翌日昼休み どうしたら?

「九条さん、いつも同じサンドイッチですね。飽きないんですか?」

「毎回何食べるか考えるのがめんどくさくなってな。何年も同じコンビニで昼メシを買ってると、すぐバリエーションなくなっちまう」


「ところで、僕のファンタジー物語ですけど。どこを直したらいいと思います?」

「この作品のどこを、というよりお前さん自身だな」

「ええー? それって結局全部って事ですか?」

「そりゃ、直しを入れるなら全編って事になるが、ただ書き直したんじゃ内容が違うだけで結局同じ事になるだろ」

「じゃあ、どうすればいいんです?」


「そうだな。まずお前さんは、これがそのまま本屋に並んでいる所を想像したか?」

「え? そりゃ、まあ」

「本当か? これがそのままだぞ? もちろん製本して挿絵も付いたとしての話だが。横に並んでいる他の本と比べて引けを取らないと思ったのか?」

「いやあ、さすがにそのままって事は……」

「誰かがどこかで直してくれる。そう考えていたか?」

「いや……、だって。そうなんじゃないんですか?」

「どこまで直してもらうつもりだった?」

「いやぁ、それは……」

「誤植だけか? 表現の間違い? 根本的に? 始めから全部?」

「うう……」


「言っとくが、俺はどこも悪いとは言ってないぞ。このまま製本、大いに結構じゃないか」

「いや、……そんな」

「そういう事だ。お前さんはどこを直したらいいかなんてもう分かってる。後はそれに気が付くだけだ」

「いや、でも分かんないですよ」

「分からないのは、『どこが』じゃなくて『どう直すか』だろう?」

「そ、そうです。それが分からないんです」

「それこそ答えなんて無いぞ。今のライトノベルだって五十年前なら相手にされないさ。百年後にはお前さんの文体の方が売れるのかもしれない」

「でも、百年も待てないです」

「じゃあ、お前さんが時代に近づくしかないな。それは磨き続けるしかない」



「うーん、文体なんかは確かにその通りですけど、中身はどうです? ストーリーとか、設定とか」

「そうだな。例えばここで魔法が出てくるが、この魔法の力の根源は何だ?」

「根源? 魔法……ですよ」

「どういう力なんだ?」

「魔法は魔法です」

「どういう理屈で発動してるんだ?」

「魔法に理屈なんかないですよ」

「じゃあ、ここでパーティはピンチになるが、どうして魔法使いは時間を止めて切り抜けないんだ」

「そんな大それた事出来ないですよ」

「あのなぁ、時間進められる奴が、なんで止める事出来ないんだよ。だいたいこの魔法使い系統もよくわからない。火も出すし水も出す、重力も操るわ死者は生き返らせるわ、瞬間移動もするわ」

「そりゃ、魔法は何でもできますからね」

「なんで始めから魔王のいる所に瞬間移動しない?」

「そりゃ反則ですよ」

「なんの反則だよ。この世界ルールないだろ」

「面白くないじゃないですか」

「面白がるために冒険してるのかこいつらは」

「読んでる人がです」

「理由も分からない制限がかかれば読んでる人は面白いのか」

「うーん」


「ハチャメチャな設定が悪いわけじゃないぞ。ルール無用ならそれを活かしたストーリーを組めばいい。もっとぶっ飛んだ内容にする事でそれが活きてくる。早い話が大人が子供相手に遊んであげてるようなもんだ。本当は強い大人は子供にワザと負けてやる。幼い子供はそれでも喜ぶが、お前が同じ事されて喜ぶか?」

「馬鹿にされてる気がしますね」

「『萌え』にも同じ事が言える。ワザとらしい『取りあえずエロ入れときゃ喜ぶんだろお前ら』なんて物を見せられてうれしいか?」

「確かに、萌えは好きですけど。そう言われると心外ですね」

「ただ露出の高い女の子が、意味もなく主人公好きになれば萌えるわけじゃない。その理由が納得できるものの方がより共感できる。ピンチも同じだ。リアリティのあるピンチを切り抜けるから面白いんだ」

「うーん、でもホントのピンチにしたら切り抜けられないですよ」

「そうだろ。ホントのピンチじゃないから面白くないんだ。そういう時はピンチにしなきゃいい」

「でもピンチにならないと面白くないですよ」

「お前の面白いはイコールピンチなのか。こんな最強魔法使いは戦いでピンチにできないぞ。なら戦いは最強でいいんだよ。読んでる人が気持ちいいくらいスカッとする戦いをすればいい」

「はあ」

「それでもピンチを作りたいんなら別のアプローチがいい。そんな最強の力でもどうにもできない場面を作る。例えば人の本当の愛はそれでも得られないとかな。魔法をかけて人を魅了する事は出来ても、それが本物でない事に気づき、終いには自分は一人孤独だった事に気づいて思い悩む」

「あ、いいですね、それ。でもどうやって切り抜けるんです?」

「それはお前が考えるんだよバカヤロウ」

「難しいですね」

「お前何にも悩まずにこれ書いたろう」


「うーん、なんかこれで自信持ってた自分が恥ずかしくなってきましたよ」

「何言ってる。最初は自信アリアリでいいんだよ。俺は投稿前に後書きに書く内容で悩んでたぞ」

「ツ、ツワモノですね」

「バカヤロウ、初投稿で本になる奴なんてみんなそうだ。俺は佳作入選だった時にどれだけ落ち込んだ事か」

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