いよいよ完成間近

「いよいよ完成ですね。まさか本当に自分の考えた物がゲームになるなんて……、感無量です」

「まあ、まだ終わったわけじゃないが。あとはデバッグだけだ」

「デバッグって……、今までもやってた間違い探しですよね?」

「作ってる途中にもやるが、最後に集中的にやるんだ。今までもゲーム中に止まったり、おかしな画面になったりしただろ」

「ええ。その度に先輩直してましたよね」

「そういう間違いを虫……バグと言って、それを直すのがデバッグだ」

 バグはプログラムの間違いだけとは限らない。

 絵の間違いの場合もあればシーンの繋がりがおかしいとか、台詞や言葉の間違いもある。

 他にも敵が強すぎる、あるいは弱すぎるなど。

 極端な話、面白くない、なども修正範囲に含まれる。

 酷い現場ではそれらが一緒くたに扱われ、収集着かない事態に陥る事もあるが、大抵はバグによってレベル分けがされている。

 ゲームが止まってしまうなど、絶対に直さなくてはならないもの。

 ゲームは止まってしまうが発生確率が極めて低いもの。これはスケジュールによっては通る事もある。一万分の一の確率なら問題にならないだろうという判断なわけだが、百万本売れるゲームなら百人が被害に遭う事になる。ゲームによってはそのハードルは上がる。

 そして絵や音、台詞などの見た目はおかしいがゲームは進むものは、最悪の場合目をつむる事もある。

「あとは最も軽い、ああして欲しいこうして欲しいなどの要望だ。これは直さなくても差し障りがないから直せるなら直す程度のものだ」

 だがこれはあくまで目安。

 見た目とは言え、不適切な表現や、権利を侵害するようなマーク、宗教的な問題など修正必須となる物もある。

 敵を弱く――なんてのも、一見大した問題でなさそうだが、作っている人達はゲームに慣れている。

 いざ発売してみたら、誰にもクリア出来ないゲームになっているかもしれない。

 単なる要望でも、スポンサー要望ならそれは聞かなくてはならない。

「時にお前さん、バグってのはなぜ入ると思う?」

「え? なぜって、間違うからですよね?」

「なぜ間違う?」

「え~? そんな事聞かれても」

「じゃあ、間違いを直すとしてだ。完璧に直せると思うか?」

「まあ……、先輩なら」

「データの間違いはお前さんが直すんだぞ? 間違いを伝えられて、完璧に直せるか?」

「いや。そんな事はない、かも」

「そうだ。人間だからな。作る時にミスをするなら直す時にもミスをする。だからバグのレベルごとに直す締め切りを設ける」

 先輩人間だったんですか? という真奈美の質問はスルーして髭の男は続ける。

 バグはレベルの低いものから直しを入れる限界日時を設定する。

 完成直前に見た目が少しおかしいから直そうとして、ゲームが止まってしまうバグを新たに入れてしまった、なんてことを避けなくてはならない。

「だから今から要望程度の修正は禁止だ。仕様はもう変えないようにな」

「あー、はい。でも、まだオマケモードが無くないですか? これってスポンサーが絶対入れるように言ってきてるんですよね?」

「そうだな。大事な部分だからオレが全部やる。まあ新人はそんな事気にせずオレに任せておけ」

「あ、はい」

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