もう一つの可能性

「まだ幼いシルフィを連れて行けないだろ」

「私なら大丈夫ですよ」

「でも彼女の魔法力なら、見張りをしてもらった方がいいんじゃないですか?」

「そうね。ここは私と銀ギツネとケモノで行きましょう」



 身を屈めて屋敷まで移動し、壁に張り付く。

「入れる場所はありそうか?」

 フォックスの問いにホーリーが周囲を見回す。

「どうかしら……。あ、あの部屋。明かりが無いよ」

 明かりのついてない部屋の下に移動し、窓を確認すると音もなく開いた。中にも人の気配はない。

「幸先がいいじゃないか」

 とそっと中に入り、窓を閉める。

 部屋の中は、貯蔵部屋だろうか。木箱や樽、瓶が積まれている。その一つを開け、中の乾酪をもくもくと食べている髭面の男に少年が問いかける。

「都合良すぎやしないですか?」

「そんな事はないぞ。なぜならここは雇った傭兵を侵入させるために開けてあったからだ。分かり易いように、ここだけ明かりを消してな」

「ああ、なるほど」


 貯蔵部屋から屋敷の中を伺うと、正面の大きな扉の中から話声が聞こえる。小さな女の子の声だろうか。

 鍵穴から中を覗くと控えていた妖精達が奥の部屋に引っ込んでいくのが見え、後には女の子の罵声だけが残った。

「窓から誰か入ってきたぞ。シグマ達か?」

 リックスの声にフォックスは扉から離れ、貯蔵部屋の出入り口を見る。確かに屋敷の者はこんな所から入って来ない。外で問題でもあってシグマ達が追ってきたのか。

 しかし貯蔵部屋から出てきたのは、裸同然の上半身に急所だけを金属パーツで守ったようなレザー製の鎧を着たムキムキのスキンヘッドと、それと似たような風貌をした、いかにもな傭兵だ。

「ん? なんだお前らは」

 男達はフォックス達をじろじろと見ていたが、顔に手を当てて嘆くように言う。

「ああ~、あの野郎。俺達だけじゃ信用できねぇってかよ。くそっ、他にも来るかもしれねぇな。グスグスしてられねぇ。仕方ねぇ、お前らとは報酬は半々だからな」

 フォックス達を押しのけ、勢いよく扉を開けて中に押し入る。

「ちょ、ちょっと何よ? あなた達」

 驚く侍女と声を上げる女の子に構わず、傭兵はドカッとテーブルに斧を突き立てると、ひいっと二人とも声を無くす。

「お嬢ちゃん?」

 傭兵はいやらしい笑いを浮かべながら女の子に顔を近づけ、

「なんでそこに座ってんだぁ?」

 え? と何を言われているのか分からない女の子の疑問を、部屋の隅の髭面が代弁する。

「なんであんな事聞いてんだ?」

「いや、なんででしょうね。なんか勝手に」


「おい、そんな女の子に何をやってるんだ」

 見かねたフォックスが傭兵に言う。

「なんだお前ら、雇われたんじゃねぇのか」

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