テーマ
「さっそくなんですけどテーマから決めた方がいいんでしょうか」
「別にテーマから考える必要はないぞ」
「前に九条さん言ってたじゃないですか。ファンタジー物語は『欲望』を除くなら『日記』だって」
「そうだな。主人公の道程をなぞっているだけだ。もちろん『日記』でもいいんだぞ。ただそれはキャラクターに感情移入できる事が大前提だ。大金拾ってギャンブルで大勝ちした男のツキと豪遊の日記を読んで面白いか?」
「いやあ……」
「本人には楽しかった日々だ。読み返す度に楽しいだろうさ。だが他人にはどうでもいい話だろ。『日記』をやるなら誰が呼んでも面白い日記でないとな」
「そうですね。それは難しそうだ」
「『日記』から少し逸脱するならドキュメンタリー要素を加えて『自伝』だな。共感はできなくても興味が持てる日記なら少し変わってくる。さっきのギャンブル男でいうなら、本当に勝てる方法を紹介するとかだ」
「なるほど、確かにそれは共感は持てなくても興味はありますね」
「大抵は自分やモデルの実体験を織り交ぜてリアリティを持たせるが、完全にフィクションでそれをやって嘘がバレないようにするのは大変だぞ」
「そうですね。想像もできないです……」
「ドキュメンタリーに少し近い物に『読んで為になる物』がある。医療物や刑事物がそうだ。読む人の知識欲を刺激する」
「ああ、確かに。勉強になるやつって面白いですよね」
「だがこれは見せ方がうまくないと文章がメインの小説じゃたちまち論文みたいになっちまう」
「なるほど。論文だと言われると、読む気はなくなりますね」
「あと、よくあるのは『理想』かな。戦争はいけない、命は尊い」
「ああ、確かに。共感しやすそうです。でも壮大すぎて難しそうです」
「そして少年も大好き『欲望』だ」
「う、いいじゃないですか」
「そうだ。間違いじゃない。需要も高いからな。ただ競争率も高い」
「それは……、そうですね」
「それに理想の自分や理想の世界、なんてのも欲望に分類されると思うぞ」
「言われてみれば……、でもややこしいですね」
「これは俺の捉らえ方だからな。今挙げたのがイコールテーマってわけでもなきゃ、一つに絞らなきゃいけないものでもない。ただ自分が何を書いてるのかは決めとかなきゃな。書いてる途中でコロコロ変えるもんじゃないだろ」
「そうですね。でも、何にすればいいんだろう」
「ファンタジー物語から『欲望』とって『日記』でなくすなら、『フィクションな日記』だな」
「さっき言ってた一番難しそうなやつじゃないですか」
「完全なフィクションにするとな。自分の中にあるフィクションを使うんだ。実際世の中にはこれが一番多いぞ」
「自分の中にあるフィクション? それはまた別なんですか?」
「おう。俺は『宇宙の卵』タイプと呼んでる」
「うちゅう?」
「自分の中にある世界観や設定を形にして、人に見せるものだ」
「確かに僕はそういう物を書いたつもりでしたね。でも『宇宙の卵』とか言うとカッコイイですね」
「だがこれは自分の中に秘めた宇宙の大きさが、そのまま面白さに比例すると言っていい。ちっぽけな奴が書いたんじゃちっぽけな物になる」
「う、僕の事でしょうか」
「俺に言わせりゃそんな奴はいない。引き出し方を知らないだけだ。しかしまあ自分にしかない部分を引っ張り出せる奴なんてそうそういないがな」
「そりゃそうでしょう」
「だがな、自分の世界、宇宙である事には違いない。誰に文句を言われる筋合いがない事も確かさ」
「でも、やっぱりみんなに認めて貰いたいです」
「ならそこを作るんだ。自分の中にあるものをベースにそれを好きになって貰うように工夫する。何に力を入れればいいかはっきりしただろう」
「うーん。理屈は分かるんですけど……」
「まあ全部一度にやる必要はないんだ。まずは引き出す事に専念しろ」
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