自分のスタイル
「しかしお前さん。デザイナーが渋る度に自殺をほのめかしてるのか?」
「そんな。ほのめかしてるだなんて……。だって、絵ができなかったら終わっちゃうじゃないですか。そしたらもう死ぬしか……」
「いや、そんな事はないと思うが……。なんかちょっとした名物みたいになってるぞ。『しょうがねえな』という感じで受けてくれてるみたいだが……。まあ、自分のやり方を見つけたんならそれもいいか」
わたしは本気ですっ、と膨れる真奈美に髭は「まあ真剣なのは大事だが……」と頭を振る。
「しかし、それで作業者が少し偏ってると思うぞ。それにノッてくれる人と、通じない人がいるわけだからな」
「だって、この人一番上手いんですよね。だから」
「デザイナーにも個性はある。模倣、小さな絵、イラストから起こせる、3Dとそれぞれ得意分野があるからな。それを全て把握して分担させるんだ。仕事を頼み易いというだけで、あまり集中させるんじゃない」
世の中には残業するのは仕事ができない奴だという認識を持つ者もいるが、未だゲーム会社では適用されない。
作る側だって上手い人に頼みたいし、遊ぶ側だってクオリティが高い方がいいに決まっている。
仕事の早さだって遅いより早い方が重宝される。
だから必然的に仕事が早い、または上手い人に作業が集中してしまう。
「なら直接言ってくださいよ。わたしより、先輩の方が説得力あるでしょう?」
「オレは外注だからな」
「じゃあ作業の注文だけでも直接やり取りしてくださいよ。あれがもう大変で」
「作業の発注は必ずディレクターを通さなくちゃならん。急に素材が必要になったからって作業者の所へ直接行ってはダメだ。誰がどんな作業を発注したのか、ディレクターは全部把握しておかないといかん。他のデザイナーも直接オレの所に来ないよう言っておけ。まあ、ここの連中はそれくらい分かってるが」
それでも忙しくなると抜ける事もある。
「抜けちゃうとどうなるんですか?」
「例えばバグ、つまりゲームの中でおかしいと思う事があったら、バグ報告が上がってくる」
普通はそれがプログラマーに届いて直すわけだが、中には正しいものもあったりする。
一見バグに見えるがそれでいいものだ。
たとえば通り抜けられる壁があったが、それは隠し通路だ、とか。
たとえば攻撃の剣が相手に当たっていないのにダメージを受けている。だがアクションゲームじゃないんだから、攻撃の動きを見せているだけで、接触させる事は前提していない、とか。
そういう場合、「これは仕様です」と報告者に返す。
だが稀にプログラマーが「自分には直せない」という理由で仕様にする場合がある。
プログラマーから「仕様」で戻った場合、ディレクターも了解の上での仕様なのか、プログラマーが勝手に仕様にしたのか分からない。
「担当者はいちいち確認に来なきゃならん。返って手間だろ?」
「うーん。でもわたしが大変だしぃ」
「まあプロジェクトが大きくなったら各パートごとに担当者を分ける。今回の規模なら一人で大丈夫だ」
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