魔法の書
「概要書として提出するなら、どんな魔法かってのがいるな」
「今決めるんですか? 魔法って普通、何十種類もありますよ?」
「決定じゃなくていい。だいたいこんなモン、でいいんだよ。今要るのは面白そうだと思える事だ。魔法で芸を見せる……、でどんな物を考える?」
「えーと、魔法で体から水を出したり、口から火を噴いたりします」
「フツーだな。魔法が当たり前の世界じゃ芸にもならない。が最初はそんなモンだろ。それでいい。実際子供の発想だ」
わたしは子供か……、と膨れっ面になる真奈美を無視して男は続ける。
初めは当たり前の魔法をシンプルに使う事しかできない。
でも子供が一生懸命小遣い稼ぎをしているので、相手にしてくれる人もいる。
街の人にはレベルに合わせてハードルの高さがあり、それが普通のゲームで言うレベルに相当する。
レベルの高い人ほど気難しいというわけだ。
こちらから芸を見せるわけだから、戦闘は強制的に始まらず、選べるようにしてもいい。
でも中には「芸人だと? じゃあ見せてみろ」と性質たちの悪い者もいる。
そして一定のレベルに達すると、街のお偉いさんに見せて認められ、更に行動半径が広がるようになる。いわゆる中ボスというやつだ。
「はあ……、なんかいまいちピンと来ませんねぇ」
「まあ、紙の上に書いただけでイメージできるようになるには経験が要るからな。ここのディレクター連中でも何人いるか」
だからその辺りはそのまま提出すればいい。答えられない事を聞かれても「暫定だから深く考えていない」でいいと言う。
「重要なのはどんな魔法を考えてるのか、だ。普通はそっちの方が興味を引く」
「でも、大して凄くないですよ」
「最初はな。レベルが上がって行くとどうなる?」
「えーと、火は凄い火になって。水はもう全身からぶしゃ~っと」
「まあ、そのまま強くなるのもアリだけどな。それじゃすぐにネタが尽きるぞ。この場合は組み合わせだ」
「組み合わせですか? 火と水を組み合わせると……。ファイヤー! …………ウォーター!」
真奈美は魔法使いのように杖を振るジェスチャーをする。
「火が消えました」
「まあそんなモンだろ」
お前さんの想像力じゃ……、と小さく呟く。
「どうでもいいが、ここはウォーターよりもアクアの方が魔法っぽいぞ。いや、でも子供の発想なんだからそれもいいかもな。逆に」
男は髭をいじって独り言のように呟くが、真奈美はまたバカにされたのかと不満顔になる。
「じゃ魔法の系統だ。ここは捻らず地水火風の基本に従った方がいいだろう。その中で組み合わせのバリエーションを考えるんだ」
火と水を組み合わせると、消えるではなく水蒸気が発生する。つまり雲が出来て、スモークのような効果を出せる。
それに風を当てる事で急激に冷やし雪の結晶を作り出す。
「いいですね。幻想的で」
「火はレベルが上がると集約して光の玉になるってのはどうだ? 光は色々と使えるぞ」
「そうですね。じゃ、水蒸気に光を当てて虹を作ります」
「いいんじゃないか」
大地は緑、植物を操る系統にする。
地面から花を咲かせて、風の魔法と合わせると唄を歌わせる事が出来る。水の魔法を組み合わせると更に成長。
水を凍らせ、光を反射させる事でよりバリエーションを広げられる。
「単発技だけだと限界があるな。コンボを作るか」
「コンボ?」
「コンビネーションだ。4コマ漫画の起承転結のように特定の魔法を順番に見せる事で、より大きい効果を得られる大技だ」
何かのストーリーになぞらえるとよりいい。
客のテンションが一定以上に上がらないと使えないなどの制限をかけておくと強くなりすぎない。
ゲームを進めて行く事で知識を集め、組み合わせ方やコンボのネタを増やしていく。
同時に得たお金で魔法をパワーアップもする。
「なんかゲームになった気がします」
もう既にそんなゲームを遊んでいるかのように真奈美の表情は明るくなる。
「うわっ、もうこんな時間じゃないか! つい夢中になっちまった。撮り溜めてたドラマも見なくちゃならないってのに」
「あ、もうすぐミーティングの時間ですね。これをまとめて提出します。どうもありがとうございました」
「ちくしょう。オレはただで仕事をするのはキライなんだぞ」
今度お礼しますよ、と言って真奈美は走り去って行った。
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