幕間 掃除と落とし物?


 「おい、何か落ちたぞ」

 イチが布団を干していると、挽肉を作ってくれているレオから声がかかった。

 布団の干し場は、上手く作れずに、わたわたしているイチを見かねたレオが枝と蔦で作ってくれた一品であり、イチの背に合わせた高さなので使い易い。

 「へ?」

 「干してから探せ」

 布団を持ち上げ干しかけた格好のままでキョロキョロとしていると、レオから突っ込みが入れられた。

 「あ、そうやね」

 きちんと布団を干して、改めて足元を見回す。

 「何が落ちたがやろう」

 「私も横目で見た程度だからな」

 レオも挽肉を作る手を止め、イチを手伝って落とし物探しを始める。

 物が何か分からないので、ちょっと大変。

 「ん?これか?」

 と、レオが草の間から拾い上げたのは、2㎝程の長さの柱状水晶のような淡い緑色の結晶。

 「何コレ?」

 「・・・・・まさか、魔素結晶?」

 レオには見覚えがあるようで、信じられないとばかりに目を見開いて呆然と見つめている。

 「知っちゅうもん?」

 「魔素が、結晶化したものだ。私も此処以外であまり見た事が無い」

 ―あ、此処にはあるのね

 珍しい物だとだけ、取り合えず理解した。

 「レオ君、これ持っちょく?」

 「良いのか?」

 「私より、レオ君の方が必要やろ」

 レオの右胸には、勇者との争いで受けた深い古傷がある。その当時、肺に空いた傷は何とか自力で塞げたのだが、空気中の魔素を取り込む器官を破壊されてしまい、現在のレオは食べ物からしか魔素を取り込めなくなっていた。

 生き物は、生命活動の全てに魔素から変換した魔力を使っている。呼吸で魔素を取り込めないレオは、生物的にとても不利になっているのだ。

 魔物との戦闘中に、現在進行形で戦闘している魔物の肉を食い千切って、魔素を補給しているような有様である。

 野性的すぎる。

 なので、魔素の補給が出来そうな物はレオに持っていてもらいたい。

 目の前で、魔物の躍り食いは流石に刺激が強すぎるので、出来るだけ小細工をして、そう言った事態を回避したいのだ。

 「やき、持っちょいてや。私が持っちょっても、今のとこ使い道ないし」

 「そうか、助かる」

 「あ、コレ使う?」

 結晶をそのままイベントリへ入れようとしたレオに、オレンジ色の巾着を差し出す。

 この巾着は、女王が作った褌の試作品を染めて作ったリメイク品である。 

 「袋?」

 「そう。中に入れて、両方にある紐引っ張ってみて」

 「ほう。これは、面白いな」

 紐を引っ張って口を締め、口に指を突っ込んで開けてみる。

 楽しそうであるし、気に入ってくれたようだ。

 「まだあるで~」

 緑色の大きな巾着を出し、口を開けて中身を見せる。中にあるのは色とりどり、大小様々たくさんの巾着袋。

 「じゃ、3つくれ」

 「はいは~い」

 赤黄緑、信号機の色をした巾着袋を手渡す。レオにはネタが分からない事が残念だ。



 「うん?」

 それから、1週間もたっていないある日。

 この日も、イチは自分の寝床の掃除をしていた。レオの寝床の毛皮と毛布と一緒に布団を干して、布団の下に引いた簀の子を引っ剥がして首を傾げた。

 簀の子の下に、以前にも見た結晶が転がっていた。

 「魔素結晶やったっけ?なんでこんな所にあるがやろう?・・・ふぉっ!?」

 唐突に、吹き出しが出た。否、魔素結晶に対して鑑定眼を使うことを忘れていただけだ。

 

魔素結晶(製作者 イチ)

 余剰魔素が集まって出来る。ごく稀に、魔素吸収率の高い生き物からこぼれ落ちる事もある。

 魔素の補給、付与魔法の触媒に最適

 魔素が尽きるまで繰り返し使えます


 製作者、の所に注目だ。

 「私!?え?」

 どうやら、知らない間に妙な物を作ってしまったらしい。

 何故、いつ、どうやって作ったのか、さっぱり分からないが、原因として考えられるのは、魔の神様の加護だ。

 加護のなかにある、魔力回復率向上と魔力消費減、そしておそらく魔素耐性。

 魔力とは、生物の体内で魔素を使い易いように変換したもの。魔力は魔素を吸収して変換するものであり、大抵の生き物は魔素を体内で作れないので、外から吸収するしかない。

 魔力回復率向上とは、魔素の吸収率が良いという事。さらに魔力の消費が少ないので、イチの体内では魔素が余り気味になり、魔素耐性があるので過剰にためる事が出来、過剰な魔素が結晶化するのだ。たぶん。

 「付与魔法に使えるがやね~。知らんかったわ」

 色々と自分に突っ込みたいが、虚しいので辞めた。

 「レオ君用が貯まったら、色々試さんとね!」

 ただ失敗したら勿体ないので、魔石や魔物素材等、魔素や魔力が宿った物で十分に練習し、スキルレベルが上がってからの話しだ。

 「今度レオ君の褌に何か付与してみよ」

 レオは良く汚れるので、汚れよけが出来ないかやってみよう。

 イチはニヤニヤと妖しく笑いながら、自分の寝床とレオの寝床を掃除するのだった。

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