幕間 魅惑の干し芋

 今日は、待ちに待った芋の収穫日。

 「さぁ、掘るで、レオ君!」

 掘ると言いながら、イチが手にする農具は鎌。

 まずは、蔓を刈り取るのだ。

 蔓を綺麗に刈り取ったら、そこからが芋掘りだ。

 又鍬を振り下ろし、土と一緒に芋を掘り起こす。たまに、芋に刺してしまったり、芋を折ってしまうのは、愛嬌だ。

 番人達と総出で芋を回収し、影で干す。折ったり刺したりしてしまった物は、腐ってしまうかもしれないので綺麗に洗って焼き芋、もしくはそのまま番人達のおやつになった。

 「あの芋は、どれくらいで干し芋になるんだ?」

 以前焼いていた芋をおやつにしながら、休憩時間。

 あの芋と言うのは、イチが干し芋にするために植えた白芋。

 皮は白いが火を通した中身は、オレンジがかった明るい茶色。この芋で作った干し芋は、サツマイモで作った干し芋とは一線を画する美味さ。

 干し芋は、この芋で作った物が至高だと、イチは思っている。

 「5、6日くらいかな。でも、私は干しくさしが一番好きやね!2日くらい干したやつが最高です!」

 本来は水分が飛んで固くなるまで干す物なのだが、イチは表面の水分が無くなったくらいの、柔らかい状態の物が好きだった。

 彼方にいる時は、中途半端に干すと芋に黴が生えるので、家で製作途中の物を干し場から数枚とって食べるくらいしか出来なかったが、此処では違う!

 イベントリがあるおかげで、一番好きな状態の芋を、好きなだけ貯め込んでおける。

 「あれは確かに美味いが、歯に着くのがどうもな」

 「それはそれで良し!」

 「そうか」

 「そう!」

 ―まあ、楽しそうだし、良いか

 「さあ、もう一頑張り。落ち葉を入れて耕して、今度は大根と人参を植えよう。あと、じゃがいも」

 「ああ」

 今日掘った芋は、サツマイモは数日間陰干しをしてイベントリへ仕舞い、白芋は幾つか

土を洗って皮ごと茹でる。

 ひたすら茹でる。そして皮を剥ぎ、輪切りにして簀の子をならべ、その上に太い糸で作って貰ったネットを敷いた干し場に、スライスした芋を並べてゆく。

 「楽しそうだな」

 番人達にまみれながら、芋を並べる後ろ姿を眺めて思わず呟く。

 イチは芋を並べる係。レオは、芋をスライスする係をしていた。

 「好物やきね」

 ふんふんと、聞き慣れないリズムの鼻歌を歌ってご機嫌だ。

 「手伝ったのだ。私の好物も作ってくれ」

 「・・・・まさか」

 「唐揚げ」

 イチも唐揚げは好きなのだが、揚げ物作りが面倒で、この2年でも揚げ物はあまり作ってていない。

 「私は、頑張ったと思うのだが?」

 「・・・・・が、頑張る」

 唐揚げを作る事が、決定してしまった。

 少し肩を落とし、芋並べを再開する。

 「くふ。くふふふふふふ」

 芋を並べている間に、落ち込んでいた気持ちがすぐに向上したようだ。

 「いーも、いも。ほしいーも、いもいも」

 可笑し気な歌まで小声で歌いだす。釣られてクーとマー、番人達が体を小刻みに揺らす。

 ―楽しそうだな

 世界樹の周りは、今日も平和だった。

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