●カンカンカンが聞こえる
その後もいくつか怪談を語っていると、あっという間に一時間が過ぎた。そろそろ切り上げどきだ。
「さて。お別れの時間が近づいてきましたが……その前に。冒頭にお伝えした、ビッグニュースの発表に移らせていただきます。……告知その
わたしは横目で、ひかりと視線を合わせた。
ひかりが
「朝日奈ひかり、
ぱちぱちぱち、と手を叩きつつ、マイク前をひかりに譲る。抜けるように白い肌をほんのり上気させて、ひかりがフォロワーに語りかけはじめた。
「えっと。これまでは、ヤミちゃんがひとりで
「ひかりのほうから提案してくれたのよね」
もともとわたしから誘ったんだから当然といえば当然だが、ひかりはこれまで、配信に対しては割と受け身な姿勢だった。そんな彼女が能動的にチャンネル運営に関わろうとしてくれたのは、純粋にうれしい。
「というわけで、これからはひかりのアカウントでもみなさんの体験談や、知り合いから聞いた怖いお話を募集していきます。DMや
「あ。えーっと、@KWAIDAN_ASAHINA_HIKARI。……です」
「ありがとう。みなさん、よければぜひフォローしてくださいね。これまで使っていた@KWAIDAN_YAGAMI_YAMIのアカウントは、引き続きわたしの個人アカ
わたしはたっぷりタメを作ってフォロワーを焦らしてから、その名を高らかに告げる。
「『ディバイン・ベルズ』とのコラボ動画作成が決定しました――ッ!!」
ぬっふっふ、そうよのうそうよのう。
こんな場末の(って、自分で言ってりゃ世話ないが)配信を
ディバイン・ベルズ。
フォロワー数、10万人以上。
UMOVER事務所に所属している、三人組の女子高生怪談ユニットだ。UMOVE怪談界隈では指折りの有名人と言ってよい。
人気の
わたしたちは先月、そんな
そしてその場で、一緒にコラボ動画を撮らないかと打診されたのである。
フォロワーには秘密だけれど、本当はもう、収録の日時も決まっている。
来週――七月第三週の木曜日。終業式のあと、撮影に直行する予定だ。
ちなみに、撮影場所は廃校になった小学校らしい。
怪談のテーマも場所に合わせて「学校」と決まっており……今日の配信は、そのために厳選した学校怪談の
「いつものような生配信ではなく動画でのコラボとなりますから、そこはお間違えのないようにしてくださいね。詳細についてはまた後日、改めて告知させてもらいます。それでは、闇に魂を惹かれたフォロワーのみなさん。また来週、怪奇と幻想の世界でお会いしましょう。よければチャンネルフォローと『いいね』ボタン、お願いしますね。……ごきげんよう」
「ばいばーい」
* * *
配信を終えたわたしは、帰宅するひかりをマンションの廊下まで見送っていた。
「じゃあ、木曜に」
「うん。……ぼく、なんかドキドキする」
「わたしもよ。……まあ、あんまり気負い過ぎず、平常心を心がけましょ」
「そうやね。じゃあ、ばいばーい。……あれ?」
「なんか、今日は
……踏切ぃ?
「別にこのへん、電車なんて通ってないけれど……聞き間違いじゃないかしら?」
「あれ?」
わたしは物心ついたときからこのマンションに住んでいるけれど、電車の音が聞こえてきたことなんて、一度もない。
ひかりは一瞬、大きな目をぱちくりさせると、首を
「……そうかもしれんね。じゃあバイバイ!」
結局、何も聞こえなかったのだろう。
軽い足取りで、徐々に青みがかってゆく夕闇の向こうへと去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます