マップ攻略の基本は「左手の法則」

「先輩! 見てください! 絵が入りましたよ」

「言われなくても知ってる。オレはプログラムやってるんだぞ」

「なんか全然違うゲームですよ」

「それはまだまだイメージ力が足りないな、と言っても完全にイメージできる奴なんていないけどな」

「よかったぁ。もしかしたらずっとしょぼいままなのかと……」

「そんなわけないだろ。でもまあ、実際時間が足りなくなって必要なクオリティーに到達できない事はあるからな。その懸念も間違いじゃない」

「これで発売できますね」

「おいおい。これは第一稿だろ。まだテクスチャ貼っただけだ。ここからクオリティーを上げていくんだ」

「え? 完成じゃないんですか?」

「のっぺりした絵を見すぎて麻痺してるぞ。他のゲームと比べたら全然荒いだろ」

「言われてみればそうかもです。急に色が着いたから、嬉しくて綺麗に見えたんですね」

「製作者が注意しないといけない事の一つだ。見慣れるとなんてことないが、他の人が見ると『なんだこれは』って事にもなる」

 迷路などもその一つ。

 作った人間は全体を見ているし、攻略法も知っている。

 だから面白くしようとして気が付いたら超難解な迷路になっていたりする。

 迷路脱出ゲームならそれでいいが、実際には敵と戦いながら進まなければならない。

 マップを作る人間がそこを失念していると、とんでもなくうざい場面になったりする。

 ダンジョンの迷路は、見た目簡単なくらいが丁度よい。

「えー、でもここのダンジョン結構難しいですよぅ。わたしにはもっと簡単にしてくれないと……」

「そのマップのデータは……、これか?」

 髭がパソコンを操作し、マップの全体が分かる3D画像を見せると、真奈美はうそーっと叫び、髭は耳を押さえた。

「絶対違いますよそれ、……あれ? おんなじだ」

「お前さん右利きだろ」

「そうですよ。右手でペン持ってるじゃないですか。別に当てられても凄くないですよ」

「そうじゃない。このマップは対右利き用に作られてるからだ。まあ世の中には右利きが多いから大抵そう設計するけどな」

 露骨に両目がハテナマークになる真奈美に、髭はやれやれと説明する。

 要はT字路に突き当たった時、右に行くのか左に行くのかは、利き手によって偏りがある。

 だから右利きが選びやすい分岐に行き止まりを多く配置すると、右利きにとって難しいマップになる。

「まあ同じパターンで作り過ぎてもダメだから気にせず作る事も多いけどな。狭い空間で難易度を調整したい時には重要だ」

 はあ、と真奈美はまだ両手を交互に見ている。

「それにゲームはただ難しくすればいいわけじゃない。適度なバランス調整で『難しいんだがクリアできるもの』じゃないとダメだ。客は楽しみたくてゲームをやってるんだ。ちゃんと楽しませてやらなくちゃならん」

 適度に攻略の達成感を味あわせる事も重要だ、と髭は続けるが真奈美の顔は引き攣る一方だ。

「まあ、お前さんには無理だ。それ専門のフリーのプランナーがいるくらいなんだ。今回は低年齢層向けなんだから考えなくていい」

 安堵したのか真奈美は頭から蒸気が抜ける勢いで脱力した。

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