再び屋敷の中

「剣を収められよ」

 上階の部屋から現れた老妖精は静かに言った。だがフォックスは警戒を解く事なく剣を構えて老妖精を見据える。

「もうこの屋敷に残っているのは私だけだ。私では貴公らに太刀打ちする事は出来ない。私の首がほしいのならさっさと取って帰るがいい」

「ヒートナックルと言やぁ、この国のお姫さんだろ。その姫を暴漢から救ってやったのに、なんで屋敷の妖精も襲って来たんだ? あんた達の策略の証拠じゃないのか」

「……知っているのか」

 同じ妖精族であるシルフィが前に出る。

「でもあなたは、彼らのやり方には反対だった様子。お願いです。妖精族に、こんな事は止めるよう進言してください」

「私とて、こんなやり方は本意ではない。しかし人間に自然の力を凌辱される事に憤りを感じている事は同じ」

「しかし、あんたは人間の街に住む、いわば最も人間の生活に近づいた妖精のはずだ。人間の友人も大勢いるはず。せめて人々にこの危機を知らせる為の証人になってくれ」

「すまないが、それも出来ない。私とて妖精。同朋を売るような事だけは出来ない。その代わり貴公らにも何もしない。このまま引き取ってほしい」

 歯噛みするフォックスの背に手を当ててシルフィが言う。

「仕方ありませんよ。私達を訴えないというだけでも感謝しましょう」

 顔をしかめながらも剣を収め、柱の陰で震えている姫を見る。


 シルフィが倒れた侍女を介抱する。

「この人はまだ生きています。手当てすれば助かります」

「その者には、我々が姫の我儘によって、退室したのだと証言してもらう必要があったのでな。屋敷で襲われれば、我々の不手際になる」

 誠に不本意だが、と言わんばかりに苦い顔をして言った。

「それで犯行を人間のせいにしながら、この国の力を削ぐ計画か。なんて卑怯な……。考えた奴の顔が見たい……」

 とフォックスの言葉は途中で部屋に飾られた絵画の中の少年に変わる。

 その横の絵に描かれた髭面の男は何か言いたそうに口を動かしたが、「まあいい」という顔をして視線を部屋に戻す。

「しかし、まだヒートナックルのままなのか」

「いやあ、中々いいのを思いつかなくって」

「早く変えないと、定着して変えるのが惜しくなってくるぞ」

「実は、ちょっとこのままでもいいかな、って思い始めてます」

「あの性格、絶対名前のせいだろ。それとこういう選択肢がある場面では、別のパターンも考えてみると、案外いいものが思いつくかもしれんぞ」

「でも、このパターン以外を決定する流れになりますかね。失敗するわけにはいかないし、かと言って面白くするための選出ってのも不自然ですし」

「それはキャラ性能だけで考えた結果だろう。こんな展開ならあり得るんじゃないか?」

 髭面が指を鳴らすと、世界はフィルムを巻き戻したように屋敷の外へと移る。

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