まずは何から?
「まず何から始めればいいんでしょうか」
「まず予定を立てなくちゃな。システムを使い回すとは言え、変えなきゃならない部分もある。今回締めは決まっているんだから、その中で出来る範囲に押さえなきゃならない」
「でも、他の人の話聞いたんですけど、期間が短いからクオリティーが落ちた……って言うのは言い訳にならないって」
「お。正論だな。だがそんなの後からカッコイイ事言ってるだけだ。製作中にクオリティー上げたいから期間伸ばせ、が通ったなんて聞いた事ないぞ」
「はあ」
正論が通用するならオレの仕事はもっと楽だと言う。
「クオリティー上げるって言葉に際限なんてないんだ。上げようと思えばいくらでも上げられる。だからまず上限を決める。目標を設定してそれを目指すんだ」
そしてそれを少し超えられるなら尚良し。普通は目標に達する事自体簡単ではない。
大抵は自分の中の目標値、「まあ今回は、このくらいでいいんじゃないか」になる。
本来到達できるはずの目標値を、自分で管理するのは難しい。
「だからその舵取を、お前さんがやるんだよ」
「ほえー、わたしにそんな事出来るんですかぁ?」
「まあ無理だ」
「そんな……」
「実際そうだ。作業者の能力を百パーセント引き出せるやつなんていないぞ。そもそも新人の言う事を聞く奴なんていない」
「そりゃまあ、そうですよね」
「だいたい常に百パーセントの力を出し続けたら人間壊れちまうからな。それで本当に倒れる奴もいる。それも気をつけなくちゃならない」
「わたしは、どうしたらいいんですか?」
「そうだな。なんだかんだ言っても商品だ。自分達だけの目標を作っての自己満足じゃ業務と言えん。他に売られているゲームと比べられるんだからな」
「そうですよね」
「必然的に最低ラインというのは決まってくる。そのクオリティーに到達させる為に、お前さんならどうする?」
「え、えーと。そのゲームを見せて、これを超えなきゃいけない事を説明します」
「分かりやすいな。だがそれは一番やっちゃいけない」
「そうなんですか?」
「そのクオリティーに到達したいんなら、同じだけの予算を持ってこいって話だろ。極端な話、有名イラストレーターと同じクオリティーの絵を、はるかに安いギャラで描けってのは無茶苦茶だろ」
「それは、そうですね」
「だが実際そんな事をやる素人ディレクターがいるのも事実だ。よそのゲームを持ってきて、まんま同じ物を作りたがる。自分が関わった事を周囲に自慢したいだけの奴だ。コピーしただけで、結局自分は何もしてないんだからな」
「うーん。じゃあ、同じ会社の過去の作品と比べます。自社製品なら予算も期間も分かってますよね?」
「お? 思ったより賢いじゃないか」
真奈美は頬を膨らませる。
「自分の仕事なら、超える事も出来るでしょうし」
「過去の自分の仕事を超えなきゃならないのはむしろ当たり前で、それはディレクターが押す事じゃない」
自分で向上できないクリエーターなど論外だ、と髭は言う。
「特に他人と比べられる事を人は嫌うからな。『あの人は出来た』なんて言ってみろ。面白くない結果が待っているだけだぞ」
「そうですね。それは分かる気がします」
「こればっかりは人柄にもよるから一概には言えんが、褒めるのは効果ありだ。褒めて、おだてて仕事をさせるんだ」
「はあ、わたしにできますかね」
「まあ自分のやり方を見つけろ。とにかくまず必要なのは素材リストだ。どんなマップ、どんなキャラがどのくらい動いて、何曲音楽が流れるのか」
「それ今作らないといけないんですか?」
「後から追加される事はある。何もないと、何もできないだろ」
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