ホッパーホッパー 7

 「ただでさえ、今の領主様は回復したばっかりだっていうのに、」

 「ちょっと待ってください」

 キリの止まらない話しを無理矢理止め、イチは自分に彼等の注目を集める。

 彼等の眼力に怯むが、問わずにはいられない。

 「未成年の学生って、誰がですか?」

 「お嬢様達よ」

 「おおう」

 イチは思わず口元を覆う。

 彼女達のアグレッシブルな行動に、2人は成人済みのボンッキュッボンッのナイスバディな女性だとイチは思いこんでいたのだ。

 予想外な事実に戸惑いを隠せない。

 何でも、彼女達だけでなく、領主の息子とシルヴィア、アルマも通っている学園の生徒は、6歳から19歳。成人である16歳から、学園を卒業する19歳までの3年間に実践学習として兵士や冒険者としてそれぞれの時間を過ごすのだそうだ。

 ―え?シルヴィアって人達も学生?十代!マジか!

 18歳だそうだ。

 真面目に話しを聞きながら、内心でそわそわしていた。

 思っていた以上に、彼等が若い。

 今日押しかけてきた2人は、何と14歳。

 ―子供やん!

 子供に会う事を嫌がり逃げ出そうとしていたのかと、衝撃を受ける。

 ―子供から逃げるってないわぁ

 2人に会わないという選択肢が、イチの中から消えて行く。

 「・・・・・・」

 深々と溜息を吐くイチのつむじをレオがじっと見つめる。

 「会うつもりになったのか?」

 「子供が会いたいって言いゆうがを嫌がって逃げるとか、そんな意地悪私には出来ん」

 「逃げれば良いのに」

 「無理!」

 イチとレオのら遣り取りに、正面にいる者達は気が気ではない。

 イチは会うつもりになっているが、お嬢様達が会いたがっているレオが、会う事を嫌がっている。このままでは、レオは機嫌良くお嬢様達に会ってはくれない。

 「私のなけなしの良心が、子供をいじめるのは良くないって言って来る。だからね!」

 『!』

 じっと、目に力をこめて正面の冒険者達を見つめる。

 「保護者が同伴するなら、レオ君同伴でそのお嬢様方に会います」

 『!?』

 イチの言葉にレオは嫌そうに眉を顰め、他のガイアス達は表情を明るくした。レイベルトは話しの行方によっては仕事が出来るかどうかが分かれるので、こっそり事の成り行きを見守っている。

 「私も、か?」

 「もちろん。私に、単独で貴族に会う度胸はないよ。レオ君の威を借りんとお話しらあ出来んよ。権力者怖い!」

 向こうの世界で読んでいたライトノベルの影響で、貴族とは傲慢で庶民から搾りとった税金で贅沢の限りを尽くす者。というマイナスイメージがイチにはある。

 レオが居ない状態で会うなんて、出来ない。

 「相手は子供だ」

 「子供は子供でも、頭に貴族のって付く子供やん。やなもんは、分け合おうやレオ君」

 「ぬう」

 分け合う、という言葉にレオの心が揺れた。

 「よっしゃ、一緒に会いに行こうね?」

 「くっ。仕方がない」

 「やった。ありがとう、レオ君」 

 喜んだのは、イチだけではない。お嬢様2人と、レオを会わせるための交渉をしに来たガイアス達も喜んだ。

 「だからね、ガイアスさん達。会うのはシルヴィア、様でしたっけ?その人達も一緒にですから、お嬢様方には貴方方から説明をよろしくお願いします」

 「あ、ああ」

 喜んだ彼等だったのだが、イチの注文に慌てる。

 お嬢様達は、シルヴィアに先んじてレオに会いに来たのだ。それが、シルヴィアと共にでなけば会えないと伝えなければならないのだ。お嬢様達は簡単には納得しないだろう。

 ガイアスとジョーイには、少々向かないお仕事だ。

 「キリ、フォル。任せる」

 「頼んだ!」

 「ま、何時もの事ね」

 「ですね」

 ややこしい交渉や手続きをするのは、このパーティーではキリとフォルの2人。

 今回も、何時ものように説明役は2人に丸投げとなった。

 「報酬の割り増し、よろしくね?」

 交渉役をこなす分、キリとフォルの報酬は割り増しなるというのが、彼等のパーティーでの取り決めのようだ。

 お嬢様達と話しをするべく、それから直ぐに戻って行った。

 「良かったね、レイベルト君。明日は依頼に行けるかもしれんよ?」

 「そうなると嬉しいっす」

 それぞれのイベントリへ仕舞っていた鍋や皿を取り出し、止まっていた食事を再開する。

 「明日が、平和に終わると良いね」

 「ああ」

 「全くっす」



 同時刻。

 ギルドの受付嬢であるニースは、頑丈に作られた塀の外で2人のお嬢様とそのお付きと天幕の中で向かい合っていた。

 魔道具の一種なのであろう天幕の中は広く、家具も充実しておりとても天幕の中とは思えない。

 「・・・・・・・」

 振る舞われた紅茶を口にして、ほうっと息を吐く。

 町の外で飲むには、上等すぎる紅茶だ。

 数十人の兵を連れてやって来たお嬢様達。  

 黒獅子に会いに来た彼女達を何とか納得させギルドからこの塀の外の野営地に帰したのだが、ニースまで付いて行くしかなかった事は誤算だった。

 ―彼等には、ガイアス達を向かわせたし、ギルドマスターに知らせる事は出来たわ。調査隊のノイン様達が到着れるまで、この方達を引き留める事が出来るかどうかが問題ですねぇ

 「質問をしても宜しいでしょうか」

 「よろしくてよ?」

 「何かしら?」

 シルヴィアの直ぐ下の妹アンネマリーと、同い年の従姉妹クリスティナ。彼女達は従姉妹なのだが、背格好、顔立ち、雰囲気まで双子のように良く似ている。

 淡く柔らかな長い金の髪。同じ色の毛で被われた耳としなやかな尻尾。オレンジがかったとろりとした琥珀瞳。

 弾けんばかりの若々しさに彩られた美しさ。

 つまり、彼女達は幼い。実践学習に入るにはまだ早く、学園が長期の休暇に入っていない今、此処にいる事はおかしい。

 「学園は、よろしいのですか?」

 「「・・・・・」」

 アンネマリーとクリスティナは、ニースからすいっと目をそらした。

 これが答えなのだろう。

 リーヴェル家の兵を連れているという事は、無断でここまで来た訳ではないのだろうが、2人は学園の授業を休んで無理矢理来ている。

 「・・・・よろしいかよろしくないか、で言えばよろしくはないですわ」

 僅かに間を開けて、アンネマリーが胸を張る。

 「ですが、黒獅子か現れたと聞いて、じっとしていられる者はリーヴェル家にはいませんのよ?」

 アンネマリーとクリスティナは、交互に言葉を口にする。

 「何より、今のリーヴェル家でそれなりの若さで、相手がいないのは私達だけですから」

 シルヴィアが勝利を収めたアルマ争奪戦。それが終わった後、シルヴィアとアルマを巡って争った令嬢達は、アンネマリーとクリスティナ以外婚約したり結婚していたりと売れてしまっている。後は夫に先立たれた未亡人か。

 そして、2人よりも若いリーヴェル家の令嬢はまだ一桁の年齢でしかない。

 だからこそ、アルマ以外に黒獅子が現れた今、アンネマリーとクリスティナには大きなチャンスなのだ。学園も大事だが、このチャンスを逃す事は出来ない。

 「お姉様の前に立つ、良い機会なのです」

 「ええ。絶対に、見逃す事は出来ませんの」

 「ですが、くだんの黒獅子殿には相手がおられますよ?」

 だから、諦めた方が良いのでは?と問い掛けるニースに、アンネマリーとクリスティナはにっこりと笑った。

 「貴女は、私達獅子族の習性をご存知ないのかしら?」

 「魔族の中では、珍しい習性ですのよ?」

 「ま、まさか!」

 ニースは、はっとした。魔族の中では珍しい獅子族の習性。

 「・・・・・・ハーレム」

 「「うふふふふ」」

 そう、ハーレム。

 伴侶に執着する魔族の中で、獅子族はハーレムを持つこともある珍しい種族だった。

 アルマはハーレムを持とうとはしなかったが、レオがハーレムを持つ可能性にかけているようだ。

 14歳にしてハーレム加入希望。何とも夢のない話しだ。

 「程々にお願いいたします」

 悲しい気持ちになり、これ以上止める言葉を言えなくなってしまった。

 「ええ、分かっています」

 「ええ、当然ですの」

 「お嬢様、冒険者達が参りました」

 外から、お嬢様達が待っていた声がかけられた。

 「「あら?」」

 「ガイアスさん達が黒獅子殿を見つけたようですね」

 「まあ!」

 「入ってもらってください」

 「邪魔をするわ」

 「「お姉様!?」」

 ところが、天幕に入ってきたのは背後にアルマとガイアス達を引き連れたシルヴィアだった。

 

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