ホッパーホッパー 12

 依頼を熟すために冒険者仲間と、おまけ と共に迷宮へ入って1日。一行は5階層目へと到達し、少しずつ木が増えて悪くなってゆく見通しと魔物の不意打ちに、少しづつ歩みが遅くなってきていた。

 「っ!」

 振り上げ、振り下ろされるだけの棍棒を引きつけて避け、横合いから短槍の石突きで側頭部を殴り、迫って来ていた2匹を穂先の刃で薙ぐ。倒した3匹が迷宮に吸収され、魔石が残った事を横目で確認し、拾い上げてふっと息をつく。

 「さすがだなぁ」

 「俺は虎っすから、ゴブリン3匹なら何とかなるっす」

 同クラスの冒険者や先輩冒険者に声を掛けられ、苦笑しながら頭をかく。

 虎は、獣人の中でも戦闘能力の高いのだ。

 「よっしゃ、次は俺だ!」

 『頑張れ~』

 先輩冒険者がいるので、レイベルト達低ランク冒険者達は出てくるゴブリンやコボルト、スライム相手に1対複数の闘いを順番に挑んでゆく。

 「レイベルト」

 張り切って先頭に立つ仲間の背中を見送っていたレイベルトは、先輩冒険者に呼ばれて振り返る。

 「なんっすか」

 「アレ、どうにかならねぇか?」

 その問い掛けに、レイベルトの眉が嫌そうに顰められる。

 彼等冒険者一行の後ろには、ノイン率いる貴族の一行。

 「ちょっと、そんな顔をしないでよ」

 「あ、すんませんっす。俺に、領主様の御子息様一行に意見する度胸はないっす」

 「そういわないでよ」

 「・・・・・すんません。俺には無理っす」

 調査隊の残っていた兵達は魔物を倒しながら、主達の護衛をしているのだが、その中にいるノイン達貴族5人は、魔物と戦う兵を見り冒険者達を見たりと楽しそうに何事か話している。

 装飾の多い、華麗な皮鎧を身に付けはしゃぐ2人のお嬢様と妙にこちらをちらちら気にしているノインに、違和感がして仕方が無い。

 「ま、それは俺達も同じだなぁ」 

 「お、コッコが出た!」

 『何!?』

 食べて美味しい魔物の出現に、冒険者達が色めきだつ。

 「肉!」

 それは、レイベルトも例外ではない。お嬢様達とノインに持った微妙な気持ちをぺいっと何処かに投げ捨てて肉に集中する。

 「今日の飯が増える!しくじるな!」

 「うっす!」

 鶏に似た飛べない鳥3羽と、肉を求める冒険者が対峙する。そして、魔石と肉がドロップした。

 『肉ー!』

 大喜びする冒険者一同。

 味気ない携帯食におかずが一品増えたので、喜びも大きい。

 「よし、張り切って進むぞ」

 『おー!』



 「冒険者というのは、賑やかで楽しげですのね」

 「ああ、楽しそうだね」

 レオに武勇伝を聞かせるのだと、張り切るアンネマリーとクリスティナの様子を気にしていたシルヴィアとアルマは、楽しげに肉肉と騒ぐ年上の冒険者達の様子に微笑ましく目を細める。

  「お姉様。冒険者達は何故あんな弱い魔物で喜んでいるのです?」

 「あれでは、大した手柄にはなりませんの」

 冒険者達の食事事情を知らない妹達に、シルヴィアは苦笑いを浮かべながら丁寧に答える。

 「そんな!毎食味気ない携帯食だなんて耐えられません」

 「ああ、だからあんなにも喜んでいるんですのね。納得ですの」

 「お姉様達も、彼等と同じなのですか?」

 憧れの人がいない事もあり、魔物を狩って己の存在をアピールをしたいという欲求を持ちつつも、姉達の実践学習にも興味を引かれたようで女性3人話しが弾んでいる。

 「話すのも良いけど、控え目にね。此処は迷宮だから、下手に魔物を呼んでしまうといけない」

 『はーい』

 アルマは女性達に釘を刺し、調査隊の残りの指揮官―護衛隊とする―と共に隊員達が集めてきた迷宮内の情報を纏めながら歩いているノインを見る。

 「・・・・・・・・」

 彼は、護衛の指揮官との会話の合間に、ちらちらと前方にいるレイベルトを気にしていた。

 「気になる?」

 指揮官との会話が終わったタイミングで、話し掛けると珍しい反応が見られた。

 いつもは動かない尻尾が、びくりと震えて膨らむ。

 「・・・何が?」

 「何がって、レイベルトっていう冒険者の事だよ」

 「・・・・まあ、そうだね」

 誤魔化してもアルマにはレイベルトとの微妙な関係を話しているので、誤魔化しようが無い。ただし、アルマには口止めしているので、シルヴィアはノインとレイベルトの関係を知らない。

 ―でもまあ、シルヴィア嬢の事だから、薄々気が付いてはいるだろうね

 今は亡き母の前に、父の側にいた女性とその子供。

 ノインがその存在を知ったのは実践学習に入る直前。実践学習に出る為に帰っていた家で、父親が妙な動きをしていた事が切っ掛けだった。

 エド王国からクロウルへ越してきた母子を、父親がいつになく気に掛けていた事で不信感を持ち、調べて2人の存在を知り、実はこっそり会いに行ってもいた。

 レイベルトは冒険者として依頼を熟す為に町を離れておりその時に会う事は出来なかったが、母親の方には会えて話しが出来た。

 その出会いは、ノインにとって良いものになったと思っている。

 あの時エリスに会って話せたお陰で、ノインは2人の存在を素直に受け入れる事が出来た。

 「私としては、普通に話したいんだけどねぇ」

 貴族に近づく気のない腹違いの兄と接点を持ちたくて、軽い調子で話し掛けていたら、いつの間にか距離を置かれるようになってしまった。

 最初は普通に相手をしていてくれただけに、今の状況が不満で仕方が無い。

 「ノインが変に絡むからだろう?」

 じとりとみつめられ、ノインはバツが悪そうに頬をかく。

 「いや~、ついつい」

 自覚はある。

 あるのだが、母親を早くに亡くし、父1人子1人で心理的に寂しい幼少期を過ごしたノインは、腹違いとは言え兄という存在にはしゃいでいた。甘えていると言っても良い。

 「まったく、程々にな」

 「分かっているよ。嫌われたくはないし、迷惑もかけたくないからね」

 「貴族ってだけで、あの人にはマイナスイメージのようだしな」

 「・・・・・・」

 アルマの指摘に、ノインはふぅと溜息を吐く。

 レイベルトはアルマが話し掛ければ相手はしてくれるが、彼は決して丁寧な口調を崩してはくれない。

 アルマはレイベルトとの関係を知っているので、時期領主として立てられて、少し悲しい。

 「まあ、まだまだクロウルに居てくれるようだし、嫌われない程度に絡み続けるよ」

 「程々にな」

 絡まないという選択肢の無いノインに、アルマは苦笑いをしつつ見守る事にした。

 ―何とも言えない片思いだなぁ

 「ねえ、アルマ様。貴方はどう思いますか?」

 「うん?」

 「私達も、彼等の仲間に入れてもらおう。と言う話しです」

 シルヴィアの視線の先には、鳥肉にはしゃぐ冒険者達。

 冒険者達の中に入れば護衛達の負担は減るし、アルマ達5人は魔物相手に経験を積める。ノインはレイベルトに近づける。

 ―良い事尽くめじゃないか

 「良いね。そう思うだろう?」

 「・・・・・ああ。ちょっと待ってて」

 その気になったノインは、ささっと護衛を説得して、冒険者達の中に混じって弱く手頃な魔物を相手に戦闘を繰り広げるのだった。

 「レイベルト。次は私と組んでくれるかい?」

 「え」 

 レイベルトの気苦労が増えた。

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