褌を巡る日々の諸々 5

 「「おお・・・・・」」

 女王は、張り切って褌を作ってくれた。

 糸の太さ、布の厚さに違いをつけ、作りに作った試作品がイチとレオの前に並べられる。

 なかなか、壮観だ。クーもイチの頭の上でソワソワとしている。

 「レオ君、試しに全部着けてみてや」

 「全部!?」

 イチの言葉に、目を剥くレオ。

 「お、多いぞ!」

 「せっかく女王が作ってくれたがで?全部試して一番良いのを選ばんといかんやろ」

 「いや、だがなぁ」

 「じゃ、まずは薄手の褌から履いてみて」

 「私の話しを聞いてくれないか?」

 「却下の方向でお願いします!」

 「それは、いったいどんな方向だ」

 手渡される褌を、項垂れながらも受け取り、さっそく腰のカーディガンを取ろうとするレオに、イチはすっと視線を外す。

 レオは気が付くと脱いでいるのですっかり見慣れたが、自称乙女なイチとしては出来るだけガン見は避けたい。

 「卑猥やね」

 1本目は、透けた。

 「次、行ってみよう」

 「ぬう」

 試着するべき褌は、まだまだたくさんあるのだから。



 女王お手製褌は、全部で合わせて31本。14本目で前に垂らした布をめくっても透けない褌に巡り会ったのだが、イチとしては全て試着して欲しかったので、そっと褌を手渡す。

 本当は、嫌なレオだったが、イチと女王に期待の眼差しでじっと見つめられ、結局は全ての褌を試着するのだった。

 「・・・・・・・」

 全ての褌を試着し終わった後、レオはやけに疲れた顔をして溜息を吐く。

 「レオ君、お尻の尻尾の穴はこれで良いがでね?」

 「ああ。もう、それで良い」

 「よっしゃ。女王、これの量産をお願い」

 14番目に試着した褌をイチから受け取った女王は、ご機嫌で世界樹の上の方に駆け上がる。 

 「じゃあ、レオ君。今度はこれを履こうか」

 15番目に履いた褌を押し付ける。

 最後の褌を試着してから、レオはまたしても脱いでいた。

 異性の同居人がいるのだから、もう少し隠してほしいのだが、レオは裸族になってからが長い。

 異性に対する気遣いは、忘れて久しいのだろう。

 ―うん、私がしつこく言うて思い出させてあげよう。先は長そうやけどね!

 ぐっと拳を握って気合いを入れ、残った褌をイベントリへ片付ける。

 これらは、1度浄化をかけてから何かに再利用する予定だ。

 「あ、そうや、レオ君」

 「ん?」 

 尻尾穴の位置をチマチマと調整しながら、居心地悪そうにレオの尻尾が揺れている。

 「今度森に連れて行ってもらえん?」

 「何っ!?」

 ものすごく、驚いた目で見られた。

 「お前が?」

 「私が」

 「自殺願望がある訳ではないよな?」

 「そんなもんある訳ないやろ!まったくぅ、私が弱っちいからってひどいで!レオ君の今日のご飯、肉抜きにしてやる!」

 「それは辞めてくれ!」

 あり得ない程真剣な目で迫られて、イチは慌てて肉抜き発言を撤回するはめになった。

 「で?」

 「うん?」

 「何故、急に森に出ようと思ったんだ?」

 レオの問いかけに、ポリポリと頬をかく。

 イチは世界樹の聖域に来て以来、ずっと女王の領域から出ようとしなかったので、レオからすれば、急に思い立ったように見えたのだろう。

 「結界魔法と支援魔法が身に付いたら森にも行こうって、思いよったがやけどね」

 イチがそれらの魔法を使う機会はあまりなく、1人で練習しても上達しない。これではいつまでたっても、森には行けない。

 「だから、レオ君には面倒掛けるけど、実地で練度を上げようと思ってね。後、草木染めがしたいから素材を集めたい」

 本当は、レオの褌に使う素材を探しに行きたかった。だが、もうその必要は無い。

 ならば、レオの褌を染めたいと思ったのだ。白一色というのも良いが、それだけでは面白くないから。 

 「レベルは、上がらんのだよな」

 「上がらんね」

 「守り石の守りは完璧なものではないからなぁ。結界はどうだ」

 「結界の範囲から、動かんかったら大丈夫」

 「私が背負って移動する事は出来るか?」

 「やったことがないので分かりません」

 「では、今すぐやってみてくれ。出来なければ、連れては行けん」

 「今すぐ!?」

 突然の求めに、びくっと肩を竦める。釣られてクーまでイチの頭の上でワタワタしている。

 「今すぐだ」

 思い立ったが吉日とばかりに、レオはイチに背を向けてしゃがむ。

 レオの逞しい背中が目の前に。なかなか眼福なのだが、何とも形容しがたい躊躇ためらいがイチの心に湧き上がる。

 「何をしている。森に入らんでも良いのか?」

 「それは困るって」

 急かされ、飛び込むように背中に乗る。

 「あっ」

 「ぬあっ」

 勢いが良すぎ、さらにイチは目測を誤った。

 イチの膝が、レオの横腹にクリーンヒット。

 慌てるイチと、思わぬ攻撃に、痛くはないが驚いて呻いてしまうレオ。

 守り石の効果で、イチには何のダメージも痛みも無いので彼女にはレオにぶつかった加減が分からず、慌てる。

 「レオ君、ごめんー!」

 「大丈夫だ。油断していた私が悪い」

 痛くはない。レオは、ただ驚いただけである。が、それをそのまま伝えるのはバツが悪かった。

 「さあ、乗れ。だが、勢いはあまりつけるなよ」

 なので、照れ隠しに皮肉のような事を言ってしまった。

 「はいよー」

 ―ぬあー!おんぶとか、何年ぶりよ!子供か!?恥ずかしすぎるやろ!しかも、魅惑の肉体美に直接触るって、何事ー!

 レオの内心が分からないイチは内心で悶えつつ、大人しく彼の背中に乗る。

 「首にちゃんと腕を回せ」

 恐る恐る肩に手を置いていたら、注意をされた。 

 「高っ」

 イチがレオの首に手を回すと尻の下で腕が組まれ、ぐわっと視界か高くなくなった。

 「うっわ、たっか!」

 レオと同じ視線の高さはいつものイチの視界とは違いすぎて、いっそ感動的だった。

 「さあ、結界を張ってみてくれ。そうだな、」 

 考えながら、イチの張る結界に注文を付けてゆく。

 曰く、レオの戦闘に影響が無いように、結界の範囲はイチの回り10㎝以下。入れるのはイチとレオ、クーのみ。分かり易いように今だけうっすら色を付ける。

 「が、頑張る」

 一つ、大きく息を吐く。

 集中。  

 「結界!」

 乳白色の結界が、目の前に現れた。

 失敗だ。色が濃すぎて回りが見えず、範囲も広すぎる。

 「もう一回、良い?」

 「出来るまでやれ」

 イチは、数える事が嫌になるくらい失敗して、やっとレオも納得する結界を張れるようになった。

 ちなみにだが、9日かかった。

 出来の悪さに、何だか泣きたくなるイチだった。

 そしてその後の検証で、レオに背負われたままであれば、今の結界魔法のレベルでも結界の維持が出来る事が分かり、新たな問題が発覚した。

 レオの動きに、イチの体がついていけない。

 激しい上下運動と加速。攻撃時の衝撃で、イチが酔う。もしくは、気絶する。

 「身体強化のスキルは?」

 「戦闘系のスキルは持ってない。支援魔法でどうにかならんやろか?」

 で、どうにかなった。

 ビバ魔法。

 結界と身体強化を重ねてかけて、イチはやっと森への同行をレオに認めてもらえたのだった。

 

 ―うわー!でも、おんぶって、おんぶって何よ!密着度が高すぎて、恥ずかしさMaxなんですけどー!

 イチの、内心の悶えが止まらない。

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