始めての仕事場へ

 ここは都内にあるゲーム会社『メタルス ライブ』。

 その受付に先程落選通知を受け取ったばかりの少年はいた。

 大学受験に失敗し浪人となった彼は、また来年受かるかどうか分からない受験に向けてただ勉強するよりアルバイトをする道を選んだ。

 持ち込み原稿が採用されて作家デビュー、アルバイトは短期間で終了。というのを期待していたがそう甘くはないようだ。


「じゃあ、席に案内するよ」

 と一つ上の階に案内される。

 フロアに人は多い。

 この階全部が開発現場となっており、軽い話声くらいは聞こえるが、ミーティングなどは全て会議室で行われ、チャットやメッセンジャーも導入されているのでフロアは静まりかえっている。

 机が巨大スーパーの駐車場のように規則正しく並べられていた。

 その真ん中の列の一番奥に案内される。

「今日は機械のセッティングだけで終わると思う。分からなかったら近くの人に適当に聞いて。これから打ち合わせあるから、悪いね」

 と忙しそうに去って行く。

 どうせアルバイトをするなら創作に携わる業務の方がいいかと、近くにあるゲーム会社を選んだ。そこの企画班、製作進行業務。早い話が雑用係だ。


 近くの人といっても、この列には背中合わせに座っている男が一人いるだけだ。


「こんにちは。今日からお世話になる須藤剛志です」


 男は九条だ、と名前だけ言ってまた作業に戻る。

 噂には聞いていたがゲーム会社というのは想像以上に忙しいようだ。

 九条と名乗った男は伸びるに任せたボサボサ髪に既に無精髭とは呼べないほどの髭面。

 春先の室内だというのにコートを着て、その下がいきなりTシャツだ。ズボンもラフで色合いにも全く気を使っていない。

「室内なのにグラサンしてるんですか?」

「ん? ああ。こいつはOAレンズだ。一日中モニター見る仕事だからな」

「ああ。なるほど」

 忙しそうなのでそれ以上は話しかけず自分の席につく。

 少年も家でパソコンくらいは使っているので基本的なセッティング程度は難なくこなす。もっともそれが採用条件なのだから当然だ。

 必要最低限のソフトは入っているので、主に自分の名前でネットワークに繋ぐための設定をプリントを見ながらやるだけだ。

 それでも午前中いっぱい費やし、昼休みを知らせる鐘が鳴る。

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