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 始まりは、大陸を統一しようとした大国の野望。

 大陸には神代の頃より人族と魔族が暮らしていた。

 統一を望む大国は、大小あった国々を力で治め、残ったのは魔族の王が治める国だけになった。

 魔族の王、魔王の治める国には人族よりも数では劣るものの、悪魔族、獣人族、エルフ、ドワーフなど、個々に優れた能力を持つ種族の集う国であり、激しく抵抗した。

 その抵抗の激しさは、大国の支配下にあった国々の独立への動きを活性化させ、危機感を募らせた大国は解決方法を異なる世界の者へと求め、禁忌として封じられていた異世界召喚を行った。

 その儀式に使用された魔方陣に不備があり、魔方陣の中心に立つ1人しか召喚されないはずが、複数人召喚されることになり、さらには本来召喚されないはずの魔方陣の端に立っていた数人まで巻き込まれた。



 「巻き込まれた数人の内、1人が其方だ。他の者にも、今別の者が1人づつ説明をしている。ただ、中央に立っていた者達は大国へ喚ばれてしまった」

 その喚ばれた者達は、千華の前にいた大学生達だそうだ。

 「関係ないもんを巻き込むなよ。自分尻くらい自分でふけや、クソ共が」

 誰に向けて言うでもなく恨み言を口にし、暗い感情を吐き出すように深々と息を吐く。

 「私達は、いえ。私はこれからどうなるんですか?」

 恨み言は後で言えば良い。今は、溢れ出しそうな不安をなんとかする事がさき。

 1人1人に神様が対応してくれているなんて、訳が分からず不安すぎる。

 「其方には、私達の世界へ行ってもらう事になる」

 「私に死ねと?」

 平和な日本で、ほやほやと生きてきた千華だ。戦争をしている物騒な所へ行けば、速攻で死んでしまう自信がある。

 間違いなく死ぬ。

 「1日もたんと死んでしまいます!」

 「守り石をやろう」

 「食べて良い物と、いけない物の区別がつきません」

 「むう。では、鑑定眼を付けよう」

 「人にコロッと欺されそうです」 

 「罠感知」

 「感知出来ても、回避出来ないと意味ないです」

 「では、まとめて罠魔法としよう」

 「はあ、」

 なんだか、話が妙な所へ行こうとしている。 

 千華は、異世界へ行けと言われたのをなんとか回避したいだけなのだ。

 「しかしな、此処にはそうおれんぞ」

 「え、」

 「此処に其方が存在出来るのは、此処の時間で最大5日だ」

 まさかの時間制限付き。

 異世界送りは、どうやら回避のしようが無いようだ。

 「私は魔の神故に、魔法に付いては相談に乗ろう。体を使った戦闘系は、諦めてくれ」

 「あ、私前の前の仕事をしている時に格闘センス無し、という評価を教官からいただき続けていたので、その辺りの事は自分に期待しとらんです。闘うよりも逃げたいです」

 20歳から数年間、千華は陸上自衛官をしていた。志望動機は、面白そうだから。

 昔から運動神経は良い方で、体を動かす事は大好きだったが、後方支援部隊でも必須の徒手格闘の訓練では、何度教官に付きっきりで教えてもらっても、常に奇妙な動きを繰り返し、

 「ああ、五百蔵は格闘センスがないなぁ」

 と、しみじみ言われる始末だった。

 当時を思い出し、思わず遠い目をしてしまう。

 「闘いよりも、逃げるか。情けないが、ある意味潔いな」

 魔の神様によく分からないお褒めの言葉をもらい、なんだか少し悲しくなる千華だった。

 「だが、混乱した頭では考えはまとまらんだろう。今は休んで、明日ゆっくり考えると良い」

 「そう、ですね」

 慌てたり、落ち着いたり、気持ちの上がり下がりがいつになく激しく、受け入れられない事も多い。

 千華は、とりあえず考える事を放棄した。



 一晩ゆっくり眠り、起きるとそこは変わらず見覚えのない部屋。

 「ああー、夢オチじゃなかった・・・・」

 頭を抱え、ベットの上をゴロゴロと転がる。

 少し固めのベットマットは、千華の好みにぴったりだった。

 「あ、」

 腹が空腹を訴えた。

 「まあ、死んだ訳やなさそうやね」

 空腹によって生きている実感を得て、さらに再び主張され、ベットの住人であり続ける事を諦めて身仕度をする。

 トイレも風呂も着替えも、必要な物は全て揃えられており、身仕度に困る事はなかった。

 「さてと、」

 寝室にあるドアは2つ。

 トイレと風呂へつながるドアと、もう1つ。そっと開けると、そこは昨夜魔の神様と話しをしたソファのある部屋。

 居間なのだろう。低いテーブルの上に、いつも朝食が並んでいる。

 白米、味噌汁、鮭の塩焼き、たくわん。温かい番茶。

 「・・・・・・」

 実家で食べていたいつもの朝食に、違和感しか感じない。

 部屋の洋風な雰囲気と、合わなさすぎる。

 しかし、腹はとにかく食わせろと主張を続ける。

 「・・・・いただきます」

 味噌汁から手を付け、鮭をおかずに米を食い、たくわんを齧りながら番茶を啜る。

 そうして飯を食べながら部屋を見回し、首をかしげる。

 この建物、台所がない。

 「洗いもの、どうせいと。・・・・外?」

 それ以外に考えられず、とりあえず洗いものが出来そうな場所を探す事にして、重ねた食器を片手に外へ向かうドアを開ける。

 「ふぉっ!?」

 持っていた食器が、消えた。

 「・・・・・ファンタジー」

 なんとなく受け入れ辛いが、そういう事にして考える事を辞める。

 「おおう、ファンタジー」

 ドアの外もまた、現実離れしていた。

 一応、家の周りをぐるりと歩いて確認したが、周りは一面の花の咲き乱れる草原。それ以外、何も無く、何もいない。

 「最大5日って言いよったねぇ」

 納得だ。こんな何もない所に、長時間1人でいられる訳がない。

 「此処を出てからどうするかも、考えんといかんなぁ。うわっ」 

 ため息を吐きながら居間へ戻ると、手紙と、紙とペンがテーブルの上にあった。

 脈絡もない出現に、ファンタジーよりもホラーを感じてしまい、小さく震える。

 千華は、お化けが少々苦手だった。

 とは言え、手紙を読まない訳にはいかない。

 恐る恐る手に取ると、手紙の差出人は昨夜に会った魔の神様。

 内容は千華へのご機嫌伺いと、召喚にまつわる後始末の関係で此処に余り来られなくなったという知らせと謝罪。詳しい家の使い方と、魔の神様が千華にくれる予定の物と魔法。それから、渡せる魔法とスキルのリストだった。

 「うわ、あの人律義な人?まあ、どんな魔法があるとか知らんきねぇ。こりゃ、助かるわ。へえ、イベントリ?色々持たんですむがはえいねぇ」

 魔の神様の言う異世界の人々は、入れる事の出来る量に 個人差はあるものの、某青いロボットのポケットのようなものを持っているらしい。

 便利なものだと感心しながら、逃げて生き残る為に必要そうな魔法を考える。

 個数の指定は無かったが、前もってくれるという魔法もあるのだ。欲張って魔の神様の心象を悪くする必要はないだろう。

 「んー、難しい」

 

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