ホッパーホッパー 14
「うむ、これで駆除は完了したな」
狩りのお預けを喰らわされ続け、積もり積もった鬱憤を拳に込めて叩き込んだ。
「一発殴って終わりか。拍子抜けも良い所だな」
鬱憤を消化仕切れなかったと不満を漏らすレオは、少し離れた所にいる一団をあえて無視して残った魔石を足でつつく。
ハンドボール程の大きさをした、どす黒いヘドロのような色をしている。
「これは、流石に持って帰る気にはならんな」
持って帰ったらイチに嫌がられそうだ。
「持って帰るか?」
なので、こちらを目をまん丸にして見ている者達に声を掛ける。
「あ、ああ。だが、良いのか?」
「こんな、小汚い魔石はいらん」
戸惑う者達に小汚い魔石を投げ渡し、冒険者達の脇を通り過ぎる。
コアに頼まれた虫駆除は終わったので、次は肉狩りだ。用の無くなった階層にはさっさとおさらばして、肉のいる上の階層を目指す。
「ちょ、待って」
「?」
ところが呼び止められ、戸惑いながら立ち止まる。
「なんで、一撃なのよ!私達の決死の覚悟はなんだったのよ!」
「けっし?」
「決死の覚悟!けっしのか・く・ご!」
思わず素で突っ込んだキリの背後で、他の冒険者達がそろって頷いている。
「周りに撒き散らしていたモノは兎も角、脆さは変わらん。貴様等でも簡単に潰せると思うが」
「なんで、平気なの!」
「そういう体質だ」
「なんでよ!」
キリの背後で冒険者達も首を傾げていたが、なんでとか言われても体質だとしか言えない。
限界突破をして以来、状態異常も呪いも全く効かないのだから。
「知らん」
知らない訳では無いが、言うと面倒なので言わない。
「知らないって・・・」
「もう良いか? 私は、狩りのために迷宮に入った。貴様等とおしゃべりをする為ではない」
「なっ!」
「あ~。あんた、イチが居ないと益々愛想が無くなるな」
「当然だろう?」
馬鹿な事を言うなとばかりに眉を顰め、すたすた歩いて冒険者達の横を通り過ぎる。
―肉がいたのは10階層目までだったか?
レオの頭の中は、肉狩りの事でいっぱいだった。
「スー。コアに言って、一気に10階層目まで行けないか? 行けない? そうか、残念だ」
「あんた、随分古い獣人の血を引いているんだな」
「?」
小声でぼそぼそとスーに問い掛けていたレオは、感心したような、呆れたような呟きに思わず足を止めてしまった。
「あー、獣人って言うか、魔族全般が古い血を強く引く程、伴侶を得た時に他人がどうでも良くなり易く、人付き合いがぞんざいになり易いだろ」
「なるほど?」
確かに、レオは基本的にイチ以外どうでも良いと思っていた。例外は、女王と番人達。それから、辛うじてレイベルト。
だが、レオは血が理由では無いと思う。
300年以上聖域に引き籠もっていたレオの知り合いは、もう殆どいない。執着する相手はイチしか居ないのだ。
それはもう執着心は際限なく高まり、それ以外への関心は反比例するように無くなって行く。
―血が云々と言うよりも、私と他の関わりの少なさが原因ではないだろうか?
内心で首を傾げ、特に何も言わずに歩き出す。
人付き合い云々よりも、肉が狩りたくて仕方が無かった。
「ちょっ」
「ここから先に魔物は居ないが、迷宮の気紛れには気をつけることだ」
忠告めいた一言を残し、振り返らない確かな足取りで去っていった。
残されたのは、小汚い色の魔石が一つ。
「しまった。この魔石の買取額の相談をしていなかった」
「気にする事は、そこだけじゃないでしょ!」
べしり、とキリの突っ込みがガイアスの後頭部に叩き込まれる。
「?」
「何で迷宮の奥から出てきたのか、私達に気付かれずどうやって近付いたのか、正体不明のモヤに触れて何故平気なのか、とか疑問だらけではありませんか」
「それはそうだが、あの男は聞いた処で答えはせんよ」
フォルの指摘に肩をすくめ、逆に問い掛ける。
「フォルは、どうやってあの男から答えを引き出すつもりなんだ?」
「そ、れは」
「不満気なお前達もだ。案はあるのか?」
『・・・・・・・』
「ありませんよ」
ガイアスからの問い掛けに、溜息交じりにミルが答える。
「あんな危ない虫を平気で片付ける人に力尽くなんて出来ませんし、イチさんに聞くのはもってのほか! 自殺行為でしょ! レオさんに潰されますよ?」
「ナニが? ぐおっ!?」
グエントは、頭に拳骨を落とされて呻きながら黙った。
「兎に角、先へ行くぞ。せめて何階層目まであるのか確かめる」
迷宮攻略の、一番の壁になり得た異常変異体は手を出す前にあっさりと倒されてしまったので、せめて最下層まで行って攻略を終えたかった。
「で、この魔石はギルドに渡して、代金はレオに丸渡しだ」
「そうですね」
「だよね~」
異常変異体を倒した者はレオなので、不満が無い事はないだろうが、幸い異論は誰からも上がらなかった。
「魔物は居ないという事だが、いつ出現するとも分からん。気を抜くな」
『おう』
全員で気合いを入れ直して先へ進むのだった。
「あ、イカん」
はっと声を上げるグエントに、周りが少し引いた。
「オルニエ! オルニエ達を忘れてる!」
『あ』
「迎えにイって来る!」
言いだしっぺで、此処にいる者達の中でも足の速いグエントが代表として残って待っている獣人達を迎えに行き、ついでに調査隊も待ち、全員揃ってから先へ向かうのだった。
少々締まらない再開になってしまったのは仕方が無い。
「何故此処に来る」
肉を求めて10階層目に行くつもりで転移陣に乗ったのだが、目の前にあるのは洞窟の壁と白い迷宮コア。
「私は、肉を狩りたいのだがな」
コアに近付くと、スーがぴんっと飛び出してコアの上に乗り、言葉を伝える。
「は?余力が無いから魔物を狩るな?」
コアは一度目のスタンピートと、二度目のグラトニーホッパーのスタンピート未遂が立て続けに起きた所為でコアは疲弊しており、魔物を生み出し続ける余裕が無いそうだ。
今、レオに肉目的で魔物を狩られると、魔素と魔力が足りずにコアの寿命がごりごりと削られるのでやめて欲しいと訴えられた。
「そうか。で、あれば仕方が無いか」
迷宮に留めを刺す気はないので、がっくりと肩を落として諦めた。
「分かった。では、一階層まで送ってくれ」
肉が狩れないのなら、これ以上此処にいる必要はない。
さっさと帰って、この微妙な気持ちをイチで癒されたい。
「送れないとは言わんよな? うん? 言わんか、良かった良かった」
無理、とか言われたらコアを破壊していたかもしれない。
「では、邪魔をしたな」
さっさと転移陣に乗ると、そこは1階層目と2階層目を繋ぐ転移陣。
「良かった良かった」
態々コアを破壊しに行く必要が無くなり、レオはスーを伴いるんるんで迷宮を後にした。
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