褌を巡る日々の諸々 4
試作品2号改は、汗や水を吸った時の重さが嫌がられた。
速乾性の化学繊維のTシャツで作った試作品3号改は、ペタリと肌に張り付く感触を嫌がられた。
綿Tシャツで作った試作品4号改は、肌触りはともかく乾き難い事が嫌がられた。
イチが持っていた褌に使えそうな素材は、尽きた。
―これはもう、森に入るしかない
水をまき終わった畑を眺め、未だ入った事の無い、女王の領域の外へ視線を移す。
虫の糸(番人以外の蜘蛛素材は断固拒否する)や植物の繊維。イチの知らない褌素材がきっとあるはずだ。だが、
「1人やと、森に入れんがよね・・・」
結界魔法は、レベルが低い為に移動しながらでは、結界を張る事が出来ない。他の魔法も、やはりレベルが低く微妙に使えない。
イチは、クーがいても1人では女王の領域から出る技量がないのだ。
だがレオは、朝ご飯を食べてすぐに領域外の森へ出かけていて今はいない。
「・・・・明日、連れて行ってってお願いしようかな」
おかずで気を引いて、お願いしようか。いや、レオは頼めば何のかんのと言いながら、連れて行ってくれる気がする。
「うん。頼もう」
さて、では今日は何をしよう。
野菜は、まだ収穫出来ない。畑をこれ以上広げるつもりは無い。
読書。
とても心引かれるが、レオが森で活動しているのに、ゆっくり読書というのはちょっと気が引ける。読書はやめよう。
料理か?いや、魔法だ。魔法の練習をしよう。魔法を練習して、レベルを上げる事はもちろん、習熟度も上げなければ。
イチは、森へ入っても足手まといにしかなれないのだから。
うん、よし、
「支援魔法やね」
支援魔法は自分にもそれ以外にも使えて、応用がしやすくてとても便利。ただ、本は少しづつ読み進めているが、イチには使えない攻撃魔法についての本であるためか、魔法はイメージが大切ということ以外、ろくに理解出来ていない。
本はこれからも読み進めるが、イチの想像力が魔法を使う鍵だ。
頑張ろうと、ぐっと拳を握る。
―さあ、穴を掘ろう
落とし穴は、支援魔法ではなく罠魔法である。
「ん?」
とんとん、と肩を叩かれて振り返る。
巨大な女王が、そこにいた。一生懸命平静を装うイチだったが、内心とても驚いていた。
心臓、バクバクだ。
振り返ったら超巨大蜘蛛というのは、心臓に悪い。
「どうしたの?」
ずいっと、イチの目の前に差し出される女王の太く立派な脚。そこにあるのは、ひらりと手触りの良さそうな布。
見覚えのあるその布の形は、
「褌!」
そう、褌。
だが、女王が持っているような、光沢のある手触りの良さそうな布で褌を作った覚えはない。
「まさか、女王のお手製!?」
肯定するように、女王の全身が上下に大きく揺れる。
イチが作った褌を手本にして、女王が己の糸で作った褌だ。
イチはこの素晴らしい褌に己の負けを素直に認め、レオが戻って来たら早速履かせようと心に決めた。
この素晴らしい褌ならば、レオも喜んで履いてくれるに違いない。
「な、なんてこと・・・・」
その日の夕方、女王お手製の褌を早速レオに履かせたイチは、予想外の結果に崩れ落ちた。
「卑猥すぎる」
敗因は、女王お手製褌が素晴らしすぎたから。
手触りの良い、薄くて丈夫な生地は、薄すぎた。
レオのレオが、隠れているようで隠れておらず、丸出しの時よりも目のやり場に困る。
ただ、
「おお、この肌触りは良いな」
レオは今までにない高評価。
「では、これを1日着けてもおけば良いのだな?」
「ま、待って・・・・・」
ノリノリなレオを、イチは股間を見ないようにしながら、いつになくそっと止める。
「なんだ?」
「それは、いかん。それは辞めよう」
「何故だ。褌を着けろと言ったのはお前ではないか。この肌触りなら、私に不満はない」
レオは、女王お手製褌の感触がとても気に入ったようだ。気に入ってくれた事はとても嬉しい。だが、それを着けたままでいられるとイチがとても困るのだ。
「今の、レオ君の見た目が問題なが!」
「み、見た目?」
「そう!」
戸惑うレオに対して、イチはすっくと立ち上がり力強く肯定する。
「卑猥!」
「どこがだ?」
「ちょっとその布めくってみて」
「・・・・・・」
言われた通り前に垂らした布をめくり、レオは動きを止めた。
前布があっても透けていたモノが、さらに透けて見えていたのだ。
「これは、いかんな」
「いかんでしょ」
レオはそっとめくった布を前に垂らし、イチはいつものカーディガンを差し出す。
レオのお尻は、まだしばらく丸出しのままのようだ。
「大丈夫!女王の作ってくれた褌は、ダメやった訳じゃない」
翌朝、イチは一生懸命女王のご機嫌をとっていた。
女王が作った褌が使われなくて、彼女がいつになく落ち込んでしまったのだ。イチはただただ、何故使わなかったのかを丁寧に説明する。
世界樹の根に腰掛け、女王の6つある目をじっと見つめる。
「レオ君は、女王のお手製褌が一番良かったって言いよったよ。それに、私も女王の褌が一番触って気持ち良かった」
でも、使ってくれないんでしょ?
女王の目は、そう言っているようだった。
「・・・私、考えたがよ」
―なにを?
「女王の褌、布を厚く出来ん?」
―?
「薄いから、透けて見えて、それで使えんかった。それなら布を厚くして、透けて見えんようになったら」
―使ってくれる?
「レオ君は、喜んで使うてくれるよ」
―イチは?
「わ、私は褌を履く勇気はまだないき、上着を作ってくれたら嬉しいよ」
女王の期待のこもった眼差しに、逆らう事が出来ず、褌以外の希望を言った。
―任せておいて
「う、うん。・・・・ああ、行ってしもうた」
女王はカサカサと、ご機嫌に世界樹を登って行く。
その後ろ姿を見送り、頬をかく。
「褌は、女王に任せた方が良さそうやね」
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