エピローグ

 会社の前にあるコーヒーショップのカウンター席で須藤少年はコーヒーを飲みながら次回作の設定に目を通す。


 引き籠りの少年が、女子寮に住む姉に不審者の対処を頼まれる。少年は化粧で女装すると、かわいい女の子に大変身、女子寮に住み込んで不審者の捜索をする事に。

 しかし不審者というのは狂言で、引き籠りである少年を何とかしようとする姉の計らいだ。

 美人のお姉さんが大勢で、あられもない恰好で暮らす中に放り込まれた少年はてんやわんやの大パニック。姉の策略は成功したかに見えたが、狂言だったはずの不審者の影が見え隠れし始める。

 果たして少年は男である事がバレずに事件を解決する事ができるのだろうか。


 といったストーリーだ。今回はゲームオーバーもあり、ゲーム性が盛り込まれている。


「難しそうだな。でも楽しそうだ」


 基本的なキャラクター設定はもう決まっているが、まだ企画段階だ。シナリオ担当として書きやすい様に色々と意見していい事になっている。

 さっそくどんなキャラクターを作ろうかと思索を始めた所で、隣でコーヒーを飲みながら文庫本を読んでいた男が呟く。

「いやあ、まあまあ面白かったな。なんか最後はしっくり来ない所あるけど」


 読んでいた文庫本の感想を言っているようだ。三十代後半くらいだろうか。髪は短くして髭はない。細いと言うより締まっているという感じだ。

 白いサマージャケットを着こなし、しっかりした大人といった風貌で、年上好きの女性ならチラ見しそうな男性である。


 男は少年に気がつくと、文庫本を少年の前に置いた。

「よかったら読んでくれよ。いらなかったら適当に捨ててくれ」

「え? あ、はい。……ありがとう、ござい……。今の声……」


 男は店を出て、すぐに人ごみに紛れて見えなくなる。しばらく目で探してみたが、見つける事はできなかった。

 男が置いて行った文庫本に目をやる。


『クリームゾーン』 九里方 兼人


「……九里方?」


 少年は、本を手に取ると小さく笑い。頁を開いた。

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