家と他所の迷宮 13
「きしょーっ!?」
「走れ、足を緩めるな」
「ひぇーっ」
灼熱大地を歩いて12階層目。
乾いて固くなった大地が、脆くも崩れて砂になりかけ足元が少しずつ悪くなる階層。
3人は、とある集団に追われていた。
イチは気味の悪さに悲鳴を上げ、レオはレイベルトを急かす。レイベルトは、固かったり柔らかかったりする中途半端な砂地に苦戦しながら、必死に走る。
「イチ、あれは何だ」
「えっと、」
気色悪さを我慢して、じっと見つめる。
鑑定眼は便利なのだが、じっと見つめないと何も分からないので少し不便だ。
百足蠍
群れで行動する肉食の虫
百足の尾には麻痺毒を持つ
「百足蠍やって!」
「そのままだな」
体が蠍、尻尾が百足の上半身。体長は5mから10mと様々な、良く分からない虫だが数十匹の群れに集られると、かなり気色悪い。
「ど、どうするっすか?トレイン行為は、犯罪っす!」
トレイン行為とは、魔物の群れを引き連れて他人に擦り付ける事。冒険者の間で最も嫌われる行為であり、立派な犯罪行為だ。
「私達は兎も角、お前には大問題だな」
「犯罪者は嫌っすぅ!」
「なんか、どんどん増えよるよ!?」
レオに背負われているイチは、後ろのうじゃうじゃとした集団が大きくなっている事に慌て、ぺちぺちとレオの肩を叩く。
「どうするっす!?」
「さすがに、あの中に入るのは嫌だな」
「俺に、あれは無理っす!」
「イチ、やってくれ」
「はーい」
軽く請け負い、肩に乗ったクーとマーを順番に見つめる。
「追いつきそうなのは、足止めをお願いね?」
保険をかけ、世界地図を広げて百足蠍のいる範囲を把握。蟻の巣に挑戦していた時から、虫にはコレが一番効く。
「駆除!」
「それ、生活魔法っすよ!?」
駆除は寄生虫等の小さな虫を殺すための生活魔法なのだが、イチの膨大な魔力で思い切りやれば魔物の虫もコロリ。
「生活魔法っすよね!?」
「生活魔法ですよ?」
「いや、これ、生活魔法の範疇越えてますから!」
「生活魔法って、便利ですよね」
「そうだな」
「なんか、違う!」
のほほんとしたイチとレオ。その反対に、頭を抱えるレイベルト。
「ねぇ、これ拾う?いっぱいあり過ぎて、面倒やない?」
「散らばっているな」
追い掛けて来ていた百足蠍の数だけ、ドロップ品がある。蠍や百足の外骨格、鋏、大顎、魔石。
「拾わないとか、ないっすからね!?」
「え?あ、うん」
幾つか拾ったらもう良いんじゃない?
と、イチは言いたかったのだが、真面目な顔をして迫ってくるレイベルトについつい同意してしまう。
「頑張って、拾うっす!」
「・・・・そうね」
―面倒くさいっすぅ
とは、口に出して言えない。
張り切るレイベルトの後に続き、ドロップ品を拾い集める。
「イチさん。これ、お願いします」
「イチ、これも頼む」
「はいはい」
レイベルトは拾えるだけ拾おうとするのだが、イベントリのスペースには限りがある。
入りきらない物は、余裕のあるイチのイベントリへ入れられるのだった。
―私のイベントリが虫だらけにぃ
「む、虫の気配」
「逃げるっす!」
「うむ」
「うっ」
虫の気配を敏感に感じ取ったレオは、レイベルトの提案に頷き、イチをひょいっと持ち上げ走り出す。
「ほら、走れレイベルト」
「はいぃ」
「虫、多いね」
11階層目からの岩石砂漠地帯。隠れ場所が多く、水が地下を通っているのか緑もまだあるからなのか、何故か出会う魔物は動物系よりも虫系が多い。
「そうだな」
今まで3人がドロップ品を拾っていた場所には、長い触角がチャームポイントの巨大な便所コオロギが数匹集って、拾い残ったドロップ品を食べている。
迷宮の、スライムに並ぶ掃除屋グラトニーホッパー。
小型犬程の大きさの虫がわらわらと集まる様は、何とも言えず気持ち悪い。
グラトニーホッパーを狙って狙って1m程の蜥蜴の魔物がやってきて、更にそれを別の魔物が狙う。
「・・・・・」
図らずも見てしまった食物連鎖に、思わず目をそらす。
「どうした?」
「いや、お昼は何にしようかなって」
「肉」
「レオ君らしいね」
予想通りの答えに苦笑し、レオに急かされて必死の形相で走るレイベルトに目をやる。
「レイベルト君は、お昼は何が良いですか?」
「た、食べ易い・・・・さっぱりしたもの!」
「なるほど」
―暑そうやし、結構走りよるもんね
「分かった。じゃ、お昼は冷たいうどんにしよう」
「肉は?」
「別の皿で出すよ」
「うむ」
「と、とりえず、安全地帯へっ」
百足蠍から逃げた後にろくに休憩が出来ず、レイベルトは少々辛そうに喘ぎながら安全地帯へ行く事を提案する。
「あ、うん。そうやね。北西の方向へ行って。小さめのオアシスに安全地帯がある」
「魔物は?」
「さっきの所へ集まりゆう」
さっきの所とは、百足蠍を駆除した場所の事である。
グラトニーホッパーに釣られて、捕食者達が続々と集まっている。
「そうか。レイベルト、足を緩めろ。安全地帯まで保たんぞ」
「へいぃっ」
「えっと、回復魔法かけましょうか?」
「遠慮しておくっすう」
回復魔法は便利なのだが躰の鍛練という側面で考えると、逆効果なのだ。
怪我ならまだ兎も角、筋肉痛を治せば鍛えた筋肉が鍛える前の状態に戻り、疲労を癒せば増えるはずだった体力がゼロになる。
増えるはずの体力を惜しみ、ひぃひぃと喘ぎながら頑張るレイベルトだった。
「分かりました。けど、また何かが追い掛けて来たら、回復魔法をかけますからね?」
「・・・・・うぃっす」
「と、到着っすう」
「回復魔法かけます?」
魔物を避けながら、出会ってしまった魔物はイチが魔法で拘束してレイベルトが槍でチクチク刺して倒し、辿り着いたオアシスの安全地帯。
息を切らしたレイベルトを心配して提案したのだが、やはり断られた。
その代わりのように水を求められ、レオの背中から下りて丼茶碗で飲ませる。
「ちょ、レオ君?」
せっせとレイベルトの世話をするイチだったが、レオが先に安全地帯で休んでいた冒険者のパーティーと無言で睨み合っている事に気付いて背筋を正す。
冒険者に話し掛けるのはやはりまだ怖いが、レオに任せていると抉れる可能性大であるし、頼りのレイベルトはぜーぜーと苦しげに息をしていてそれどころではない。
―ここは、私が気張らんといかん!
「レオ君、いきなり喧嘩腰はいかんって。あの、私達何かやっちゃいけない事でもしましたか?」
レオの腕を引いて彼の注意を自分に向け、冒険者達に恐る恐る声をかける。
「ヤっちゃいけない事っていうか、なあ?」
「「ああ」」
顔を見合わせ、何とも言えない顔をして頷き合う冒険者達。
揃いも揃って体格の良い厳つい男達は、イチとレイベルトを指し示す。
「幾ら黒獅子が付いていても、此処は低ランクの冒険者と素人を連れて来る所じゃないぞ」
「ああ。悪い事は言わねぇから、引き返せよ」
「ですねぇ」
―良い人らぁやった!
「・・・・・・・」
真面目に心配と忠告をされ、予想外だったのかレオの目が何となく柔らかくなる。
「げふっ。あ、あの、だ、大丈夫っす。オルニエさん達」
「大丈夫そうには、全く見えねぇぞ」
「ああ。疲れきってへろへろじゃないか」
「しなびてるぞ?」
「大丈夫っすう」
眉をしかめ、責めるようにレオを見ているオルニエ達に騒動の気配を感じ、彼等の間に立つ。
―数少ない俺の活躍の場っす。頑張るっすよ!
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