風の妖精と黒き獣

 風の精霊の加護を持つ妖精のシルフィは、城の石階段を軽快に降りる。

 廊下に降りた時、見張りからの戻りなのか、甲冑と剣で軽武装した二人の衛兵が向こうからやってきた。

 僅かな松明が灯る薄暗い廊下ですれ違う。

「やれやれ、やっと寝られるな。どうせ襲ってる敵なんていないってのに」

「そうだなぁ。退屈だったよなぁ。おや、お嬢ちゃん、こんな所で一人何してるんだい?」

 シルフィは二人に手早くお辞儀をして走り去ろうとする。その手を衛兵の一人が掴んだ。

「おいおい、そんなすぐ行っちまう事ないだろ。少しお話してくれよ」

「お嬢ちゃん、踊り子だったんだってなぁ。一つおじさん達にも見せてくれねぇかな」

 もう一方の手も掴み。

「ロボスの踊りは中々に妖艶だって聞くぜぇ。着替えるの手伝ってやろうかぁ?」

 手を掴み、下品な笑いを浮かべながらもう一人に目配せする。

「おい、何やってんだよ。早く手伝って差し上げろ」

 相棒の返事が聞こえないのでどうしたのかと後ろを振り向く。

 だが相棒の腰の位置がおかしい、自分がこの妖精の子供の手を掴むために前屈みになっている事を考えても上過ぎる。あいつはこんなに背が高かったろうか。

 足元に目をやると、相棒の足は地についていなかった。

 何だ? と思いそのまま視線を頭の方へと移す。そこには白目を剥いて口から泡を吹いている相棒の顔があった。

 驚いて掴んでいた手を放し、二歩ほど後ずさる。

 全体を視野に入れると相棒は後ろから首を掴まれて宙に持ち上げられていた。相棒の後ろにある黒い影は赤い目を光らせている。

「リックス。止めなさい!」

 妖精の子供が言うと、相棒の体は地面に崩れ落ちた。

「な、なんだお前」

 と衛兵は、剣を抜き放ち、カタカタと音を立てながら構える。

 だが妖精の子供は平然と得体の知れない影に歩み寄り、

「もう。お城では諍いを起こすなって言われたでしょ!」

 と精一杯背伸びをして黒い頭をぽかっと叩いた。

「お、お前ら、こんな事してただで済むと……」

 衛兵は威嚇するように剣を突き出したが、突然がっちりと固定された。剣先を見るとびっしりと金属のような棘が生えた手に掴まれている。

 押しても引いてもビクともしない。

 バキン! と甲高い音を立てて、剣が砕け散る。衛兵は腰が抜けたようにへたり込んだ。

 妖精の子供が労わるように駆け寄る。

「ごめんなさいね。王様に報告しなくちゃいけませんよね。でも……」

 衛兵に顔を近づけ、そっと囁く。

「この前も、それでお城を追い出されちゃって……、そしたらこの子、その兵隊さん喰い殺しちゃったんです。キツく言っときますけど、言う事聞いた試しがなくて。だから、何もしないでいてもらえると、私も叱らなくていいから助かるわ」

 と言い残し、黒い影を連れて去って行った。

 茫然とへたり込む衛兵を髭面の男と少年が見下ろす。


「あの二人仲がいいんですね」

「そういう事にしといた方が、獣魔がパーティにいる理由になるだろう」

「でもパーティの年齢層近いですね。実年齢はともかく、見た目が」

「仕方ないだろ、幅広い人物出すには人間観察が要るからな。お前さんの若さじゃ仕方ないさ」

「そっか、うちは父親いないからなあ。年配の男性像って確かに分からないですね」

「そういう時はどっかのキャラクターから引っ張ってくるしかないからな。主要メンバーには向かない」

「精神年齢の低い髭のオッサンなら作れるかもしれませんけど」

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