褌を巡る日々の諸々 2
食後。
褌の紐を外し、穴を開けた側を2回折って縫い付けて、紐を通す為の穴を作る。これで、穴が余計に横へ広がる事は無いだろう。たぶん。
ここに通す紐は、バスタオルを縦に細く裂いて、三つ編みにして作ろう。ある程度丈夫でなければ、3日と持たない。
「イチ?」
「んー?」
うわの空に返事を返す。
「今日はまだ、浄化をかけてもらっていないのだが?」
「・・・・マジで!」
「ああ」
「ごめん、直ぐにかけるね」
生乾きの毛皮に乾燥をかけて乾かし、浄化をかけて綺麗にする。
「うむ、すっきりした」
「そうみたいやね」
レオの気持ち良さそうな顔を見て、釣られてイチも自分に浄化をかける。
全身の汚れが取れて、とてもすっきりだ。
バスタオルと鋏を出し、細く裂こうとしてレオにしてもらいたい事があったと思い出した。
「レオ君、ちょっとお願い」
「うん?」
「ひき肉作って」
「ひき肉?」
レオは、ひき肉を知らないようだ。
「これ」
イベントリからひき肉のパックを取り出して、見本として見せる。
「肉の、みじん切り?」
「そんな感じ」
「肉は、塊の方が美味いと思うんだが」
「これはこれで美味しいもんになるで?」
「では、やろう」
「ありがとう」
にっこり笑って脚を折り畳める座卓を、脚を出して設置し、その上にまな板と包丁、肉の塊を乗せる。
レオが持ってきた物で、正体は良く分からないが、味見のために焼いて食べてみたら美味しかったので、大丈夫だと思う。
「じゃ、これお願いね。食べたらいかんで?」
「う、うむ」
大丈夫だとは思うが一応食べないようにと釘を刺し、自分の作業を再会する。
バスタオルを細く3本に切り、ちょっと緩めに三つ編みにする。結び目に箸をぶっこみ穴に突っ込もうとして、はっとなって動きを止める。
「あ、入らん」
作った穴が小さくて、紐が入らない。
「やり直し!」
糸をほどき、縫い直す。
「なぁ、イチ?」
「はいはい」
「何か入れ物をくれ」
まな板には、小さく小さく刻まれた肉の小山が出来ていた。
「あ、ちょっと待って」
イベントリから金属製のボールを2つ取り出す。
「えぇっと、クラッシュアイス?うわっ」
ボールの中に、山盛りのクラッシュアイスが現れた。
イチ、超びっくり。
「イチ?」
「あ、うん」
ボール、追加。
氷の山を少し崩して、ボールに氷を移して少しの水を入れ、その上にボールを重ねる。使わなかった氷の入ったボールはイベントリにしまい込む。いつかそのうち、使う事もあるだろう。
「この中に入れてちょうだい」
「変わった入れ物だな。あちらから持ち込んだ物か?」
「そう。ボールって言う調理器具」
「ふうん」
そうして、レオはかなりの勢いで肉を刻んでゆく。イチも、負けていられない。
気合いを入れて、紐が入るように縫い直す。
「うむ、終わった」
小さく小さく肉を刻み終わり、ボールへ移して一息つく。
「イチ、これをイベ・・・・。おいおい、危なすぎるだろう」
刻んだ肉をしまってもらおうと声を掛けて、ギョッとした。
針を片手に、イチが舟をこいでいる。
慌てて針を取り上げて針山に刺し、作りかけの褌と一緒にレオのイベントリに入れる。肉入りボールも座卓ごと片付けた。
「おい、イチ。寝るならテントで寝ろ。イチ?」
「んー?」
肩に手を置き軽く揺すりながら声をかけるが、唸るだけで全く起きようとしない。
「まったく、仕方のない」
ひょいっと抱き上げ、テントに入れてあげようとする。
「おまえ、身長の割に骨格が太いな」
微妙にイチに対して失礼な感想をもらす。が、イチはほぼ眠っていて彼の呟きを聞いてはいない。
「ぬ?」
そして、この時レオに問題が起きた。
「入れん」
イチの1人用のテントは、レオが入るには小さかった。あっさり諦め、イチを抱えたまま寝床にゴロリと横になる。
「む。以外に良いな」
「うぅ、なんか痛い」
その日の目覚めは、最悪だった。体のあちこちが痛くて、何故か動けない。
「何これ」
目を開けると、目の前には真っ黒いもふもふの毛皮。目線を上げると見覚えのある獣顔。
そろりと首を動かして周りを見回す。
外だ。というか、此処はレオの寝床だ。
―なんで?
縫い物の途中で寝落ちしたという事は分かるのだが、何故レオに抱き込まれて寝ているのかが分からない。
イチば抱き枕ではないし、地面に直接寝るのは、体が痛いので遠慮したい。
「ちょ、ねえ、レオ君?動けん。起きて。起きんでもえいき、腕緩めて。レオ君、腕。うでぇ」
声をかけ、うごうごと体をよじってみたが、レオは起きない。
「ちょ、流石にこれは恥ずかしすぎるって。私に、これはレベル高すぎるぅ」
レオに起きる気配は無く、諦めたイチはふて腐れて二度寝した。
「なぁ、イチ。そんな物を敷くのか?私はそのままが良いのだが」
レオが目を覚ましてやっと自由になったイチは、彼が預かっていてくれた物を受け取ると、無言で行動を開始した。
問答無用で、レオの寝床を改良する。
簀の子を敷き詰め、その上にレオが狩ってきた獣の毛皮と、毛布を重ねて置く。これで、地面に直接寝るより寝心地は良くなったはずだ。
「レオ君は地面の方が好きかもしれんけど、私には厳しいがって。悪いけんど、我慢して」
「イチの寝床はテントだろう」
その通りなのだか、だめだ。
「昨日みたいに私が寝落ちしたら、レオ君私をテントに入れられる?」
「無理だ」
「でしょ?この寝床やったら、私も大丈夫!」
「そ、そうか」
自分の寝床で寝るか、寝落ちしても起こした時にきちんと起きれば、イチがレオの寝床で眠る必要はないのだが、何故だか反論する事が出来なかった。
抱き枕にされ続けた恥ずかしさの余り、イチの中の何かが、妙な方向に振り切れていた。
「屋根も付ける?私、頑張るで?」
「それはいらん。なぁ、そろそろ飯にしないか?」
「簡単なもんで良い?」
「ああ」
ベーコンを敷いた目玉の2つある目玉焼きをちゃちゃっと焼いて、味噌汁と白米で朝ご飯。
食後に腰周りを隠すカーディガンを渡し、狩りに行くレオを見送り、イチは畑に水をまいてせっせと褌作りに勤しむ。
飽きたら米を炊き、褌を縫い、また飽きたらひき肉でハンバーグの種を作り、3分の2をそのままハンバーグにして、残りはロールキャベツの具にしてみた。
褌作りと料理を繰り返し、やがてその両方に飽きてしまった。
自由に使える時間が多くて飽きるとか、なんて贅沢な悩みなのだろうか。
「何しよう」
試作品2号3号4号は、3本共改良出来た。
草の上に寝転がり、左右にゴロゴロころがりながら何か忘れていることはないかと考える。
「あ、魔法」
この迷宮に来てから、生活魔法以外まともに使っていない。
自分のレベルはともかく、魔法のレベルは上げる事が出来るのだから、頑張ってレベルを上げなければ勿体ない。
だがしかし、何からレベルを上げようか。
一番身の安全を守れそうな、結界魔法にしよう。回復魔法も練習したいが、その為に怪我はしたくない。結界魔法の次は支援・付与魔法にしよう。
しかし、何故支援と付与は一つの魔法のようになっているのだろう。
良い効果や悪い効果を、相手に付けて与える。そう考えれば支援魔法も付与魔法の内と言う事なのだろうか。
良く分からない。
「後でレオ君に聞いてみよ」
さて、では結界魔法の練習だ。
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