髭の人

「あの、皆さんお昼ってどうされてるんですか?」

「ん? ああ、もうそんな時間か。適当に外へ出るか、コンビニだな。……どっか行くか?」

「僕はお弁当なんですよ」

「じゃここで食えばいい。そのミニ打ち合わせ用のテーブルを出せ。俺はちょっくらコンビニ行ってくるわ」



「九条さんって何やってる人なんです?」

「プログラムだよ。お前さんのプロジェクトとは別だから仕事で関わる事はないだろうな」

「へー、そうなんですか」

「ここはフロアのちょうど真ん中だからな。ここを境に西側がお前さんの2Dチーム、東が俺ら3Dチームだ。ここは双方のチームの端っこ同士だよ」

「ははあ、それでこの列は真ん中なのに他に誰もいないんですね」


「ところでお前さんいくつだ?」

「十八です。アルバイトのプランナー見習いです。本当は作家志望なんですけどね」

「作家志望? まだ作家じゃないのか?」

「違いますよ」

「いつ作家になるんだ?」

「いつって……。それはまだ分かんないです。でも、いつかはなりますよ」

「どうなったら作家になれた事になるんだ?」

「うーん、そうですね。自分の書いた本が売られるようになったら、ですかね」

「同人誌ならすぐに出せるぞ。普通の店頭に並んでる物だってある。自費出版って手もあるしな」

「そういうのとは違いますけど。小説が、出版社に認められて発刊されたらです」

「本を出してなくても、作家として仕事してる連中は大勢いるぞ。そいつらは作家じゃないのか」

「いや、そうは言ってないですけど」


「なあ少年。何かを志望する奴はいつまで経っても志望のままだ。プロを名乗るのに資格や証明は必要ないんだ。お前さんはもうプロだ。まだ仕事を請けてないだけのプロだと思え」

「はあ……、いいんですかね」

「いいに決まってるだろ。誰が文句を言うんだ」


「でもプロだって言って、『じゃあ書いてみろ』とか言われたら」

「書きゃいいじゃないか。書けるんだろ?」

「でも僕なんかが書いたもの、使えないですよ」

「バカヤロウ、どんな作家が書いたって、どっかで誰かが酷評するんだよ。ここのディレクターなんてシナリオは素人なんだ。試しにどっかの大先生が書いた物を『僕が書いたんですけど……』って自信なさそうに見せてみろ。結果は同じだ」

「そ、そんなもんなんですか」


「作品、応募した事とかあるのか?」

「はい、新人賞に。落ちましたけどね」

「そうか、まあそういう事もある。悪いとこ直して何度でも送ればいい」

「でも持ち込んで、三日後に落選通知ですよ。才能ないですよね」


「……その新人賞、持ち込みOKだったのか?」

「いえ」


「なんで持ち込んだんだ?」

「いやー、その方が熱意伝わると思って」

「公募の要項満たしてないんなら、新人賞の対象外だろ。そりゃ多分門前払いだ。それでもちゃんと見てくれたんだろうな。いい人だなそれ」

「そ、そうなんですか?」

「いや、その作品見てないから絶対じゃないが」

「じゃ見てくださいよ」

「今持ってるのか? そりゃ別に構わないが……」

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