災厄再び

「せ、先輩! 大変です!」

「お? またか? 今度はどんな大変だ?」

「今度は本当に大変なんです! ディレクターさん帰ってきたんですよ。それで……」

 真奈美は書類の束を見せる。

「修正項目か。いよいよ面白くなってきたじゃないか」

「面白くないですよ。これ、全部必須だって言うんですよ」

 真奈美は目に見えて青ざめる。


 敵をモンスターにしてもっと戦闘らしくする。

 デモシーンは3Dじゃなくてキャラの一枚絵にする。

 ミニゲームを追加する。

 カジノを作る。

 自宅だけでセーブするのではなくどこでもセーブ出来るようにする。

 奥義マテリアルの仕様を入れる。


 大きそうな物はこれくらいで、後は正直何を言っているのか分からないと言う。

「奥義マテリアルって何ですか?」

「あのディレクターが前にやってたゲームに入っている仕様だ。歴代自分のゲームには必ず入れてる」

「世界観が、なんか合わないですけど」

「関係ない。それで自分の作ったゲームだとサインを残したいんだ」

 武器にアイテムを装備させるシステムを追加しなくてはならないから簡単な事ではない。

 話題性の為にとスポンサーが言うなら仕方ないが、何もしてない奴がいきなり出てきて言う事じゃない、と髭は渋い顔になる。

「まあ、後の半分くらいは別に直してもいいんじゃないかって程度の物だがな。バグを気にしないならの話だが」

「それが……、スケジュールは伸ばせないって言うんですよぅ」

 デバッグの期間はあと二ヶ月残っている。

 二ヶ月あればこのくらいの修正は出来るはずだと言ったそうだ。

 実際にはデバッグの為の期間なのだから、その期間を開発に使ってしまったらデバッグはいつやるんだ? と言う話だ。

 デバッグしなければバグは残る。

「バグで完成が遅れるのはプログラマーのせいに出来ると思ってるからな。上に専門的な説明は通じない。だから自分の主張が通るよう普段から媚びへつらっているんだ」

「どうしましょう……」

「どうもこうもない。ディレクター命令なんだ。直すしかないさ。契約上、拒否する権利はないんだ」

「そんな……」

「拒否すれば、スポンサーに手を回して絶対入れなくてはならない約束を勝手に取り付けてくるだけだ」

 真奈美は沈痛な面持ちになる。

「だがな……。それよりも……。追い打ちをかけるようで言いにくいんだが……、オレからも一つお知らせがあってな」

「はい?」

「オマケモード、あるだろ」

「はい。先輩が、一人でやっていたやつですよね?」

「実はそのプログラム、全部飛んじまってな。消えちまった。要は出来てないんだ」

「は? あれ、スポンサーから必須って言われてるやつですよね? どういう事ですか?」

「いやあ、きっと静電気だよ、静電気。だからバックアップが重要なんだなぁ」

 頭を掻きながら豪快に笑う。

「ちょ、ちょっと! どうするんですか? それ!」

「うん、どうにもならん。だから後はお前さんに任せた。オレはちょっと急用を思い出したんで、今日は帰るな」

 とそそくさと部屋を出ていく髭の男を、真奈美は茫然と見送る。

 真奈美が事態を飲み込むまで数分を要したが、事の重大さに気づいた後に髭の男が戻ってくる事はなかった。

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