ゆめいろプリン
「こ、これがメインヒロインのシナリオなのか?」
「どうした?」
「これ、参考に渡された前作『ゆめいろプリン』のシナリオなんですけど。僕が書いた物とどう違うんです?」
「違わないな」
「いいんですか? これで」
「これはゲームだからな。アドベンチャーゲームとは言えシナリオが全てじゃない。絵も出れば、声も出る、アニメもするしミニゲームも入る。シナリオはこのくらいで問題ない。それにこのゲームのコンセプトは『モテない男の欲望』だ。何も間違ってないだろ」
「それと僕のが同じようなって事は……」
「うん、文章しかない小説がそれと同じなら最悪だな」
「あー。なんか人のを見て初めて分かった気がします。こんな恥ずかしい物書いてたのか」
「そりゃ失礼だぞ。これでもプロのライターだ」
「でもストーリー性っていうか。なんもないですよこれ」
「そうだな。一応恋愛ゲームだからな。ゲーム性からみても読み進めるだけで自動的にハッピーエンド。ひどいゲームだ」
「やっぱりそう思ってるんじゃないですか」
「ゲームってのは決められたルールの上で雌雄を決して成立する。成功があり、失敗がある。だから面白いんだな」
「確かにミニゲームの結果も攻略ルートに反映しませんね、これ」
「俺に言わせりゃ、こんなのはシューティングが苦手な奴が作ったシューティングゲームだ。敵の弾に当たっても死なないシューティング」
「意味ないですね、それ」
「ゲームが苦手な人にも、うまくプレイしてる感覚を与えたいって発想は間違いじゃないけどな。だがそれは無敵にする事じゃない」
「このゲームで言うと相手の女の子の気持ちを理解して、会話に失敗すると攻略できないってのが本来の形って感じですかね」
「そうだ。そういう恋愛ゲームを作ってた身から言えば、こんなもん作る奴の気がしれないね。ゲームせずに結果だけ見せたけりゃアニメ作ればいい」
「どうしてこういう物が作られてしまうんです?」
「そりゃ、お偉いさんが素人だからだ。シナリオの勉強をした事もなければ、ゲームもした事ないからな。それは別にいいんだ、経営者なんだから。金になるかどうかだけ判断すればいい。そのためにゲームのクオリティが分かるディレクターを雇ってるんだ」
「じゃ、なんでそのディレクターはこのシナリオを通すんです?」
「ディレクターもライターじゃないからな」
「でも、打ち合わせでしっかりしたストーリーが書ける実績を持ったライターが書いたものだって言ってましたよ」
「実績を持ったライターが書いたって言っただけだろう。これがしっかりしたストーリーかどうかの判断は出来ないんだ。いや、本当は分かっているのかもな。分かっていて分からないフリをしてるんだ。分かった所で自分の仕事が増えるだけで得がないからな。商売人としては間違っていない。それでも売れるんならな。売れなくなるまでそれを続けるのは会社の一員としては正解だ。だから生かしておいてやってる」
「何気に凄い事言いましたね」
「まあとにかく、まずは取材だ。周りにいる女子を観察したり、話を聞いたりしてどんなヒロイン作ったらいいか考えてみろ」
「しゅ、取材ですか……? でもそんな事やった事ないし」
「取材って名目なら話もし易いだろ。そうだな、自分がゲームをやっているつもりになって接してみろ。どうやって会話を進めていったらいいか、どうやったら攻略できるのか」
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