精霊樹の番人達 3
せっかく出来た物なので、魔の森で過保護の腕輪と保護者の腕輪の性能チェックをしてみた。
レオに最初は軽く、段階を踏んで動きの強度を上げて動いてもらったが、イチの三半規管がついていけなくなった以外の身体的被害はなかった。
わざと作った小さな切り傷も、あっという間に塞がった。ただ、何でもかんでも傷を癒やすと体に悪い気がして、小さな傷は癒やさないように調整したら、調節できた。壊れなくて、本当に良かった。
闘争の魔素結晶だけは、相当の事が無い限り使わない。と言うことで、試しに使う事も無く存在を忘れる事になった。
「うわ。レオ君、斑模様の角兎がおるよ」
「ああ、そうだな。アレがいるなら、いまは12の月だな」
白と茶色の斑模様をした角兎から、レオは今が何月かを予想する。
「え、1の月か2の月って、言いやあせんかった?」
「寒い時季は聖域から出なかったからな。まあ、ただの当てずっぽうだ」
「・・・なる程」
あの時のあの発言は、適当だったようだ。
レオがまさかそんな適当な事を言うとは思っていなかったイチは、少々呆れ顔で頷いた。
「角兎は、雪が降ると冬毛に変わるんだが、魔の森に雪が降り始めるのは12の月なんだよな」
木の葉や草の上に薄らと雪はあるが、地面に積もった雪は無い。
12の月になって雪が降り始めるので、茶色い夏毛から、白い冬毛に生え換わるりはじめこの時期にだけ斑模様の角兎がいる。
「あれが白くなったら、狩ってみるか」
「毛皮?」
「ああ」
「でも、何に使うが?」
イチもレオも、毛皮は寝床にしか使っていない。そして毛皮の質は兎の物より、レオが狩ってきた正体不明の毛皮の方が断然良い。
「使い道が無いか」
「うん。私には思いつかん」
兎狩りは、行われない事になった。ただ、レオが兎肉を食べたくなったその時には、情け容赦なく狩りが行われるだろう。
「そろそろ行くか?」
「行こう」
2人は、魔の森の外へ外へと進む。極稀にではあるが、遠くに人影を見る事もあった。
冒険者と呼ばれる者達らしいのだが、レオは魔王の部下になる前の若い頃に、人族の冒険者に命を付け狙われ、トラウマ的に嫌いになり、今も彼等に対して良い印象を持っておらず、イチも荒事を生業とする者達とお近づきになる事は怖いので、接触をするつもりは無い。
まあ、レオが人族の冒険者に命を付け狙われたのは800年以上前の事なので、今の冒険者がレオの命を付け狙うかどうかは、不明だ。何しろ、その当時の冒険者というのは人族ばかりであり、人族と魔族の交流が活発になった今では、何の理由も無く命を狙うなどただの犯罪だ。
それはレオも分かってはいる。
時代は変わった。
だが、無理なものは無理なのだ。自分から接触するつもりも、イチに近づけるつもりもない。
魔の森の外縁の様子をさっとイチに見せ、後は森の奥へ引き返すのだった。
「ああ、春やねぇ」
3ヶ月が経った。
あれから魔の森は雪が深くなり、2人はイチの安全のために聖域へ引っ込んでいたので、森の攻略はまったく進んでいない。
「よう咲いちゅうわ」
満開に咲き誇る世界樹を見上げる。
白い小さな花が、藤のような房になって垂れ下がる。
垂れ下がる姿は藤のようだが、花の形は柚子に似ていた。
白く可憐な花弁。淡い黄色の雄しべと雌しべ。其処に集まる鮮やかな紅色の蜂。雀蜂くらいの大きさで、風弾小蜂という魔物らしい。
蜜蜂のような蜂で大人しいが、巣を攻撃されると風をまとい、集団で撃退しようと襲ってくる、手出し厳禁な危険な魔物だ。
まあ、世界樹や精霊樹の周りに居る虫は、番人達の指揮下に入っている者達ばかりなので、世界樹の住人である2人は安全だ。番人経由で、ハチミツも貰える。
「でも、ここは年がら年中春やけどねぇ」
世界樹の花だけは外の気候に合わせるように春に咲く。
イチは魔の森へ出て、四季の存在を思い出してから、世界樹の花が春に咲いているのだと気付いた。
―ハチミツ、まだあったっけ?
「ホットケーキでも焼こうかな。バターは、そろそろ複製せんと無かったかな」
ホットケーキが食べたい。今はそんな気分。
バターとハチミツ。ホットケーキはシンプルな物が良い。
本当はホットケーキにはメープルシロップの方が好きなのだが、無いのでハチミツで満足する。風弾小蜂のハチミツは、あっさりしていて美味しい。
「レオ君はおらんし、たまにはいっか」
今日のお昼ご飯は、ホットケーキに決定。
うきうきとホットケーキを焼く用意をする。
「クーちゃん、マーちゃん。フライパンに落ちんように気を付けてや」
―八百万の神様、行ってきます
「行くぞ」
「はいはい」
鳥居に向かって挨拶をして、急かすレオに駆け寄って、ひょいと持ち上げられる。
イチを持ち上げた状態で、いつも通りレオは世界樹を登り、女王の住み家から魔の森の転移陣へ。
温かくなり、雪が溶けたので魔の森攻略がようやく再開される。
「春やねぇ」
春らしく、ピンク色のポンチョを着てフードを被る。
温度を快適に保つ機能のお陰で、暖かくなってもポンチョが着られる。夏になっても、快適に着る事が出来るだろう。
フードは視界が遮られるのであまり好きではないが、魔の森には雪の間いなくなっていた冒険者が森に戻って来ているそうなので、仕方なく被っている。
なんでも魔族なら兎も角、人族は黒髪を嫌う傾向があるそうで、念のためフードを被って隠していた。
レオの情報は古いので何ともいえないが、念の為だ。
「今日は、森の端に向かって行こう」
「了解。冒険者は?」
「避けて通る」
「はーい」
身を守る為の結界だけを張り、レオの後を追いかける。
「ちょっ、待って!」
「どうした?」
「山菜がある!」
「・・・・おう?」
レオからすれば草にしか見えない物を、イチば夢中で摘み始める。
「レオ君もほら、ザル!」
「お、おう」
ザルを押し付けられ、イチと並んで山菜を摘む。
「あ、レオ君。それ毒草」
「ぬぅ」
「試しに食べてみる?」
2人とも、常態異常無効があるので、毒は効かない。毒草も、普通に食べる事が出来る。
「態々毒をたべるのか?」
「・・・・なんか、苦そうやね。やめちょこ」
「ああ」
レオが摘んだ毒草は、そのままその場に放置された。
「レオ君、それも毒草で?」
「うっ」
「ていうかさ、レオ君。そのザル、全部毒草」
「なん、だと」
レオには山菜採りの才能は無かったが、毒草採りの才能はあるようだった。
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