アルバイトなメイン

「よかった。予算はなんとかなりそうですね」

「なってないだろ。どこの世界に時給でメインプログラムをやる奴がいるんだ」

「え。だって、アルバイトみたいなもんだって言ってたじゃないですか」

「……そうだな。まあ、いいか。どうせ三ヶ月くらいだろ」

「そんな期間でゲームが作れるもんなんですか?」

「ほとんどのシステムは使い回す。それに今回お前さんとの距離が近いしな」

「ヤダ。変な事言わないでくださいよ」

「そうじゃない。ディレクターとプログラマーがよく会話をする。これは重要な事なんだぞ」

「そうなんですか?」

 実際にプログラムを書いて、現実に形にするのはプログラマーだ。

 プログラマーにできない事はゲームにできないと思っていい。未だにプロジェクト内でのプログラマーの力は大きい。

 だがそれが面白くないディレクターは多い。

 自分が仕切りたくて仕方がないディレクターは、自分の考えを押し通すために外堀から埋めて行く事もある。

 プログラマーに話を通さずデータを勝手に発注し、それを出す以外道はない状態を作る。

 面倒臭がってやらないだけのプログラマーならそれでいいが、できないものを勝手に推し進めても破綻するだけだ。

「画面が立体的に飛び出す携帯ゲーム機があるのは知ってるか?」

「そりゃ知ってますよ。わたしもよくやってます」

「似たような携帯ゲーム機は他にもあるが、画面は飛び出すか?」

「飛び出さないですよ。だってあれ、そういう機械だから飛び出すんですよね?」

「そうだ。だから出来ない機械で飛び出させたいと言われても、当然『そんな事はできない』と断るわけだが、そしたらディレクターは、勝手にスポンサーやら広報やらに『このゲームは飛び出します』と喧伝するわけだ。皆がそういうゲームだと期待して、そういう段取りで動く」

「どうなるんです?」

 実際できるわけないんだから破綻する。

 ディレクターは『できないなら、もっと腕のいいプログラマーに頼む』と言って人を入れ替える。

 だができないものはできないのだから、どれだけ高いプログラマーを雇っても結果は同じ。

 結局破綻してプロジェクトはおじゃん。億単位の損失だ。

 上層部にしてみれば発売するハードウェアを変えれば不可能ではないんだから、ディレクターが出来ると言うならそうなんだろうと思うだけだ。

 だが開発用の機材はメーカーと契約して購入、または借りている。

 借りている場合は、ほとんどの場合販売元が貸してくれているので契約を破棄、場合によっては違約金が発生する。

 購入している場合は、ん千万の開発機材に投資した元をとらなくてはならない。

 プログラムも全然違うものだから一から作らなくてはならないし、データの形式も違うのでデザイナーも未経験なら作り方の習得から始めなくてはならない。

 いずれにせよ気分で変えられる物ではない。

 これが大手のゲームメーカーなら、あらゆるハードウェアで何本ものゲームを作っているから少しは現実味を帯びてくるが、多額の損失が出る事に変わりはない。

 実際にそんな事が出来るのは鶴の一声を持つ有名ゲームデザイナーくらいだ。

「ウソみたいなホントの話だ。何かのネタにしようにも『そんなヤツおらんやろ~』すぎて使えない」

「もしかして、ここのディレクターさん?」

「いや。さすがにそいつはクビになったからな。でもクビになるまでの3年間、何の成果も上げていないのにディレクターとして給料をもらい続けたんだ。本人にしてみれば成功だろうさ」

「そうなんでしょうか。結局一本もゲームを作らなかったんでしょう?」

「そんな資格もスキルもないのに、ゲーム作ってる気分に浸れたんだぞ。十分すぎるだろ。気の毒なのはそれに振り回された連中だ」

 次はそういう目に遭った作業者が、ディレクターに対して警戒心を抱く。

 より注意を払うようになるのなら問題はないが、そこは人間。単にやられた事を根に持って、より弱い立場の者にやり返す。

 そんなくだらない事はどこの世界にも存在する。

「今回のはそのケースだ。その白羽の矢をお前さんは見事に射止めた。おめでとう」

「めでたくないです」

「まあとにかく、ディレクターとプログラマーの関係は良好な方がいい。馴れ合うって意味じゃないぞ。もっと言えば同一人物ならなおいい」

 プログラマーがディレクションをやる。つまりどんなゲームか考える。

 出来ない事は始めからやらないし、システムを熟知して常に最善の選択をする事が出来る。

 実際過去に兼業するクリエーターが残す名作は多い。

 今のゲームで売れ筋の物でもプログラマーの目から見れば、始めからそういうシステムで作っていればもっとよく出来た、とか。

 予算を半分以下に出来た、とか。

 期間を半分に出来た、とか思う事がある。

 それでもプロジェクトが成り立つのはしっかりと予算を確保してくるからだ。

 どれだけ無駄に使おうが、それ以上の予算を引っ張ってくるなら文句はない。

 だが中には、そんな予算を確保できないくせに大手のやり方だけ真似する輩がいる。

「ディレクターになった時点で目的が終わっちまうんだなぁ。あとは好き勝手できると思ってるんだ」

「そんな風にはなりたくないです」

「お前さんはゲームを作るのが目的だろ。その辺は心配ない。だが初めてだと、そこにある危機を何とかするだけで精一杯で、気がついたら面白くも何ともないゲームになってるなんて事もある」

「う、わたしの事でしょうか」

「そうなる可能性大だな。だからまず意識するのはとにかく楽しめ。楽しんで作れ。ピンチになったらこの言葉を唱えろ。『面白くなってきた』だ」

 プロジェクトを進めていけば、大変になってくる時期は必ず来る。

 その時は少年漫画のヒーローのようにピンチを楽しむんだ。

 そして大変なのは終盤に向かっているからだ。

 それを乗り越えれば完成が待ってる、と髭の男は講釈する。

「まだピンと来ませんよぅ」

「そうだろうな。だから今はいい。そのうち思い出せ」

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