟まれたお菓子が置かれる。

 ほんとうは美味しいのだろうけど、緊張しているからかあまり味がしない。

 はやく帰りたい。そんな風に思いはじめていると、コンコンコンコンとノックがされ、扉が開かれた。


「お待たせしました。……ようこそ、只野シミィンさん」

「こ、こんにちは……」

「どうぞ、楽になさってください」


 中へと入ってきた聖理事長はわたしへと微笑みながら、リラックスを促す。

 だけど、こんなでリラックスなんて難しい。

 そう思いながら理事長の向かいのソファーに座るのを見ていると、理事長がわたしを見てもういちど微笑む。


「どうしたのですか? そんなに緊張していては話なんて出来ませんよ?」

「い、いえ、緊張なんて……その……」

「そうですか? 普通に話してくださっても良いんですよ。さん」

「…………」


 緊張は解けるとどうじに、メガネ越しに微笑む理事長を見る。

 その瞬間、隠れていた理事長の護衛が現れてわたしに銃を向け、おじいさんは理事長の前に立った。はたから見たら銃を突きつけられたわたしが危険だと思う。

 だけど、理事長以外はどこか怯えたようにわたしを見ていた。何名かは銃のひきがねを持つ手が震えている。

 それほどまでにわたしから発せられる威圧は強烈みたいだった。

 それを見ながら、ゆっくりと立ちあがるとまわりを見る。


「わたしは賢者でも大賢者でもない……って言ってもその表情、すべて知っているみたいだし……誰から聞いたの? それとどこまで知っているの?」

「すべて知っています。そしてあなたのことは、手紙をもらいました」

「てがみ……ああ、なるほど」


 理解した。

 そう思った瞬間、わたしは威圧を抑えると護衛たちが安堵するのが見えた。

 どうじに目の前の理事長は信頼できると判断して、借りてきた猫を捨てることにした。


「師匠はげんきにしてる?」

「元気かは分かりませんが……同封された写真には南米でアロハシャツ姿でウクレレを持っていましたよ」

「……師匠らしい。それで、聖理事長……貴女はだれ? それとも、鑑定したらいい?」

「メガネは外さなくても構いません。『ドルイドの食卓に舞う麗しくも儚い妖精』の噂は都市伝説レベルですから、その素顔を見れば誰もかれも魅了しては困るでしょう?」

「ん、わかった」


 メガネを外すことなく、わたしは理事長を見る。

 護衛たちは危害がないと理解すると同時におじいさんに下がるように指示されて下がっていく。だけど執事長であるおじいさんは理事長の背後に立っていた。

 それを見ながら待つと理事長は口を開いた。


「さて、それではあなたには色々と聞きたいと思いますが、まずは私が何者かを言わせていただきます」


 いっぱく置いて、理事長はあらためて自己紹介をする。


「私はかつて異世界へと召喚され、勇者パーティーに所属していたです。改めてよろしくお願いしますね、異世界より漂着し賢者より教えを受け、魔法を覚え賢者を超える実力を持つ少女。

 大賢者――只野=ダイケンジャーノ=シミィンさん」

「……よろしく」


 そう言って、異世界で聖女をしていたことを告げた口で、わたしのフルネームを理事長は口にしたのだった。

 ちなみにダイケンジャーノはママがパパと結婚する前のファーストネームで、わたしはミドルネームとして持っている。


 まあ、それは今は良いとして……わたしは理事長の話を聞くことにした。



 ◆ 第1章 終 ◆



 ―――――――――


 いつも読んでくださり、ありがとうございます。

 とりあえず、ものすごい尻切れトンボっぽい感じに止めますが第1章はこれで終わりです。

 第2章はシミィンの過去が語られる予定となっていますが、ちょっとストックを補充したいので更新は1月ほど先となります。

 頑張って書きますので良かったら読んでください、待っててください、評価してくださいぃぃぃぃ!!

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